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131 リゼ、知らないおじさん同士の抗争とは無関係に登校して一日を終える


 サントラール騎士団の一画、厳重に防音対策を施された会議室で、三名の騎士団員たちは厳しい顔をしていた。


「魔道具の禁止法案が通らなかった――だと?」


 壮年の副団長が信じられないというように眉を跳ね上げる。


「なんのために多大な犠牲を払って国王文官を挿げ替えていったのか。貴重な魔獣素材まで広範囲にバラまいて危険性を煽ったというのに」


 騎士団長のル・シッドはため息交じりに愚痴をこぼした。


 工作員を使って『火だるま舞踏会』を始めとした危険な魔道具による事件を起こし、テウメッサの狐対策で王家への不信を高めていったのも、魔道具を禁止させるためだったというのに。


 民衆の多くは国王がしているような文官による統治の内容など分からない。


 しかし、騎士団員が日々魔獣と戦っていることは、実際に目にして、知っている。


 そのため、どうしても王家よりは騎士団の方に支持が集まりやすいのは、キャメリア王国の歴史を通して、ずっと変わらなかった事実だ。


 現在のサントラール騎士団は、過去の歴史でも類を見ないほど支持を集めている状態だった。


 騎士団長が『副王』などとあだ名されるほどに。


 不自然すぎる名声の高まりは、ル・シッドの失策と言ってもよかった。


 王家が反乱への危機感を持つ前に、騎士団の力を多少なりとも縮小して、臣従の姿勢を見せるべきだったのだ。


 できなかったのは、彼の生真面目さゆえだった。


 騎士団員たちには少しでも安全に魔獣を狩らせたい。


 できるだけ多くの俸給を与えたい。


 王都の民ができるだけ犠牲にならないようにしたい。


 ――すべて叶えるように注力したら、大きくなりすぎてしまったのだ。


 ル・シッドが手をこまねいている間に、いつしか王都には不穏な流言が飛び交うようになっていた。


 ――いわく、ル・シッドは遠い昔に枝分かれした王家の末裔である。


 ――彼の統治能力は現国王をしのいでいる。


 これらのうわさは、謀反の疑いを強めるには十分だった。騎士団びいきの民衆が勝手にやったことだと信じたいが、ル・シッドは、国王の側がわざと流していたとしても驚かなかっただろう。


 騎士団長職は、過去には国王が兼任していた時代や、国王の指名で貴族が務めていた時期があったものの、現在は騎士団の内部に決定権が委ねられている。


 すると、国王には騎士団を統制する方法が限られてくるのだ。


 彼らは限定的な影響力の中でもなんとか騎士団をコントロール下に置こうと、国庫からの支援を打ち切り、サントラールに完全な独立運営を求めた。


 同時に、予算の完全公開を求め、魔獣素材の管理を徹底させて、資金の使い道を制限した。


 治安維持の名目で、強力な魔獣素材は王家に優先権があるとし、使用できる武器防具まで制限をかけている始末だ。


 資金面から統制をかけられた騎士団は、次第に劣悪な環境で魔獣と戦うことを余儀なくされていった。


 給与がまともに払えなくなり、騎士という名誉職へのあこがれや貴族としての体裁を餌にして、人員をかき集めなければならなくなった。


 魔獣素材並びに武器防具の所有制限が激しいため、貧弱な装備で強力な魔獣と戦わねばならず、人的な被害が増えた。


 ル・シッドは、単に騎士団員の身を案じて、守ろうと思っただけだった。よりよい環境で戦わせてやりたかった。


 国家間の戦争が勃発したときも、サントラールは魔獣の脅威から人々を守るための騎士団なのだから、くだらないことで人員を消耗しないよう、慎重に行動した。


 だいたい、戦争が発生したのは国王の外交政策の失敗なのだから、予算すら分けてもらえないサントラールが手を貸す必要があるとも思えなかった。魔獣狩りで消耗していない、怠惰な貴族たちで勝手にやればいいことだ。


 ――それが王家との緊張を生むなどとは想像すらしなかった。


『副王』というあだ名をつけられた時点で、もはや後戻りはできなくなっていたのだ。


 ル・シッドは、自分の身と、ひいてはサントラール騎士団を守るため、王家との抗争に備えざるを得なくなった。


 冷静に戦力を分析すれば、サントラール騎士団は国内の五大騎士団の中でも抜きんでて強く、王家の抱える貴族の軍よりもよほど強力な魔術師を多数抱えている。


 戦闘になれば負けはしないが、狡猾な王家が直接剣を交えることはないだろうとも分かっていた。


 養分を断ち、じわじわと根から枯らしていくつもりなのだ。


 ならば、戦闘を起こすにはどうすればいいか。


 騎士団の側に正義があると王都の民に思わせつつ、戦争を起こす方法は。


 様々な工作をするうちに、王家は意外な手を打ってきた。


「王立騎士団――でしたか。これが思いのほか幅を利かせていまして。看過できない邪魔者となりつつあります」


 報告を行っている騎士は、普段からスパイとして使っている人間だった。


「テウメッサの狐が大暴れしたせいで王家の信用も失墜しましたが、不安が煽られたおかげで新設の騎士団用の増税がすんなり決まりました。順調に討伐件数を伸ばしているため、信用の回復も時間の問題かと。しかも彼らは、高位魔獣を重点的に狙っています。それも、武器防具の主要材料となるような――」

「魔獣資源すらサントラールから奪おうというのか!」


 副団長の激昂ももっともだ。


 収入源まで断たれれば、サントラールはそう遠くないうちに崩壊する。


「……分からないのは、それだけの魔術師をどこから調達してきたのかだが」


 王都内の魔術師はほぼサントラールが掌握している。魔術師の等級試験もサントラールが請け負っているので、将来性も含めて、強力な魔術師のほとんどは確保している状態だ。


 高位魔獣を狩れるような人員は、ほとんどいないはずだった。


「学園内を探らせていますが、おそらく、魔道具によるものかと」

「十中八九そうだろうな」


 ル・シッドにはため息しか出ない。


 だから早めに魔道具を禁じたかったのだ。


 武器防具の魔道具師も、サントラール側で確保している。


 理想は騎士団の武具にのみ使用可能とすることだった。


「嫌になるな。しょせん私たちは魔獣を倒すだけが能の脳筋の集まりか。策を巡らされると手も足も出ない」

「まだ分かりませんよ。彼らが魔道具に頼りきりだとするのなら、魔道具師協会の人員を順番に狙っていけば一気に盤上はひっくり返ります」

「それしかないのか……」


 ル・シッドはうんざりしたようにため息をついた。


「非戦闘員を巻き込むのは騎士道にもとる」

「言っている場合でしょうか」

「魔獣をけしかけるのもどうかと思っていたんだ。予定より早く消えたときはホッとした」

「団長」


 ル・シッドは長いこと返事をしなかったが、最終的には決断を下した。

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