【コミカライズ記念番外編】作品紹介小話~リゼ、無自覚チートを披露して公爵さまに呆れられる~
・無自覚チートな魔道具師のリゼちゃん紹介小話
・時系列は五話~十五話前後
『氷の公爵様』といえば有名な魔術師で、うちの魔道具店のお得意様。
たくさんの注文を受けることで、裏方のわたしも、どんな人なのかは間接的に知っていた。
でも、確かにこの人が『氷の公爵様』だ! って納得してしまったのは、初めて顔を合わせたとき。
すごく綺麗な男の人に、氷みたいに冷たい目で睨まれたときだったんだよね。
***
「何か用か」
わたしは公爵さまに内心ビクビクしていた。つい先日、『言うことを聞かなければ死刑にする』と言われたばかりだ。
勇気を振り絞って、口を開く。
「お借りしたお洋服がちょっと大きすぎるので、少し、針と糸を貸していただけたらなぁ、って」
ぎゅっと肩を縮めた拍子に、右肩がずるりと落ちた。
ワンショルダーになってしまったワンピースと、わたしの貧相な肩が公爵さまの視線に晒される。
と、とんでもないものをお見せしてしまった……!
肩を引っ張り上げ、わたしは悲鳴に近い声を上げる。
「お、お借りしたものなので、もちろん傷めないようにします……! わ、わたし、ずっと仕事で魔法のドレスを作ってたので、縫い物も得意で、ちゃんとほどいたら元通りに」
「余計な気は回さなくていい」
公爵さまがぴしゃりとはねつけた。石膏の彫像みたいなお顔と、無表情の取り合わせがとっても怖い。
ひえ……! と、恐れをなしていると、公爵さまはさらに短く、もうひと言付け加えた。
「フィッティングに人を呼ぶ」
理解するのにしばらくかかった。だって、お洋服を縫うのはわたしの仕事――と思っていたから。
「どうしてですか? わたし、自分でできますよ」
「体調が戻るまでは何もするなと言ったはずだ」
公爵さまが冷たく言ってから、一時間もしないうちに洋裁店の人が来てくれて、服を直してくれた。
帰っていくお店の人と入れ替わりで、公爵さまがまたやってきて、具合はどうかと尋ねてくれる。
「直してもらいました! もう大丈夫です!」
と言った端から、また肩がずるりと落ちた。鎖骨が丸出しになる。
またしてもみすぼらしいものを……!
慌てているわたしをよそに、公爵さまは眉ひとつ動かさない。
「まともに修正もできないとは。違う店を呼ぶか」
「いっ、いえ、難しかったんだと思います。わたしが小さくて、痩せっぽちだから」
布が余りすぎていて、洋裁店の人も四苦八苦していた。
「こういう襟ぐりの空いたお洋服って難しいんですよ。体型って千差万別ですから、立体のメリハリが全然違うんです。特に若年層の女性向けは、成長段階でめまぐるしくサイズが変わるので……採寸したそばから合わなくなることもあります。既製品では難しいのではないでしょうか」
「だからといって肩が落ちるのも直せないのはおかしいだろう。十センチ単位でサイズを間違えているじゃないか」
「あーそれは……型紙を取る人と縫う人と、営業する人が全部別なんじゃないでしょうか……これはハサミを入れないとダメなやつですよ」
うちの店はお姉様がデザインすることもあるけど、製作はほぼわたしがやってたからねえ。
「わたしだったらその場でハサミ入れて直しちゃうところですけど」
公爵さまは何が面白かったのか、ちょっとだけ感心したように唸った。
「君だったらどう直す?」
「え……? そうですね、つけ襟を足します。襟の分の布はここのドレープを外して……芯材は少しコルセットの布を……」
無言の公爵さまに気づいて、わたしは喋りすぎてしまったかな? と焦った。
「来てくれた人はパタンナーさんじゃないんだと思います。あれはまた別の部門にしちゃうことが多いので」
「難易度が高そうではあるな」
「そうでもないですよ? 本人がいれば骨格とかも分かりますんで。ただ、失敗したら替えがきかないですんで、高級店では――」
「骨格……? 骨格が分かるとはどういうことだ?」
公爵さまが食い気味に遮ったので、わたしは戸惑った。
なんか変なこと言ったかな?
「骨格があって、肉付きがありますよね」
公爵さまが何に驚いているのかが分からないので、それ以上の説明ができない。
「えーと……骨格の感じが分かると、何となく分かってくるので……」
「何を言ってるんだ……?」
なんで呆れられてるんだろう?
「ええっと……実物を目で見たら、なんとなくぴったり合うように作れるんです」
「本当に何を言ってるんだ?」
公爵さまはもっと呆れてしまった。
怒らせると怖い人だという認識があるので、わたしは不安になってきてしまい、考えがまとまらないまま喋る。
「ええとその……肉付きって、骨の上に乗っているものなので、まず骨格を捉えると、立体が綺麗に作れるようになる……と、言えばいいんでしょうか……とにかく、服飾師はその人を見れば骨格が分かるものなんです」
「その道五十年の医者か?」
「えっ……お医者さんは、見ても分からないんですか?」
公爵さまが怪訝そうな顔をしている。ちょっと間抜けだなんて口が裂けても言えないけど。
……やっぱり怒らせちゃった?
ビクビクしながら顔色を窺っているわたしに気づくと、公爵さまはやれやれというように息を吐いた。
「無茶苦茶だな、君は」
そう言った公爵さまは、あんまり怒ってるように見えなかった。むしろ、楽しそう……?
「飽きないよ」
すごーく優しい声をしていたので、わたしはますます戸惑った。
***
『氷の公爵様』は、あだ名通りの第一印象だったけど――
本当は冷たいだけの人じゃないのかも、って、そのとき初めて思ったのだった。
◆コミカライズのお知らせ◆
3/24、明日からコミカライズがコミックガルド様から開始予定です
「魔道具師リゼ、開業します」
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詳細は本日の活動報告でお知らせしております
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