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145 リゼ、ギネヴィアの櫛の販売許可をもらう


 わたしはなるべく真面目な顔をするように心がけた。


 ちゃんと、冗談じゃないって伝わるように。


「あのですね、わたし、ちゃんと知ってますんで……ディオール様がわたしと結婚しようって言ってくれたのも、別に好きとかじゃなくて……面白いからだって」

「……」


 ディオール様がこっちを向いた。


 うぅ、すごく冷たい目つきをしている。


 でもこないだのはわたしが悪いので、ちゃんと、誠意を見せないと!


「わたし、ディオール様にはすごく助けていただいたので、ちゃんとがんばって婚約者のふりをしようと思ってまして。あんまりうまくいってないかもしれないですけど、これからも練習はしていくつもりなんです」


 ディオール様を見上げて、わたしなりに一生懸命しゃべった。


「なので、もしもディオール様にきちんとした結婚相手が見つかったら、いつでも言ってくださいね! お相手の方に迷惑をかけないようにするので!」

「……」


 ディオール様はしばらくノーリアクションでわたしを見下ろしていた。


 あ……あれー?


 まだ謝罪が足りなかったかなぁ。


 不安でドキドキしてきたわたしは、焦って思いつきをしゃべる。


「わ、わたしは、ディオール様に好きって言ってもらえたらうれしいなーって思ってるんですけど、婚約するときに『勘違いするな』って釘をさしてもらったことは決して忘れませんので……!」


 ディオール様は手で額を押さえた。


 わたしはますます緊張する。


 そ……それはどういう意味?


「あ、あの、だから、大丈夫ですよ……試すような真似しちゃって、本当にすみませんでした……」


 ディオール様は両手を軽く胸の高さに挙げて、わたしの発言を制した。


「分かった。いろいろと言いたいことはあるが、少し考えてからまとめて言いたい。保留にしておいていいか?」


 うえぇ……


 よく考えてからお説教したいって……こと?


「ほ、ほんとに分かってますんで、強く怒らないでほしいです……」

「怒ってはいない」


 ディオール様は呆れているようだった。


「ただ、何がどうしてそういう結論になるのかが分からない」


 そ、そんなに分かりにくかったかなぁ?


「あ、あの……」

「もういい。今の状態じゃ君に何を言っても無駄だろう」

「は、はい……」

「悪気がないことも分かっているから、もう気にするな」


 お、お許しが出た……!


 あーよかったぁ。


 この数分、生きた心地がしなかった。やっぱり人を試すのはよくないことだよねぇ。


 それからわたしは時間を潰させてほしいと頼んで、ディオール様とお部屋でのんびりすることにした。


 ディオール様はいつも通りに接してくれて、わたしも本格的にリラックスできた。


「すこぶる評判が悪いな、王立の騎士団は」


 ディオール様がぽつりとそう言ったのは、集団訓練を行う校庭を窓から眺めていたときだった。


「え……何でですか?」


 めっちゃいい感じってアルベルト王子が言ってたのに?


「魔獣資源を食い荒らしているからだろう。各騎士団にはシマがあって、お互い領域を侵さないんだが、王立騎士団は全域で暴れている。しかも、高値で売れそうな魔獣を集中して狩っている」

