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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
五章 真理のゴーレム編

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156 個人レッスン一回目 魔術言語(1/2)


 テストまで残り六日。


 わたしが通わされている魔法学園は、テスト前の準備期間で授業が減っている。


 減っているったら減っている。


 なのに、わたしは学園で、ディオール様から特別に個人授業を受けていた。


 ……なんで? 今日は授業なかったのに……


「あのぅ……わたし、お仕事があるんですが……」

「奇遇だな。私もこれが仕事なんだ」


 すごく嫌そうなディオール様。


「なぜか突然、第一王子から正規の手続きで厳命が下った。とにかく婚約者と仲良くしてこい、とな」

「これ、なかよし……ですかねぇ……???」


 仲良しってなんかもっと……わたしとフェリルスさんみたいな……


 心温まるやつだと思う!


「ふたりで過ごす。まっとうな学園生活を送らせる。つまり個人授業だ。完璧に要件を満たしているな」


 投げやり。


 ディオール様の無表情からは、少しも心温まってないのが見て取れる。


 ちょっと疲れてるのかな?


 ゆっくり休んで、よーく考えたら、違うって分かりそうなんだけど。


「だいたいアルベルトは私に雑用を押しつけすぎなんだ。貴様の家来じゃないと言ってやれるものならどんなに楽か」


 わぁ、呼び捨て。


 よほど怒ってるんだろうなぁ。


「わたしも殿下にお願いしてみましょうか? 最近のディオール様、忙しすぎですし……」

「いや、いい」


 ディオール様は世の中すべてを諦めきったかのように、皮肉っぽく笑う。


「押しつけられた雑用の中で、これが一番マシだった。君と遊んでいる方が気楽だ」

「あ、これ、遊んでるって認識なんですね……」


 わたしはシゴキを受けてる認識なんだけど……


 まぁいいか。


 ディオール様が気楽なんだったら好きにさせてあげよう。


 ディオール様がロウ石を握って、黒板の前に立つ。


「いいか? 今日は魔法学だ。君なら知っているはずの、基本中の基本からいこう。これで必ず君も初歩的な魔術用の言語は理解できるようになる。魔道具用のものと根底は同じはずだからだ」


 その台詞も聞き飽きました。


 ディオール様、いつも『君ならできる』って言うけど、わたしが期待に応えられないせいで、だんだんイライラしてくるんだよねぇ。


 ディオール様によるとこの辺の言葉の起源はひとつの古代言語だから、わたしが知ってるものも仕組みが似ている(はず)、ってことなんだけど、わたしには全然似てると思えない。【魔術式】って人間の話し言葉と全然違うもん。


「誰もが使える魔法のひとつに、【ともし火】がある。光の女主神ルキアの力を借りて魔法のろうそくを灯す魔術だが、この魔法が優れているのは、どの言語で祈りを捧げても発動する、ということだ。どんな言語の、どんな文字でも祝福が授けられる、ということは、それだけ女神ルキアが強大だということを表わしている……」


 わたしは眠くなってきた。


 ディオール様は字がきれいだなぁ、と、スレートの黒板にさらさら書かれていく文字を見て思う。ちなみに、なんて書いてあるのかは全然読めない。


 読めなくても、書き写すのは得意だ。


 写実的なデッサンは上手だってよく褒められるからねぇ!


 さも分かっている風に頷きながらノートを取っていると、ディオール様が、こつん、とロウ石のスティックで黒板を叩いた。


「今書いたのはどちらも同じ【ともし火】の呪文だ。上がキャメリア中央部の話し言葉で、下が古代から連綿と受け継がれてきた魔術言語」

「上は読めます!」


 分かっている部分だけ強めにアピールすると、ディオール様も頷いてくれた。


「そうだ。主に下が魔法学で使われる言語で、上のように、それ以外の地域性が強い方言や言語で使われる魔法を、【生活魔法(コモン・マジック)】と言う。君が得意なのは生活魔法の方だったな」

「はい!」

「では、君の得意な魔法と照らし合わせながら、下を解読していこう。まず……」


 ルキア様の呪文はわたしも知っている。だから、上は分かる。


 でも、照らし合わせているはずなのに、下は本当に全然分からなかった。


「……どうだ? ついてこれるか?」


 わたしは勢いよく首を振った。


 分からないことは分からないとちゃんと言う、これ大事。


「使ってる単語がなんとなく似てることは分かったんですけど……」

「分かったのか……そうか。すばらしい。それで?」


 問題の一行目。


 Chantons les trois principes.


 Principia ternorum canamus.


 わたしはふたつの文章を睨みつつ、言う。


「単語の順番が入れ替わっちゃうのはどうしてですか?」

「……………文法が違うからだが……」

「あ……」


 すごく馬鹿なことを口走ったと悟って、わたしは慌てて取り繕う。


「そうですよね、文法が違ったら入れ替わりますよね……う、うっかりして、ました……」


 ディオール様は肩を震わせて何かに耐えていた。


 小さな「そこからか……」という呟きが聞こえて、ひやりとする。


 お……怒らせたかな?


「いいだろう。よくも悪くも、君の発想は私を超える、ということだ。そこでつまずいているとは、想像もつかなかった。ある意味天才にしか至れない領域だ」

「え、えへへぇ……」

「しかし、その理解で今までどうやってあんな高度な魔道具を――いやいい。苦手箇所が分かったんだ。とりあえず一歩前進だ。いっそ面白くなってきた」


 ディオール様の情緒がだんだんおかしくなってきた。


 なんでか、薄ら笑いを浮かべている。


「では二行目。こちらは文法まで同一だ」


 全部で五行の呪文のうち、二行目から五行目は文法もほぼ一緒だったので、そんなに難しくなかった。


「これなら分かります! すごく似てるんですね!」

「もともと同じ言語の派生だからな」

「でも、一行目だけ違うんですね。魔術言語の方は、冠詞もついてないです」

「ああ、そうだ。よく気づいたな。魔術言語の数詞には冠詞と不定冠詞が存在しない。しかし、冠詞は君にも分かるのか……」


 失礼じゃないですか?


 わたしはこれでも日曜学校で簡単な読み書きは習いましたよ?


 と思ったけど、ささやかすぎる知識なので口には出せなかった。


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― 新着の感想 ―
>「そこからか……」 >ディオール様の情緒がだんだんおかしくなってきた。 笑ってしまった…ww これが1年生の教科書の例えば3/100ページとかだとすると、マントの解説は3年生の99/100ページ位…
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