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12 リゼ、魔狼に認められる


「じゃあ、前のところでは何て呼ばれてたんですか?」

「奥様からは、アンと。でも、皆さま思い思いに呼んでいらっしゃいました」


 んんん?


 わたしの店は公爵さまのご実家とも取引があったから知ってる。


 あそこの家の奥さまって、お名前がアンリエット様じゃなかったっけ。


 自分の名前とほぼ同じニックネームを使用人につけるかなぁ?


「どちらからいらっしゃったんでしたっけ?」

「ここに来る以前のお屋敷ですか? 裕福なお年寄りの一人暮らしのところに住み込みで働かせていただいてました」

「あれ? 公爵さまのご実家からいらっしゃるって話だったんですけど……急に変わったのかな?」

「そうだったんですね。わたくしは別のところから参りました」

「ピエールくんに聞いてみようかな?」


 わたしが呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばすと――


 生真面目に控えていた女の人が、突然ふっと視界から消えた。


「……動くな」


 小さく脅され、喉元にはナイフ。


 わたしは息を呑んで卒倒しそうになった。


 えええええ、何この人!?


 暗殺者……にしても、わたしを狙う意味とかってないし……あ、狙いは公爵さまとか!?


 そうすると、これ、大ピンチ!?


「大人しくしていなければどうなるか……分かるな?」


 わたしは必死にうなずいた。


「今からお前に毒を飲ませる。私の言うとおりにできたら、解毒剤をやろう」


 もしかしなくてもわたしに公爵さまの暗殺を手伝わせるつもりとか?


 わたしはブルブル震えながら、それはダメだと思った。


 何の役にも立ってないわたしが公爵さまに迷惑かけて命の危険に晒すなんて、申し訳なさすぎる。


 せめておごってもらったごはん分くらいは役に立たないと!


 メイド暗殺者が小ビンに入った液体を飲ませようと私の口元に持ってきた隙をついて、わたしはとっさに、使い慣れている魔術を使った。


【魔糸紡ぎ】


 わたしは天才だった祖母から習って、純粋な魔力だけで作る石や糸なら、設備などなくても無から生み出せる。


 さらに、絶縁体の絹や綿と混ぜるのでなければ、補助バフの魔術も、限界まで乗せられる。


【時間加速千倍】


 わたしは一瞬で生み出した糸に、繭のように包まれた。


「妙な真似をっ……」


 メイドさんが驚いてナイフで繭を切り裂く。


 でも、その中にわたしはいない。正確には、入れ子構造のもう一方に隠れている。


「……!? どこに行った!?」


 メイドさんが繭の抜け殻に気を取られているすきに、わたしは即席で編んだ魔織を頭からすっぽり被る。


 この布、純粋な魔力だけでできているので、わたしの魔術がきれいに反映される。


 わたしは表面に、周囲の景色と同化する、幻影の魔術をかけた。


【幻影‐風景同化】


 これでわたしの姿は、肉眼では見つけられなくなった。


 わたしは息をひそめ、両手両足のよつんばいで、柔らかいじゅうたんの上を抜き足差し足忍び足。


 呼び鈴に飛びついて、激しく鳴らした。


 二度鳴らしたところで暗殺者メイドがわたしの位置に気づいて、正確に迫ってきた。


 ばさりと布を引きはがされる。


「……これは……姿隠しのマントか!? まさかすでに実用化されていたなんて……いや……待てよ?」


 暗殺者メイドは魔織とわたしを交互に見比べる。


 その顔は、なぜかとても嬉しそうだった。


「お前が作ったのか! 魔道具師ゼナの孫娘!」


 ナイフを持った手がわたしに伸ばされ、息を呑んだ。


 こ、殺される!


 今更のように怯えるわたしの耳に、ピエールくんの声が聞こえた。


「リゼ様、いかがなさいましたか」

「助けて! この人悪い人です!」


 暗殺者メイドはわたしの作った魔織を頭からかぶって、ニヤリと笑った。


「また会おう」


 周囲の景色に姿が溶け込み、見えなくなる。


 その瞬間、ドアが開いて、ピエールくんが飛び出してきた。


「リゼ様っ! ご無事ですか!?」

「はははは、はいぃっ……!」


 ピエールくんが油断なくあたりを見回し、あれ、という顔になる。


 すでに誰もいない。


 ドドドドッと力強い足音がして、モフモフの巨体が飛び込んでくる。


「小娘、無事か!?」

「お怪我はありませんか!?」

「だ、だだだだ、大丈夫でぇっ……」


 怖かった怖かった怖かったあああ!


 床にうずくまってガクガク震えていると、ピエールくんが手を貸してくれて椅子に座ることになり、そこにフェリルスさんが前足でのしっとのしかかった。


「……おい、ピエール! 椅子の振動機能が強すぎるぞ!」

「それはマッサージチェアじゃなくて、リゼ様のおみ足が震えていらっしゃるせいですね」

「お前、ビビリだな!」

「あああ暗殺者なんて初めて見ましたぁぁぁ……」

「ああ、うちでもそうめったにあることじゃない! しかし、よくやったぞ小娘! 俺が駆けつけるまでの時間を稼ぐとは大した度胸だ!」


 わっふわっふと犬っぽい笑い声(?)を立てるフェリルスさん。


「よくがんばった部下には褒美がないとな! 特別に俺のたてがみをモフらせてやろう!」

「えっ……いいんですか!?」


 フェリルスさんのたてがみは雪国仕様でコシが強くて毛の量が多くて、ふっかふかだった。


 フェリルスさんがふんがふんがと鼻を鳴らして、言う。


「……ちょっとだけ匂いが残ってる。さっき門を通ったばかりの新入りの女だな。あいつがお前に何かしたのか?」

「いきなり、ナイフで脅されて……」

「なんてやつだ! おいピエール、なんであんな怪しそうな女を通したんだ?」

「今日たまたまメイドが来る予定だったのを、どこかで盗み聞きしたのでしょうか……僕としたことが油断しました。もっとよくチェックしていれば、こんなことには……」

「フン、まあいい。罰するのはご主人の仕事だからな」


 フェリルスさんはわたしにバウバウとした。


「しかしリゼはお手柄だったな! 知らぬ間に紛れ込まれていたら厄介だった」

「はい、わたしのせいで公爵さまの命が狙われたらって思ったら、とっさに……」


 わたしは変な顔になった。


「フェリルスさん、わたしの名前……」

「お前は小娘とはいっても勇気があるからな! 勇敢な人間は認めてやらねばなるまい!」

「フェリルスさんっ……!」


 わたしはなんだか感動してしまって、しつこくフェリルスさんのたてがみをモフモフしてしまい、しまいに「やめろ」と怒られたのだった。


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