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120 お兄様、お戻りになる


 わたしは、自分でやっておいて、呆然とした。


 ……嘘でしょう?


 こんなのは神様にしかできない芸当、のはずなのに。


 呆然としているわたしに、何者かがささやきかける。


 ――あなたに力を。


 ――どんな魔道具でも作れる力を。


 ――だからお願い……


 ――私の名前を呼んで。


「……リゼ、大丈夫か!?」


 フェリルスさんに服の裾を噛んで引っ張られて、わたしは意識を取り戻した。


「何か……今、誰かがいませんでした? 不思議な女のヒトの声が……」

「何にもなかったぞ、しっかりしろ!」


 ディディエール様も、不安そうにわたしを振り返っている。


 そうだった、今はディディエール様の髪の毛をどうにかしないと。


 わたしは髪を乾かす魔法を当てて、ディディエール様の髪の毛を乾かした。


「試しにディディエールさんの髪の毛に書き込まれている魔術式を壊してみたんですが、どうですか? まだ濡れてくる感じしますか?」


 ディディエール様はおずおずと頭のてっぺんに手を当てた。


「もう少し待ってみないと……あら? そういえば、冷たくありませんわ」


 わたしはクルミさんを呼ぶことにした。


「まあディディエール様、御髪のお色が……」

「たぶん治ったと思うんです。だから髪の毛かわいくしてあげてください」


 クルミさんは目を丸くしていたけれど、こくこくとうなずいた。


「かしこまりました。ではディディエール様、何色のリボンになさいますか?」


 鏡の前に座り直し、かたわらにリボンの束を置かれたディディエールさんが、自分の姿にびっくり仰天。


「か、髪の毛が……!」

「魔術式を根こそぎ壊しちゃったからでしょうか? 魔力が留まらなくなっちゃったんだと思います」


 ディディエールさんは頭を右に傾け、左に傾け、少しななめを向いて、泣きそうな顔になった。


「へ、へんじゃないですか……?」

「ぜんぜん! とってもきれいな銀髪ですね!」


 それでディディエール様は安心したみたいだった。


 ディディエール様はリボンの前で少し悩み、おずおずと、淡いライムグリーンのリボンをつかんだ。


 それから言い訳をするように、もごもごと言う。


「す……好きな色ですの……」

「いい色ですね!」


 クルミさんが魚の骨みたいに一本筋の通った複雑な編み込み頭をすばやく作ってくれて、前にもってきたおさげをリボンで綺麗にまとめてくれる。


「よくお似合いでございます」


「わーかわいい! せっかくなので、お顔の周りにも飾りをつけましょう!」


 わたしは仕事用の石箱から似た色のカット済み魔石を持ってきて、枠がついたヘアピンにちょいちょいとはめ込み、こめかみのところで留めてみた。


「どうでしょ?」

「わぁ……!」


 嬉しそうに何度も鏡を覗き見るディディエールさん。


「わたくしの、目の色……ちょっとだけ、緑に見えるんですの」

「あ、ほんとうですね」

「これだけは、気に入ってるの……」


 キラキラした瞳でぽーっと頬を赤らめて語るディディエールさんは、撫でくりまわしたくなるくらいかわいかった。


「お兄様、今日は早くお戻りになるかしら……」

「昨日、ディディエール様の御来訪はお伝えいたしましたので、きっとそうかと」

「楽しみですねぇ!」


 わたしとディディエールさんは、ディオール様が帰ってくるまで遊ぶことにした。


「今日こそお渡しできるといいのですけれど……」

「それ、なんですか?」


 ディディエールさんはポケットにしまっていた小さなベルベットの巾着袋を出した。


「わあー、かわいい! お守りだぁ!」


 ディディエールさんが見せてくれたのは、小さな銀のお守りだった。


 文字のようでもあり、幾何学模様のようでもある……


 何かのちっちゃいシンボルだ。


「交通安全のお守りなんですの」

「交通安全」

「ついこの間まで、怖い魔獣が出ていたから……お兄様が事故にあいませんように、って……」


 わたしはじーっとシンボルを見ていて、やっと分かった。


「ああ! これ、馬蹄ですね!」


 たぶん、馬蹄に何かが組み合わさった形なんだね。


 個性的な形で分かりにくかった。


 でもそう思って眺めると味がある。手づくりのよさ的な……


「銀を扱うの、大変だったでしょう? 危ない道具もたくさん使いますし」

「……ちょっとだけ」

「わたしも最初は火傷ばっかりしてたんですよねぇ」


 ちっちゃかったのもあって、両親に怒鳴られて叩かれて、大変だった。


 チャームの銀は溶かして固めただけなのか、鈍い輝きを放っている。


「磨き上げをもうちょっとしたら、もっと素敵になると思いますよ。やってみませんか?」


 といって、わたしは小さいヤスリを一式持ってきた。


 黙々と磨き上げ、ぴっかぴかにしたところで、途中でどこかに行っていたクルミさんが帰ってきた。


「ご主人様がお戻りになりました。すぐにいらっしゃるとの仰せでございます」


 ディディエールさんはそわそわしながら鏡を確認し、「ばっちりですよ」と太鼓判をもらうと、恥ずかしそうにはにかんだ。


 んー、かわいい!


「すまない、待たせて」


 ディオール様がノックもそこそこに入ってきた。


 またいちだんとやつれた様子がほつれた髪型から感じられたものの、動作はしっかりしている。


 ディオール様はディディエールさんの姿をひと目見るなり、息を呑んだ。


「お前……その髪は?」

「あ、あの……リゼ様が、治してくださいました……それで、お兄様に、見ていただきたくて……」


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