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139/182

139 ヒーロー、遅れて登場する


 さて、こんな物騒な魔道具、二度と使えないようにしとこ。


 わたしは手あたり次第魔法陣に斬りつけた。魔法陣の構成が放つ淡い光が点滅して、消える。


 水平線から太陽が昇るように、光が真横からあふれ出した。


 ――何かの蓋が開いた。


 そう思ったとき、また目まいがした。


***


 箱の外に出てきたのだと思う。


 わたしの足元には、壊れた箱が転がっていた。


 そして外には、引き続きピンチが待っていた。


 男子生徒が驚きのあまり目を見開いている。


「まさか……破壊したのか!? 擬ドワーフ様式のアーティファクトだぞ……」

「えっと……ここはどこですか?」


 輸送中なのか、幌馬車の荷台にいるっぽい。

 薄暗くて、すごく揺れてる。


「大人しくしていろ。そうすれば怪我はさせない……って、話聞けよ!」


 わたしは無視して幌馬車の後ろを開き――


 すぐにシャッと幌を閉めた。


 すごく怖いものを見てしまった。


 ちらっとしか見てないけど、冒険者っぽい怖そうな人たちがたくさんいた、ような……


 怯えているわたしの背に、男の子の呆れたような声が届く。


「君が王都で一番という報告があがってきてたけど、この状況を切り抜ける魔道具は作れそうかい?」


 わたしは静かに首を振った。


 無理に決まってる。


「だったらおとなしくしていてよ。アーティファクトだって大事なものだったんだから……」


 そこで男の子はふと真面目な声になった。


「それにしても、どうやってあれを壊したの?」


 どうやってだろう。それはわたしにも分からなかった。


「……不思議な女のひとの声がして、助けてくれたんです」


 男子生徒は眉を寄せた。


「何それ? 頭は大丈夫?」


 分からない……わたしもどうかしちゃったのかな? と思う……もう何も分からない。


 人間には絶対に記述しきれない、巨大な立体型魔術式と、これまた容量不足で絶対に入りきらなかったはずの格納スペースが、宇宙みたいに広くなってたこと。


 どっちもわたしの実力を超えすぎていて、何が起きたのかすらよく分からなかった。


「まあいいや。この魔道具を壊せるぐらいなのだから、実力はありそうだね。大人しくしているうちはこっちも丁重に扱ってあげるから、逃げ出そうなんて考えないでね」

「……逃げたらどうなるんですか?」

「うちの規則だと死罪だよ」


 さーっと青ざめたわたしに、「でも」と男子生徒が言う。


「君の腕次第では罪一等減じてくれるかもね。足を切り落とすくらいで許してもらえるかも」

「大人しくしています!!」


 わたしは姿勢を正して隅に座り直した。


 暴力怖い、暴力反対。


「それにしても、こんなにちっちゃい女のコがねえ……私は少年に見える容姿を買われて潜入してたけど、君もそうだったりするの?」

「えっと……見た目よりはもうちょっとお姉さんです……」


 あんまり言われたくないことだったので、お姉さん、のところを強調して胸を張ると、男子生徒はしみじみとうなずいた。


「小さく見えるのって便利なこともあるけど、人に言われすぎると腹立つよね」

「そ、そうなんです」

「君も苦労しているね」


 すごく親身になって話してくれて、わたしは意外に思った。


 ……あれ? この人も実はいい人なのでは?


