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144 リゼ、ディオールと話し合う


「そんなことでディオール様は自分の経歴に傷をつけていいんですか? っていう……結婚するなら、ちゃんとしたご令嬢とした方がいいですよ……きっと」


 これは本当にそう思う。


「まぁ、わたしは庶民の娘ですし、婚約しててもしてなくても別に……魔道具師をしてたら結婚しなくても生きてけますしね」


 クルミさんはまた両手でわたしの手をぎゅっと握り直した。


「……ご主人様は言葉が足りずに誤解されやすい方でございますが、リゼ様はとても誤解なさっていると思います」

「えっ……」


 真剣な表情に、何も言い返せなくなる。


「ご本人様の心情を第三者が憶測で語るのも憚られますので、どうかこの件についてはもっとお二人でお話し合いになってくださいませ」


 クルミさんの真摯な態度に、わたしもつい気圧されてしまって、うなずいた。


「……わ、分かりました」


 ――でも、何を話し合えばいいんだろう?


***


 わたしはクラスメイトとディディエールさんがカードゲームをする輪に混ぜてもらっていた。


 最初は小さいコたちにひとりだけ放り込まれたのが恥ずかしかったけど、最近は慣れた。


「まあモンブランさん、また三位でしたの?」

「必ず三位で終わるジンクスは健在ですわね」

「うぅ……」


 なんだか楽しそうで、わたしも嬉しくなる。


 わたしの正体バレしたときに、ディオール様の婚約者って情報も出回っちゃったから、ディディエールさんも巻き添えでまたイジメられるんじゃないかなぁって思ってたけど、今のところそういうこともない。


 ディディエールさんがいい子なので、ちゃんと友達になれたってことだと思う。


 結局わたし、ディディエールさんのフォローとかなーんにもしてない。


 ディディエールさんが自分で勇気を出して学園にきて、髪のことも説明して、友達を作ったからねぇ。


 よかったねぇ。めでたしめでたしだよ。


***


 わたしはお店でアニエスさんと雑談していた。


「でね、礼法の先生が、第一段階合格って言ってくれたんですよぉ!」

「まあ、よかったじゃない。あなたがんばってたものね」

「えへへへへ……」

「それでディオール様にも――」


 話の途中でふと思い出す。


 そう言えば、アニエスさんにいたずらで仕込まれた芸のせいで、すごい誤解が発生したんだった。


 わたしはそのときのことを思い出して、いたたまれなくて変な声をあげてしまった。


「急にどうしたの?」

「アニエスさんがぁ……わたしに変なこと言うから、ディオール様に誤解されたじゃないですかぁ……!」

「なんの話?」


 アニエスさんはすっかり忘れてたらしく、わたしの説明を聞いて大笑いした。


「あぁら、あの男、そんなことを言ったの。とても愉快だわ」

「笑いごとじゃないんですよ……!」


 アニエスさんが魔女的な笑みでわたしをニヤニヤと見返してくる。


「どうして? 笑えばいいのよ。あの男だってあなたを笑っているのだから、少し翻弄してやるくらいでないと」

「翻弄……できてますかねぇ……???」

「もちろんよ。きっと今ごろあの男もそのときのことを思い出して奇声を発してるに違いないわ」

「ディオール様はそんなことしないですよぉ……」

「いいえ、絶対してるわ」


 アニエスさんは自信たっぷりだった。


「愚かよねぇ。言うべきことを言わずに婚約者って立場にあぐらをかいているからそうなるのよ。少し反省したらいいのだわ」

「な……なにについて……?」


 アニエスさんはにっこりした。


「それはリゼが自分で見つけ出すことよ」


 何を言われてるのかはよく分からなかったけど、笑ったときのアニエスさんは本当に楽しそうで、きれいだなーって見惚れてしまった。


「そうだ、この際だから、新しい言葉をいくつか覚えていかない? 撃退するのに役立つわよ」

「も、もう間に合ってますぅぅぅぅ……」


 わたしは丁重にお断りしたのだった。


***


 わたしは大きなホールの壇上に立たされていた。


 ホールにはいっぱい男子生徒と女子生徒がいて、びしっと一分のすきもなく整列している。


 わたしは生きた心地がしなかった。


 なんでこんなことになってるんだろう?


 アルベルト王子に「魔道具のことで相談があるから、一時間くらい付き合ってくれない?」って言われたからついてきただけなのに。


「王立魔道具師協会、首席魔道具師のリゼルイーズ嬢に敬礼!」


 どこかから号令が飛び、みんな一斉に見慣れないポーズになった。


 な、な、な、なにこれぇ……


 とっ捕まってつるし上げられている罪人の気分で震えていたら、アルベルト王子が「楽にしていいよ」と命令を発し、わたしに向き直った。


「今日は報告をと思って。先月結成した王立騎士団の人員は、ひとりも欠けることなく無事に一か月過ごせたんだ。すべて君たち魔道具師のおかげだよ。ありがとう」


 だ、だからってこんなつるし上げみたいな方法取ることあるぅ?


 個室で一対一で話してくれるほうがよかったなぁ。


「討伐件数とその詳細もさっきまとめて陛下に提出したけど、なかなかすごいよ。高位魔獣は四割がたうちで討ち取ってる。それも、新任の学生たちがだ」


 へえ、すごそうに聞こえる。


 魔法学園の生徒さんたちは優秀なんだなぁ。


「私たちには経験も知識も足りない。それでも大過なく魔獣が狩れたのは、魔道具の力によるところが大きい」

「いやぁそんな……討伐に行った皆さんの功績ですよぉ」

「特に顕著だったのは、魔石だと思う。これが作れるのは国内だとリゼルイーズ嬢だけなんだ。――みんなも実際に触れてみて、違いを実感したことと思う」


 アルベルト王子が半ばみんなに聞かせるようにして喋っている。


 わたしは褒められて舞い上がるより先に、ビビりまくっていた。


 こ、こんな大勢の人たちにそれ紹介しちゃったら、なんか変な人に目をつけられないかなぁ?


 ああでも、魔石は別に販売制限とかかけてないから、いいのかな?


「自分たちが今あるのは彼女の功績だということをしっかり胸に刻んで、これからも励んでほしい」


 釘をさしてるぅ。


 王子様なのに騎士たちからなめられて困るようなことを以前言ってたから、わたしを褒めることで、丸く収める魂胆なのかなぁ。


「ともあれ、私は正しい心を持った仲間をこれだけ大勢持てたことをうれしく思う。テウメッサの狐が暴れているとき、王家は無力だったけれど、やっと民を守れる力を持てた」


 王子、本当に心を痛めてたからなぁ。


 自分の手で魔獣をなんとかしたかったんだろうなぁ。


 ちゃんと実現するなんてすごい。


 穏やかなトークでみんながなんとなくいい気分になったところで、集会は終わったのだった。


***


 授業と授業の間がちょっと空いてしまった。


 こういうときにひとりでいると危ない。


 今の時間って、誰が空いてるんだっけ?


 困ったわたしは、ひとまずディオール様の準備室に行くことにした。そこなら確実に場所が分かるし、いなかったら別の人を探せばいい。


「あの……こんにちは」


 ディオール様はちょっとぎくりとした様子だった。


 思いっきり目をそらされて、わたしは地味に悲しくなる。


 やっぱりこないだのいたずらの件、怒ってるのかなぁ。


 そういえばお詫びが済んでなかったと思い、わたしはまずそこから切り出すことにした。


「クルミさんから聞きました。知らなかったとはいえ、紛らわしいことを言ってしまってすみませんでした。それでわたし、ちゃんとお話をしなきゃって思って」


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