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123 リゼ、転校生として紹介される

「それにボタンの細工が綺麗すぎるわね」

「彫刻が細やかで丁寧で、箔押しの色合いなんか本物の金みたい」

「姉が使ってたやつと同じなんです……」

「残念ですけれど、あれもよく思われてなかったようなの……貴族に対する挑戦だって言われていたわ。わたくしはすばらしい細工に貴賤なんかないと思うのですけれど……」

「……分かりました。作り直します……」


 そうすると糸を紡ぐところからかぁ。二、三日かかるかもなぁ。


 マルグリット様がうるうるの瞳でわたしを見つめていたかと思いきや、がばっと抱きしめてきた。


「ああ! こんなにも愛くるしいのに、作り直しだなんて! 学園って本当に窮屈ね!」

「私ももったいないと思いますわ、殿下」

「いやぁ、えへへ……」


 口々にほめてもらって、わたしは結構満足してきた。


 姉から色々押しつけられて辛かったけど、それも報われたような気分だ。


 わたしのがんばりは無駄じゃなかったんだなぁ……


「いつか、リゼが正体を明かしたときに、着ていけるようにならないかしらね。半分は王族なのだから、どんな素材だって文句は言われないはずよ」

「そうね! 最高の仕立てなんですもの、絶対に皆さんにもお披露目しなくてはなりませんわ!」


 こそこそと正体を隠して学園に行くのではなく、堂々と名乗って通えたら。


 そのときこそ、わたしは姉から自由になるのかもしれない。


 その日は遅くなってしまったので、解散することになった。


***


 学園の先生はとても厳しそうな女の先生だった。


「指導教員のヌーヴィルです。困ったことがあったらわたくしにお聞きなさい」

「はい」

「は、はい……」


 やだなぁ、怖そうと思いながら、ディディエールさんと一緒にガイダンスを受ける。


 学園では、共通の授業が半分と、残りは自分で選択して授業を受けるという。


「共通の授業を受けるクラスに連れていきます。さまざまな出自の方がいて、中にはお話をするのも恐れ多いような高貴な方々もおいでですから、くれぐれも問題を起こさないように」


 うぅ……問題を起こしたらすごく怒られそう。


 クラスのメンバーは十五人ほどだった。


「今日は編入生を紹介します。――さ、ごあいさつなさい」


 ディディエールさんは緊張で震えながら、それでもしっかりと声を出した。


「ディディエール・アゾットでございます……実家は代々錬金術師の家系で、わたくしも九級錬金術師の位を授かっております」

「リ……リゼットです。ディディエール様の侍女をしています」


 わたしの言葉遣いにヌーヴィルさんが少し眉をひそめたけれど、何も言わずにクラスの方に向き直った。


「アゾット家の方々は皆さまご承知の通り、三世紀前に王の庇護をお受けになり、わが国でも最古参の錬金術師の家系に数えられています。伯爵位相当の高貴な方々と考え、節度ある交流を心掛けてください」


 アゾット家の人たちってそんなに偉いんだぁ……


 と、侍女設定のわたしが感心してしまった。


 実はあんまりよく知らないんだよねぇ。


 魔術師・錬金術師は何級の魔術師かっていうのが重要らしく、一級の人たちは伯爵さまくらい偉くて、だんだん位が下がっていくっていうのがわたしの聞いた説明だった。


 でも、歴史のあるおうちの子は、等級を持ってなくても偉い人扱いになったりもするんだね。


 魔道具師が職人階級なのとは全然違うんだなぁ……


 わたしも王様に四級の魔道具師の資格をもらったことだし、偉いことにならないかなぁ?


 そしたらまた晩餐会でも全部のお料理取り分けてもらえるかも……!


