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124 ディディ、お兄様のお迎えが来る


「それで、国内には肌の傷跡を治す技術はないっていう風に聞きました」


 わたしが作った人工皮膚はあくまで特例で許可してもらったもの。今後わたしがちゃんとした医療の勉強をしたら商売に使っていいって言われたんだよね。


 で、その予定はないから、幻の技術になってしまった。


「だから、顔の形を変えるのはまだ無理ですよ」


 わたしの結びに、彼女たちは黙ってしまった。


 分かってくれたのかな? と思っていたら、彼女たちはめげずに、今度はディディエール様に話しかけ始めた。


「ディディエール様って、もう水芸はなさらないの?」

「いつも水をぴゅーぴゅー出してらしたじゃない」

「ねえ、あれ面白かったわよね、大道芸みたいで」

「――!」


 あはははは、と笑う子たち。


 ディディエールさんは下を向いている。


 わたしは自分がぶたれたような気分になった。


 特異体質のことを言ってるのなら、ひどい。


 ディディエールさんはそのことで思い詰めていたのに。


「髪の毛も……なんだかいつも……ねえ?」

「じっとりしてらっしゃるというか……」

「ちゃんとお手入れしてらっしゃるのかしら?」


 ひ、ひどい……!


 こ、こここれがお姉様の世界……!


 魔法学園では一見優雅でも血で血を洗う熾烈な蹴落とし合いが繰り広げられてて、隙を見せたらすぐ殴られるって話だったけど、本当だったんだ……!


 ディディエールさんは泣きそうになっている。


「ど……どうしてそんなこと言うんですか……? ディディエール様の髪は綺麗だと思います」


 わたしがややファイティングスピリッツを見せてそう言うと、おずおずとディディエールさんが口を開いた。


「わ……わたくしの顔は特に何も使っておりませんが、髪の毛は、はい……おっしゃる通り、です」


 怖いのだろう、ディディエールさんの声は震えていて、小さかった。


「わたくしは、特異体質なのですわぁ……水の魔力を集めやすくて、髪の毛が、いつも湿ってしまいますの」


 言わなくてもよかったのに、とわたしは思ったけれど、ディディエールさんは誠実だった。


「髪の毛に込められた呪いは解くのが難しいらしくて……わたくしの家の技術でも、治せてはおりませんでした。でも、最近、よくなる方法が見つかったのですわ」


 そうだそうだ、と思って、わたしも応戦する。


「最新技術で、髪の毛を加工して、性質から変えてしまうことができるんですよ」


 わたしはディディエールさんの髪の毛をすくって、さらさらとこぼしてみせた。


「このつやつやさらさらの髪の毛も、最新技術なんです! アゾット家と仲良くしていたら、こんなふうに綺麗な髪にもしてもらえるんですよぉ」


 わたしがさりげなく宣伝すると、彼女たちはちょっとだけ瞳を揺らした。


 さらさらーっと、髪の毛をすくっては落とす。


 きれいな髪になりたい子たちにはきっと響くに違いない。


「……魔法で加工して見た目を変えるなんて、気持ち悪いわ」

「不自然よねえ」

「そうまでして自分をよく見せかけたいのかしら? 浅ましいこと」


 わたしはちょっと落胆した。


 強情だぁ……困ったなぁ。


 事態が膠着したそのとき、さっと教室に誰かが入ってきた。


 周囲の人が一斉に注目する。きゃあっと、悲鳴まであがった。


「ディディ、ここにいたのか」


 ディディエールさんは一瞬で頬を赤く染めて、笑顔になった。


「おにーさま……!」


 ディオール様が現れたことで、女の子たちの空気も一変した。


 真っ赤になる子、口元を手で押さえる子、呆然と見惚れる子。


 思い思いの反応には一切目もくれず、ディオール様がディディエールさんの足元にひざまずく。


「初日だから心配していたが……今日は泣いていないか?」

「は……はい」

「友達はできそうか?」


 女の子たちの反応はすばやかった。


 我先にと前に出て、ディディエールさんのすぐそばに立つ。


「友人のマカロンです」

「ショコラです」

「フランです」


 ディオール様は――


 信じられないことに、にっこりした。


「おいしそうな名前だ」


 きゃあっとまた悲鳴が巻き起こる。


「あだ名なのですわ!」

「お菓子の名前で呼び合うのが流行っておりますの!」

「そうか。ディディはどんな名前をつけてもらったんだ?」

「わ、わたくしは……」


 女の子たちはディディエールさんを押しのけて、ディオール様の前に出た。


「今考えているところですわ!」

「とても綺麗な銀色の髪の毛をしていらっしゃるから、白い山モン・ブランさんでどうかしら?」

「あらいいわね! 銀雪を被った峰々が目に浮かぶようですわ!」

「モンブランおいしいですわよね!」


 ディオール様は嫌な顔ひとつ見せなかった。


 ……あれ、ディオール様だよね?


 大嫌いな女の子たちに迫られてるのに、全然塩対応じゃない。


 よく似た別人とか、ご兄弟ってこともないよねぇ……?


「仲良くしてもらっているようだな。安心したよ。よかったら今度、家に来てもらいなさい」

「行きますわ!」

「わたくしもわたくしも!」


 ディオール様すごいなぁ……


 一瞬で女の子たちを手懐けてしまった。


「ね、ねえ! こちらの方、新しい講師の方でしょう!?」


 女の子たちがディディエールさんに詰め寄る。


「上級生のクラスでしかお目にかかれないとうかがってましたけど、お兄様でしたのね!」

「早く教えてくださったらよろしかったのに~!」


 げ、現金……


 呆れていたら、ディディエールさんもしらーっとした顔をしていた。


「さ、モンブランさんもご一緒にお食事になさいません?」

「分けてさしあげますわ~!」

「メイドさんもいらっしゃいよ」


 せっかくディオール様がうまく取り持ってくれたんだから、少しは顔を立てて、馴染んでみないとねぇ。


「行きましょうか、ディディエールさん」

「……はい」


 こうしてわたしたちに、三人の新しい友達ができたのだった。


 ちなみにサンドイッチは聞いたこともないような白いソースが挟まっていて感動するくらいおいしかった。


 ……また食べさせてもらいたいなぁ。


***


 放課後、ディオール様がまた教室まで来てくれた。


「ご苦労だったな。迎えに来た。一緒に帰ろう」


 ディディエールさんがうれしそうにディオール様に手をつないでもらって、ちょこちょこ歩くうしろを、わたしもついていった。


 馬車のドアを締め切ると、ディオール様はそれまでの人のよさそうな演技をやめて、またぶすっとした顔になった。


「午前中はフォローに回ってやれなくてすまなかった。私も色々と手間取っていたんだ」


 うんざりしたように言うディオール様は、また一段と顔色が悪くなっていた。


 顔は怖いけど、ディオール様って聖人みたいな人だよねぇ。


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