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114 リゼ、フェリルスを懐柔する


「よかろう。魔道具師リゼには魔法学園の入学を授業料全額免除の上で許可し、好きな授業だけ選択して受けさせる権利をやろう」

「やったぁ! お父様だぁい好き!」


 マルグリット様に抱きつかれて、王様はデレデレしている。


 うわあああ、と思いながらディオール様の方を振り返ったら、話は全部聞こえていたらしい。


 ディオール様はこの混乱の最中でも無表情だった。


「ディオールよ、そなたもちこう寄れ」

「――は」

「それで、そなたは何とする? わしとしては、そなたに大魔術の講義をしてほしいんじゃがのう。ちょっといって、軽く指導してはくれぬかのう?」


 王様にそう言われてしまっては、ディオール様に断れるわけがない。


「……敬愛する陛下の御心のままに」


 ディオール様は表情を取り繕えていても、声が震えていた。


 王様は機嫌よく笑い始めた。


「うわっはっは、すまんのう、先だっての頼み事もまだ解決せんうちからまたそなたを頼ることになって!」

「陛下の喜びが、わが喜びでございます……」


 ディオール様、心にもなさそう。


「代わりといってはなんじゃが、そなたも魔法学園への出入りは自由にしておくゆえ、魔道具師と連れ立って散歩でもするとよい! ええのう、婚約者と学び舎を同じうするとは、そなたも幸せ者よの!」


 ディオール様、絶対嫌がってると思うな。


 でも、王様がそう言ってお祝いしてくれたので、これはめでたいことだという雰囲気ができて、ディオール様には何の反論もできなくなった。


 ――そして、様々な人の無責任な善意があらぬ方向に舵を取り、わたしとディオール様の学園生活がスタートするのだった。


 ……そんなぁぁぁぁ……


***


「リゼ? どうしたの、どこか具合でも悪い?」


 次の日、アルバイトに来てくれたアニエスさんが、わたしの顔を見るなりそう言った。


「なんか変ですか?」

「この世の終わりみたいな顔をしているわ」


 わたしは魔法学園に入れと言われたショックから、一晩経っても抜け出せないでいた。


「どうかしたの? 体調が悪いなら、お店は私とハーヴェイさんに任せて、奥で休んでいたら?」


 ハーヴェイさんは午前中ずっとお店番をしてくれていたけれど、午後からはアニエスさんが来てくれたので、壁際に立って、『自分、護衛ですが』という顔をしている。


「実は……」


 アニエスさんは事情を聞くなり、嬉しそうな顔になった。


「あら、じゃあリゼも学園に行けるのね! よかったじゃない! 一緒にランチしたりしましょうよ!」


 わたしはもう泣きそうだった。


 そ、そうだー! アニエスさんがいたー!


「わ、わたし……! アニエスさんとずっと一緒にいたいです……!」

「へ!?」


 アニエスさんがぼっと顔を赤らめるのが、涙でにじんだ視界でもちょっとだけ見えた。


「で、でないと、でないとぉぉぉ……!」


 わたしみたいなタイプは「イラつくからイジメたくなるんだ」と姉もよく言っていた。


 きっと学園でもすぐに人から嫌われて、いじめられるに違いないのだ!


「ど、どうしたの、あなた、今日変よ!?」

「ど、どうしよう、おね、おねえ、お姉さ、」

「落ち着いてちょうだい、お姉さんがどうしたの?」

「お姉様みたいな人ばっかりだったらどうしよう~~~~」


 アニエスさんは虚を衝かれたようにぽかーんとしたけれど、すぐに笑い出した。


「いやね、リゼ、それはないわよ?」

「で、ででででっでもぉぉぉ……!」

「アルテミシアさんは色んな意味で特別な人だったわ。あそこまで気性の激しい方はそういないから安心なさい」

「でも怖いんですぅぅぅぅ!」


 アニエスさんはわたしの訴えに、苦笑しつつも「そうねえ」と言った。


「アルテミシアさんは派手に恨みを買っていたから、リゼがアルテミシアさんの妹だと知れたら、波風が立つこともありえなくないわね……」

「やっぱり行きたくないいいいい!」

「でもまあ、大丈夫じゃないかしら? アルテミシアさんは王族のグループを引っかき回したせいで反感を買っていたけれど、私のように男爵令嬢や庶民が集まるグループにいたら、そんなに目立たないはずよ」

「マルグリット様が、ぜひ私のサロンに来てって……アルベルト殿下も、わたしが来るなら面白そうだから参加したいって……」


 アニエスさんはぽんぽんとわたしの肩を叩いた。


 冗談交じりだったそれまでの態度が一変し、真面目な顔になっていた。


「ご実家のことは何がなんでも隠し通しましょう、ね? 私からもマルグリット様にうまく言っておくわ」

「よろしくお願いします……!」

「一度作戦会議もしたいところね。お店に呼べたらいいのだけれど」


 アニエスさんはてきぱきと段取りも決めてしまって、ひとまずマルグリット様にお伺いのお手紙を出してくれることになった。


 よかったぁ。


 行くのは嫌だけど、アニエスさんがいてくれたら、もしかしたら大丈夫かも? って気になってくる。


 マルグリット様のサロンは来週。


 ひとまず、何事もなく無事に終わってくれますようにと願わずにはいられなかった。


***


 ディオール様が疲れている。


 目の下にくまが浮いた顔に、いつもの無表情とはまた違う、いつになく生気のない目つき。


 元々の造作がいいので、気だるげなのもまた素敵だなぁと、わたしはのん気に思っていた。


 夜明け前に、バタバタとせわしなく出ていくディオール様を目撃し、わたしは思わず一緒に散歩中のフェリルスさんに聞いてしまった。


「ディオール様、最近なんだか忙しそうですね」

「魔香とやらの研究で忙しいようだぞ。俺も最近は撫でてもらってない」


 フェリルスさんがちょっと寂しそうに言い、キュウンと切ない鳴き声を出した。


 なので、代わりにわたしがめいっぱいモフモフしておくことにした。


 フェリルスさんはうれしそうに地面にひっくり返って、おなかを見せてのけぞった。つやっつやの毛皮がモフっとはみ出る。


「もっと、もっと撫でろ! もっとだ!」

「はは~~~」


 ひとしきりこねくりまわしたら満足してもらえたらしく、フェリルスさんは「よい働きであった!」とわたしに花丸をくれた。


 フェリルスさんの機嫌がよさそうなので、わたしはもうちょっとディオール様のことを質問してみることにした。機嫌が悪いと、『俺とご主人とのひみつだ!』って言って、教えてくれないからねぇ。


「魔香って、犯人ももう捕まったんじゃなかったんですか?」

「ご主人の仕事は『犯人を捕まえてからが忙しいんだ』と言っていたな! 悪いやつがしていたことの目的、手段、被害状況、再発防止、その他もろもろ、考えることがたくさんあるのだと言っていたぞ!」

「へー……錬金術アカデミーってそういうお仕事なんですねぇ」


 わたしがあんまりよく分かってないながらも、なんとかあいづちを打つと、フェリルスさんがハッとした。


「――あ! 今のはリゼに喋るなと言われていたんだった!」


 そうなんだよね。


 ディオール様、普段のお仕事が国家機密に関わるみたいで、聞いても何やってるのか全然教えてくれないんだ。


 ピエールくんもしっかりした性格だから、何を聞いてもうまくごまかされちゃう。


 こういうとき、わたしはディオール様のこと何にも知らないんだなって、痛感する。



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