152 せーの、どっかーん!(2/2)
そもそもの話、魔力が一点に集まるなんて、当たり前すぎて、一度も意識したことはなかった。
魔力は勝手に集まって塊になる。
塊は、さまざまな環境の揺らぎを受けて、そのうちに拡散する。
逆に言えば、強い働きかけがなければ、魔力はずっとそこに溜まり続ける。
魔術を使うときは集中させる。
魔術を阻害させるときは拡散させる。
基本的な技だ。息を吸うのと同じぐらい、普通にできる。
ただ、魔道具はもっと仕組みが複雑で、単純な【集中】とかそういうのとはちょっと違う、ような……
「あんまり使わないかもしれません」
悩みつつ回答すると、先生がいっそう怒気を強めた。
「なぁぁぁにを言っておる!! ほぼすべての魔道具で使うだろうが!」
「そうでしょうか……?」
わたしは頭の中にあふれる魔道具の情報を、うまく整理できないままに、早口でまくしたてる。
「毎度毎度周囲から魔力をぎゅっと集めて魔道具を動かすとすると、魔力が薄い場所や、たまたま途切れたところでは使えなくなってしまうので、冗長性というか、まわりから魔力を取り込めない時用の分岐も用意しておきますし、だったら威力が高いものはもう最初からそれだけ積めば足りるというか……小型のものはそうしないと容量が足りないというか……」
ベラベラと話しながら、わたしははたと気がついた。
にゃーん……?
そういえば、魔道具を作るときは、【魔術式】の書き込みに周囲の魔力を取り込む。
あれも、言葉で説明するのは難しいけど……
要するに、一か所にまとまる魔力の性質を利用してくっつけてる、かも?
あれ……?
もしかして……
わたしもかなり【集中】の法則使っているのでは……!?
わたしはようやく点と点がつながって、とてもすっきりした。
あれが【集中】の法則なのかぁ……なるほどぉ……知ってたけど、知らなかったなぁ……
だとすると、魔道具に心当たりがある。
「……ありました。今思い出しました。この場で作れます」
「ほほう!? やってみせたまえ!」
許可が出てしまった。
じゃあやっちゃってもいいよね?
わたしはいてもたってもいられなくなって、いつも使ってる【短縮魔法】から、必要な【魔術式】を引っ張ってきた。
大きな魔力の塊を作って……ぼっと燃え上がらせる。
ボールぐらいの大きさの火の玉ができた。
先生がさっと青ざめる。教室もざわざわとした。
ディディエールさんだけが涼しい顔をして、防御用の呪文を唱え始めた。生まれつき水の魔力を大量に保有しているので、このくらいの火は全然怖くないのだろう。
「な、何をしておるのかね!? 威力を下げなさい! 教室を破壊する気か!」
聞こえません。だって先生やっていいって言いました!
わたしは夢中になって、火の玉から大きな炎の揺らぎを生み出した。ゆらゆらと赤い炎が揺れる。
そしたらこの弾を、まっすぐ飛ばす!
わくわくしていたわたしは、威力を間違えてしまった。
先生のところにまっすぐ飛んで行き、途中で止まることなく、進んでいく。
「と、止めろ! 止めなさい! ええい、どうして【拡散】せんのだっ!?」
先生が一生懸命に魔術阻害を撒いているけれど、全然消える気配はなかった。
それは当然だ。わたしの得意技だもんね。
ディディエールさんがすっと手を伸ばして、生徒側に大きな水の幕を張る。
さすがはディオール様の妹さん。的確な状況判断に淀みのない動作での魔術!
わたしは満を持して、火の玉を破裂させた。
「せーの、どっかーん!」
ふざけきったわたしのかけ声で、先生が悲鳴をあげてその場にうずくまり、なけなしの結界を発動させる。
それでも爆発は結界を貫通して、二度、三度と赤い光が先生を照らし出した。
先生はその場で気を失ってしまった。
「せ、せんせい!? 先生!! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄った女子生徒が、傷ひとつない先生にびっくりしている。
教室も無傷で、爆発から逃れようと阿鼻叫喚の地獄絵図だった生徒たちも、互いの無事を確認しあって、きょとんとしていた。
「安心してください、【幻影魔術】ですよ」
「さすがですわ、おねーさま!」
ディディエールさんが興奮したように、よく響く可愛い声を張り上げる。
「本物にしか見えませんでしたわぁ! 先生も見抜けなかったのですから、やっぱりおねーさまは凄腕の魔道具師なんですのね!」
「へへ……それほどでもぉ」
「まぁ! ひけらかさないなんて、とっても格好いいですわぁ。おねーさまなら、学校の先生を懲らしめてさしあげるくらい、なんでもないのですわね」
そういうつもりはなかったけど……うーん。
「ディディエールさんまで落第させちゃったら大変ですからねぇ」
「わたくしのためでしたの? もう、おねーさまったら」
両手でほっぺを挟んで、照れているディディエールさんは、とっても可愛かった。
ディディエールさんが喜んでくれたおかげか、ラッキーなことに、わたしのいたずらは教室のみんなから責められることはなかった。
――でも、当然のように、わたしは後で先生に呼び出された。