「分かるよ、あんまり一人前扱いしてもらえないんだろう?」

「それは……しょっちゅうですね」

「私もだよ。潜入スパイなんて敵に見つかったらその場で処分される危険な仕事なのに、いつまでも騎士団内では下に見られてるんだ」

「お、お兄さんも大変なんですねえ……!」

「そうそう」


 男子生徒は苦笑する。


 ――わたしはついうっかり、男子生徒と意気投合し、話し込んでしまった。


 それからどのくらい経っただろうか。


 ふいに外から悲鳴が聞こえた。


 男子生徒が幌を開いて、何事か尋ねる。


 わたしもその後ろから、はっきりと見た。


 どこかから大きな魔法が飛んできて、地面に当たるところを。


 魔法を中心に、地面が一気に凍りつく。


 馬車の車輪も凍って、動かなくなった。


 わたしはつんのめって、あやうく外に放り出されるところだった。


「あたたた……一体何が……」


 道がスケートリンクみたいになっている。


 大人たちはパニックを起こしかけていた。「狙撃だ!」「魔術師はどうした」「結界を張れ結界を!」


 すると、すごく遠くから、獣の吠え声が聞こえてきた。


 ――ゥオオオオーンッ!


 今の聞き覚えのある鳴き声は……


 さらに、何かが高速で近づいてきた。


 残像が突風のような速度で部隊の後方に追いつき、止まる。


「いよう、待たせたな、リゼ! ゥワオオォーーーーンッ!」


 小憎らしいごあいさつをしたのは、魔狼のフェリルスさんだった。


 革のハーネスを身に着け、うしろにソリを引いている。


 大きな舟型のソリから、ディオール様が面白くもなさそうな顔で降り立った。


「なぜここが……」


 男子生徒が呆然とつぶやく。


「やはり君の魔道具は危険すぎるな。かなりの精度で狙撃できる」


 ディオール様はそう言って、トネリコの魔樹のコームを取り出した。


 ハーヴェイさんに渡しておいたやつだ。


 助けにきてくれたんだ……!


 わたしは感動しつつ、違うことが引っかかった。


 ……あれ? なんだかフェリルスさんが……


「フェリルスさんが……大きくなってるー!?」


 ディオール様の背丈より大きい。


 するとフェリルスさんはバウバウ吠えて、嬉しそうにした。


「ご主人からたくさん魔力を分けてもらったのだっ! 魔力が充実すればこの通りっ!」

「すごいすごいすごーい! フェリルスさんすっごいです!!」

「よせそう褒めるな! アオーーーンッ!」


 ディオール様ははたでやり取りを見ていて、少しだけくすりとした。


「まぁ、元気そうで何よりだ。さっさと帰るぞ」


 ディオール様は何でもないことのように言い、周囲の人たちひとりひとりを地面にへばりつかせ、気絶させていった。


 水でも炎でもないので、何をしているのかすらよく分からない。


 でも強いのは分かる。


 バタバタと順番に人が倒れていき、最後にわたしと男子生徒だけが残った。


「お前には聞きたいことがある。雇い主は誰だ?」


 ディオール様の声かけに、男子生徒は鼻で笑った。


「喋ると思ってる?」

「なぜリゼを狙った?」

「そりゃあ可愛かったから。連れ去ろうと思ってさ」


 ディオール様は冗談に笑いもしなかった。


「勇気のある死に方を選びたいようだな」

「やめてよ。ケガ一つ負わせてないでしょ? 可愛い女の子だから気を遣ったんだよ、これでも」

「……もういい。不快だ。【落ちろ】」


 ディオール様は問答を打ち切って、さっさと男子生徒を倒してしまった。


「リゼ――」

「リゼェェェェッ!」


 ディオール様がわたしのところに来るより早く、フェリルスさんが突進してくる。


 いつものサイズのフェリルスさんだ。戻ったときにサイズが合わなかったのか、ハーネスも外れていた。


 どーんと飛びついてくる。


「無事だったか!? もう大丈夫だぞ!!」

「はい!」


 フェリルスさんの頬ずりを受けていたら、後ろの方に立っているディオール様がじっとわたしを見ていた。


 なんとなく、寂しそうな気がしたけど、そんなわけないよね。


 フェリルスさんとひとしきり無事を確認しあい、ほっとしたのも束の間、わたしは大事なことを思い出した。


 マルグリット様、道端に置き去り……!

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