「……リゼットさん、はやく席におつきなさい!」

「は、はい!」


 いけない、ぼーっとしてた。


 自己紹介が終わって、わたしたちはその日の予定を聞き、授業をした。


 ちなみにわたしは古代魔術文字が全然読めないので、授業は何を言われているのかすらさっぱり。


 音楽を聞いている気持ちで聞き流していたら、あっという間にお昼になった。


「おなかがすきましたねぇ!」

「お食事はどこでするのかしらぁ……」


 わたしとディディエールさんが困っていると、みんな思い思いにりんごやパンを取り出して食べたりしていた。


 わたしは嫌な予感がした。


「……もしかして、ランチボックスを持ってこないとだめだったんでしょうか?」

「そ、そうかもしれませんわぁ……」


 致命的なミス……!


 ごはんがないなんて……!


 この世の終わりの気分でしょんぼりしていると、ゴージャスなキンキラキンの貴族ボタンをつけた女の子たちがやってきた。


「あぁーら、あなたがた、もしかしてお昼ご飯を忘れたのかしらぁ?」


 おーっほっほっほ、と、高笑いをする女の子。


「まーまーまー、お昼もろくに用意できないなんて、錬金術師って大したことないのねぇ!」

「ほーんとみすぼらしいですわぁ! おお恥ずかしい!」

「お昼を抜くと力が出なくて勉学の効率が落ちるというものですのにねぇ!」


 そして女の子たちはこれみよがしに豪華なランチボックスを開いて、わたしたちの席に置いた。


「わぁ……おいしそう」


 わたしが率直に言うと、女の子は高笑いしながらフンと鼻を鳴らす。


「ま、つまらないものですけどぉ?」

「こんなの、毎日食べていてうんざりよねぇ!」

「でも、こんなものでも用意できないおうちがあるみたいよぉ?」


 きゃあー! と盛り上がる女子生徒たち。


「あ、あの……これ、わけてもらえない……でしょうか?」


 わたしが真っ正直すぎる質問をすると、女の子たちは笑いながらランチボックスを取り上げた。


「あげるわけないじゃなぁーい?」

「そうよそうよ! たかがローブの貴族のくせに伯爵気取りなんて、生意気なのよ!」

「しかも侍女づれぇ? 高位貴族ぶるのもたいがいになさって!」


 ひ、ひええええ……


 わたしはガタガタ震えるしかなかった。


 こ、これ、お姉様が言ってたあれだ……!


 庶民いじめ……!


 どどど、どうしよぉ……!


 おおおお、お姉様みたいにぶってくるかもぉ……!!


 パニックを起こしかけているわたしに、キラキラの金ボタンの女子生徒が意地悪くくすりと笑う。


「あなた、あのアゾット家の方なんですってね」

「道理で! お肌も髪もつやつやなのねえ、羨ましいわあ」


 くすくす笑い。


「でも薬で若返るのはやりすぎですわよねぇ」


 ……ん?


 何の話だろ?


「あなたのその綺麗な肌、どうやって作ったの?」

「お顔もどこまで本物なのかしら」


 ……いやほんとに何の話?


「アゾット家の錬金術ならどんな地味な女性でも美女に変身させてくれるって言うじゃない?」


 ……え、そうなの?


 確かにアゾット家は薬と化粧品の販売が主な生業と聞いたけど、用途はよく知らない。


 ディディエールさんの顔色をそっと窺い見たら、蒼白になっていた。


 金ボタンの子たちの言うことがほんとかどうかは知らないけど、いじめられて怖い思いをしているに違いない。


 だいたい、薬で顔の形が変わることってあるのかな?


 ないと思うけど……


 錬金術はそこまで万能じゃない。


「いやねえ、いくら顔を変えても心は美しくならないのに」

「あの……」


 わたしはつい口を挟んでしまった。


 だって、薬とか魔道具のことなら、きっとこの子たちよりわたしの方が詳しい。


「今の錬金術で顔の形を変えるのは無理だと思いますよ」

「は?」


 わたしは夢中になって説明を始めた。


「たとえば歯の治療には再生能力の高い魔獣の骨……ヒドラなんかを使うんですが、仮にヒドラの骨をいい感じに削りだして顔に埋められたとしても、傷跡が大きく残ると思います。顎や頬を削りだすわけなので」


 具体的で生々しい話に、彼女たちはたじろいだ。


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