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133 リゼ、尻尾を巻いて逃げ帰る


 サントラール騎士団長ル・シッドの査問会。


 魔獣素材の横領容疑および、国王文官が連続してテウメッサの狐に襲われた事件について。


 彼は嫌疑不十分で釈放されることになった。


 ――あと一歩のところで逃げられた。


 アルベルトは悔しい思いをしていた。


 詳細を追及しきるには、国王文官があまりにも多く消されすぎていた。


 消えたメンバーこそがサントラール騎士団の魔獣素材の横領容疑を追及していた中核だったのだ。


 残された人員と証拠だけでは、どうにもならなかった。


 ――まるでこちらの内実を把握していたかのようにピンポイントで狙っている。


 どこかにスパイがいるのかもしれないが、見事な手並みだと言わざるを得ない。


 サントラールは適度に騎士団の施設も襲わせていたため、騎士団長は自身も被害者だと主張し続けた。


 もうひとつに、魔獣の遺骸が消失した事件からの嫌疑も消されてしまったのが痛手だった。


 これまでにも何度かサントラール騎士団は強力な魔獣が消失したと虚偽の申し立てをして、魔獣素材を着服した容疑をかけられていたが、テウメッサの狐が消えてしまったことで、一気に信憑性を帯びてしまったのである。


 このラインからあまり強く追及すると、今度はこちらがテウメッサの消失から不利をこうむる可能性がある。リゼを狙われかねないのだ。


 リゼという駒ひとつでサントラール騎士団を潰せるのならそれほど悪くはない取引だと国王は言ったが、これにはアルベルトが反対した。


 リゼは必要な人材であるし、ディオールもおそらく彼女が捕らえられれば王家から離反するだろう。


 ――倉庫から消失した魔獣素材の行方も結局つかめないまま、か。


 どうやら、今回は負けを認めるしかなさそうだった。


 ――焦る必要はない。資金源を断って、長期戦に持ち込めば、必ず勝てる相手だ。


 問題はその前に実力行使に出られることだった。


 ――リゼルイーズ嬢にはもっと魔道具を作ってもらわなければね。


 実のところ、それが一番の難問だった。


***


 わたしはギネヴィアの櫛を作るにあたって、ちょっと悩んでしまった。


 受け取る人はたぶん髪の毛なんて渡されても困るしねぇ。


 魔力がこもれば何でもいいのなら、魔石でいいのでは?


 そうしよう。


 小粒の魔石を裸で渡されても困るだろうから、指輪にでもしとこう。


 飾り気のない銀の指輪にしとけばそんなに邪魔じゃないはず。


 ついでに、適当な黒い布をきんちゃくに仕立て上げる。


 分厚いベルベットは魔術を通さないので、位置情報を取られたくないときは布袋に入れておけばオッケー。


 そして位置情報をキャッチする櫛の部分。


 わたしはトネリコの魔樹を使って、幅が短めのコームを二個作った。


 手のひらサイズの櫛くらいなら、男性でもポケットに入れて持ち歩いても邪魔じゃないでしょ。


 彫刻は騎士とお姫様っぽい感じで!


 ふふふ、いい感じ。


 魔杖にも使われる素材なので魔術式がすんなり乗った。


「できたぁ!」


 ディオール様には暇を見つけてそのうち渡そう。


 そしてわたしは用意した櫛のもう一方をハーヴェイさんに渡すことにした。


「最近、わたしがお店と学校で行き来してること多いじゃないですか。行き違ったりするのは辛そうなので、わたしが今どこにいるか分かるやつ作りました! 時間通り迎えに来たけどいない……とかいうことがあったらこれで見て、わたしがディオール様と一緒にいたら待たなくていいので!」

「それは助かります」


 ディオール様と一緒だったら安全だからねぇ。


「でも変なところにいたら誘拐かもしれないので助けてほしいです!」

「それはもちろんです。そのための護衛ですので」


 よかったぁ。


 これでハーヴェイさんも待ち時間減るよねぇ。


 もっといいのは伝言機能なんだけど、それはちょっとどうすればいいのか分からないや。


「学園にはもう慣れましたか?」

「いやぁ~~~、怒られてばっかりですねぇ! わたしは物覚えが悪いので、何もかもダメ! って言われてます」

「それは……自分も長いこと魔力なしと罵られておりましたので、心中お察しします」

「全部ダメって言われると、『そっかぁ……』ってなりますね! わたしのような者が何をしても結局世界は変わりませんし、空も青いですし、ごはんはおいしいんですよねぇ」

「思いのほかノーダメージですね」

「諦めたらそこで心は平穏になるんですよぉ……!」


 ハーヴェイさんとどうでもいい話をして気を紛らわせて、また明日の活力にしたのだった。


 あとはディオール様に発信リングを渡すだけだなぁ。


 朝の行きがけの馬車で同席したときに渡してもよかったんだけど、ディディエールさんの目の前でやり取りするとなんだかのけ者にされてる気持ちになっちゃうかもしれないと思ってやめにした。


 まあいいや、そのうちね。


 わたしは平常通り授業を受けて、またヌーヴィル先生に怒られつつ、礼法の授業は選択していないディディエールさんと合流しに、教室に戻ろうとした。


 すると――


 真っ赤な髪の毛の女の子が前からやってきて、わたしの前で立ち止まった。


 マルグリット様のサロンで会った、名前は確か――


 ドミニクさん。


 彼女はなぜか、わたしをにらんでいた。


「ごきげんよう、ドミニク様」


 ビクビクしながら呼びかけてみると、ドミニクさんは怒りの形相でわたしに詰め寄った。


 ビビりまくってものすごく後ずさるわたしに、ずんずん近づいてくる。背中が壁にぶつかり、逃げ場がなくなった。


「な、なななな、なん――」

「あなた、あのアルテミシアの妹なんですってね?」


 バレた。


 うわああああ、すごく怒ってるし、絶対これまずいやつ。


「学園を引っかき回して王家の威光に泥を塗った恥知らずの庶民の親族が、よくもまあのこのこと学園に顔を出せたものね?」

「あ、姉のことは、わたしも申し訳なく思ってます……うわっ!?」


 頭のてっぺんの髪をつかまれて、ぐいぐい引っ張られる。


「い、痛いですぅぅぅぅ!」

「お黙りなさい、あなたのような図々しい庶民は体罰でしつけるのが一番なのよ!」

「ぼ、暴力反対いぃぃぃぃ!」

「さっさとこの学園から去りなさい、さもなければあなたの正体をみんなの前でバラしてやるわ! 両殿下をお守りする騎士団が、決してあなたを許しはしないわよ!」

「わ、わわわ分かりましたぁぁぁ! 今すぐ出ていきますぅぅぅ! ハゲちゃうからやめてぇぇぇ……!」


 みっともなく喚くわたしに毒気を抜かれたのか、ドミニクさんがフンと鼻を鳴らして手を離してくれる。


「行きなさい。今度マルグリット様のそばをうろちょろしたらこんなものでは済まないわよ!」

「はいいいい!」


 わたしは何も持たずに一目散に校門を抜けて、自分のお店に逃げ帰った。


 お店についたらクルミさんがちょっと驚いた顔で出迎えてくれて、わたしは気が緩んでしまい、声を出して泣いてしまった。


「うわああああん、クルミさんんんん!」

「いかがなさいました? まあまあ、御髪もこんなに乱して……」


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