「そんなの……魔獣の被害にあって困ってる人たちに、高値とか、縄張りとか、関係ないと思います」

「その言い訳が通用する相手ならいいんだがな」


 ディオール様は淡々と言う。


「なんとなく、この先どうなるかが見えてきたな」

「ど……どうなるんですか?」

「各騎士団が反発することは確定だろう」


 ディオール様は本当にどうでもよさそうで、聖典でも棒読みしてるみたいだった。


「まったく嫌らしいやつだな、第一王子は」

「……殿下は、魔獣の被害に合っている人たちを助けたかっただけだと思います」


 ディオール様はかわいそうなものでも見るかのように、わたしを見下ろした。


 ディオール様って、表情あんまり変わらないのに、こういう表現はすっごい上手。


「そこだよ。おそらく違うことを考えてるはずなのに、まだ君にそう思わせてるところが特に嫌らしい」

「む、むやみに人を疑うのはよくないと思うのでぇ……」


 わたしが小さく抗議すると、ディオール様はやさしげな声で「そうだな」と言った。


「何にせよ、君はしばらく忙しいかもしれないな。陛下の言うことをよく聞いて、騎士団の装備を作るといい」

「……それって、大丈夫なんでしょうか? わたし、よく知らないのに、危ないものを渡しちゃったり……」


 せっかく作った『ギネヴィアの櫛』も、ディオール様にダメ出しをされた。


 位置の測定を数メートルから、数百メートルに広げるように、って。


 それだと遭難している人を発見できないかもしれないと抗議したら、最低でも三百メートル以下は詳細表示しないように言われた。


 わたしのマーカー魔術の座標指定が暗号化で読めなくなっていても、直線距離が正確に分かると目視で当てられてしまうらしい。


 誤差数メートル程度なら、位置を変えて測定し直していけばほぼ当たるって言ってた。


 さらに遠視の技術と組み合わせれば、千メートル以上先の長距離からでも当たりかねないと言われてしまった。


 人間って怖いね……


 わたしはただ遭難してる人を助けたかっただけなのに、すごい方法で悪用する人もいるんだなぁ。


 ディオール様は肩をすくめた。


「こうなった以上はどうしようもない。不安になったら私に相談するといい」

「はい」


 ディオール様が親切な人でよかった。


 わたしがどんなにアホなこと聞いても、怒らず根気よく教えてくれる人ってそういない。


 学園に来るようになってから、特に感じるようになった。


***


 ――というわけで精度を落とした『ギネヴィアの櫛』。


 ディオール様からも許可が出たので、わたしは一般向けに販売してみることにした。


 とりあえず、カップルの皆さんにはぼちぼち好評。


 ウラカ様もお店に買いにきていた。


「あっ、とうとう恋人が見つかったんですね? おめでとうござ――」

「いないわよ?」


 笑顔で発言をかぶせられ、わたしはヒッと悲鳴をもらした。


「いないけど、もうすぐパーティイベントが目白押しなの。人から哀れまれたくないわ……!」


 ウラカ様の悲しすぎる偽装工作に、わたしも心で泣きながら協力することにした。


「あたかも人からもらってつい受け取ったけれど、わたくしは興味がないように振る舞いたいの。できるかしら?」

「ええっと、はい――それでは、『カルメン』なんかどうですか?」


 男性からカルメンの真っ赤なモチーフのものをもらうのは、もうたまらなく好きってことだよね。


「いいわね。赤ならきっと目立つでしょうし」

「それで、男性からの重たい贈り物なので、野暮ったくて、あんまり女性の流行ものは分かってない感じで」


 わたしは炎の渦巻き装飾のラフを見せた。


 こってりしたデザインに、ウラカ様が顔をくしゃっとする。


「かわいくないわ……」

「野暮ったすぎましたか。じゃあ真っ赤な薔薇のモチーフで、立体的に、どばーんと」

「だいぶいいわね。いかにも一方通行な片思いをしそうな、冴えない男のチョイスよ」


 ウラカ様はさらにしょんぼりした。


「……そんな男にも相手にされないわけなのだけれど……」

「ウラカ様、おきれいでお話もしやすい方なのに……」

「ありがとう、リゼ様だけよ、わたくしを慰めてくれるの」


 そういえば、片思いの相手からもらったアクセサリなんかつけてたら、ますます恋人ができにくくなるんじゃないかな? って思ったけど、言うのはやめておいた。


 哀れまれたくないっていうのが第一希望だもんね。


「つらいわ。世の中のカップルが全員憎いわ」

「サントラールの騎士団にいい感じの人とかいないんですか?」

「全然ダメね。王族はいないのよ」

「いたらびっくりですよ……?」

「もう外国の王族でも狙おうかと思い始めたの」

「それもアリですね!」


 ウラカ様には注文をもらい、また後日の引き渡しとなったのだった。


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