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【書籍・漫画化】魔道具師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道具を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~【五章再開】  作者: くまだ乙夜
五章 真理のゴーレム編

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155 リゼ、無理矢理勉強させられるフラグが立つ


 サントラール騎士団は、王家の家臣として国土中央の直轄領を守護する、国内最大の騎士団だ。


 彼らは史上においても過去最大の規模となり、中央部の国民から絶大な支持を得ている。


 現サントラール騎士団長ル・シッドのあだ名が『副王』となったことで、キャメリア王家は騎士団の力を恐れるようになった。魔獣の討伐が出来る程度には強くあってもらわなければ困るが、玉座を乗っ取れるほどの力を持たせておくわけにはいかないのだ。


 王家はよくも悪くも統治を専門としている。道路の敷設や外壁の建設、その他、慈善活動のすべてを一手に引き受けている関係上、兵を統率する余力はない。


 目に見える魔獣の被害から街を守ってくれる騎士団に支持が集まり、陰から王国を支える王家に批判が集まるのは、ある意味、王国が正常に機能している証とも言えた。


 ――と、大局的にものごとを見られる人間ばかりだったらよかったんだけどね。


 第一王子のアルベルトは冷ややかにそう思う。


 どうにも国内情勢が芳しくない。他国が攻めてくるという非常に珍しい事件が起きた数年前から、王家への批判が高まりすぎている。


 サントラールも、現在の騎士団長に代わって以来、むやみに戦力を増強していたが、戦勝後にはますますその動きを強めようとしていた。


 アルベルト第一王子が緊急の課題としているのは、サントラール騎士団の勢力を削ぐことだった。


 彼らの手綱は王家が握っていなければならない、というのが代々のキャメリア国王の方針であったし、現国王である父親も一貫してその姿勢を保っている。


 父王の判断がすべて正しいとは思っていないが、ことサントラール騎士団の戦力増強路線においては、国王以上に強い危機感を抱いていた。


 騎士団攻略の方法はもう見つけている。ひとつが失敗してもいいように、いくつか並行して計画を進めてはいるが、もっとも集中して取り組んでいるのは隠し武器の捜索だった。押収できれば戦力を殺げ、なおかつ、反乱を計画していたかどで罰することができる。


「どこかに魔獣素材が隠されているはずなんだ」


 アルベルトは王都の地図を会議室のテーブルに広げ、配下の貴族や騎士団員たちに指し示してみせた。サントラール騎士団の本部は王都の中心からやや外れたところにある。そこからさらに離れた場所に、本格的な設備を擁していた。


「まずは騎士団の敷地を捜索したい。禁制の武器を隠し持つとしたら、兵舎本部ではなく、もっと郊外の演習場や墓地だと思うんだ。そっちなら警備も手薄だと睨んでる」


 本気のつもりだったが、傍らで聞いていた家臣の文官は肩をすくめた。


「うかつに動くとまた反撃されますよ。テウメッサの狐のときに大量の執政官が消されたことを忘れたのですか?」


 予想できた反応だ。この文官は父親からつけられた目付役で、アルベルトに慎重な行動を促す責を負っていた。


「大丈夫。こっちにもいろいろと準備がある」


 この場に集めたひとりひとりの顔を検める。戦力的にはサントラールの精鋭に比べると格段に劣るが、仕掛ける方法をよく選べば、勝てはせずともそう簡単に「負け」はしない。


「今回、ようやく手が出せそうな戦力が揃った。この機を逃したくない」


 アルベルトは机に用意されていたものを手に取る。


 【姿隠しのマントタルンカッペ】だ。


「現状で十枚あるから、隠密行動には足りている。でも、もっと枚数が多いに越したことはない」


 そのため、本物を研究員たちに預けて、仕組みを解明させている最中だった。


「解析させて長いけど、そろそろ何かつかめた?」


 研究員たちからは逐一報告が上がってきているが、全員に現状を共有する目的であえて尋ねる。


「主にアルテミシア嬢の試作品と比較する試験を行いました。仕組みは根本的に、発想から異なるかと思われます」

「作り方を提出させた分はどうだったかな。あれから何か掴めた?」

「その書類なのですが……」


 学者のうちのひとりが、非常に言いにくそうに切り出す。


「申し訳ないのですが、もう少しなんとかなりませんでしょうか……?」


 書類はリゼに作らせたものだが、目にした研究員たちから寄せられた苦情はかなりのものだった。『説明が幼稚』『幼稚を超えて意味不明』『必要な過程が百段階ぐらい飛ばされている』『内容に現実味がない』『いっそ直接聞き取り調査をさせてくれ』


「まだ無理だよ。もう少し本人の言語能力が向上するまで待たないと。今何とか魔術を学習させているから、待ってほしい」

「しかし、この内容……アルテミシア嬢の設計書は、すばらしく理論的だったのですが」


アルテミシアの設計書の概要を、アルベルトは右から左に聞き流す――もう何度も聞いたので、真新しさはない。


「ただし、この理論ではとても【姿隠しのマントタルンカッペ】には至れないでしょうな」

「まったく無理だろうね。そこがリゼルイーズ嬢の天才性かな」


 同じ姉妹で、姉にもそれなりの才覚があっただろうことはアルベルトも知っている。技術的な研鑽に差があるのは当然としても、高い理解力を備えたアルテミシアが理論を再解釈し、みずから再現可能な範囲にまで威力を絞った設計書の中身がこの程度の出来なのだとしたら、リゼは姉などはるか及ばぬほどの高みにいる、化け物、ということになる。


「どちらにせよ、もっと数がいる。私たちが現状作れる範囲の【姿隠しのマントタルンカッペ】もどきの性能ももう少し上げておきたい。リゼルイーズ嬢のかわいい説明ももっと深く解析できるだろうしね」

「……そうでしょうか……」

「もちろん、今後も継続して彼女からも詳しい説明を引き出すように努めるよ」


 魔道具師の少女は勉学を激しく嫌がっているが、婚約者からの指導であれば比較的大人しく従うようだ。何か適当な理由をつけて、公爵に勉強を教えるよう促す予定だった。


「とにかく。さしあたっては、タルンカッペもどきの性能向上を目指して、次はヒト型の魔獣でも狩りに行こうか」



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