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112 リゼ、王女様にセンシティブ発言を受ける


 パーティには五大騎士団のトレードマークが入ったたくさんの人たちがいて、学生さんらしき人たちは杖がシンボルの見慣れないマークをつけていた。


 ついて早々、玉座の隣に控えていたマルグリット様が動いた。


 周囲の人間が驚きに目を丸くする中、つかつかとまっすぐわたしの方に歩いてくる。


 え? え?


 えっと、目上の貴婦人と出くわしたときはどうするんだっけ……?


 わたしがあたふたとお辞儀に入ろうとしたら、がばーっと抱きしめられてしまった。


「マエストロ! ご無沙汰して申し訳ありません! いらしてくださってうれしいわ!」


 マルグリット様から熱烈なハグと、ついでにちゅーをもらった。


 わたしはもうパニック状態。


 あ、あれ? こういうときはどうするんだっけ?


 うろうろと視線をさまよわせていたら、後ろで扇子を広げて顔を隠しながらも、すごい目つきでマルグリット様を見ている侍女の集団が目に入った。


 たぶん、やっちゃいけないことなんだよね。


 マルグリット様、どうしちゃったんだろ?


「まあ、今日のお召し物もゴージャスで素敵ね! わたくしもまたマエストロにドレスを作っていただきたいわ!」


 それから炎がゆらゆらと揺れるわたしの足をしげしげと見て、ちょっと上目遣いになった。


「ねえ、この裾、触らせてくださらない?」

「どうぞどうぞ! 熱くないですよ!」


 では……とマルグリット様はかわいらしく両手を構えて、わたしの太ももにがばっといった。


「まあ、本当なのね……全然熱くないわ。裏側はどうなっているの?」

「ちょ、ちょっと、めくるのは……マルグリット様?」

「まあ、すごいわ! 裏地は黒いレースになっているのね! とってもセクシーだわ!」

「マルグリット様……!」


 誰が王女の暴走を止められようものか。


 マルグリット様はほんのりと興奮した顔でわたしを見た。


「マエストロったら、こんなにあどけないお顔立ちをしていらっしゃるのに、意外と大人でいらっしゃるのね……?」

「どういうことですか!?」

「だってこんな……裏地に黒いレースだなんて……とっても大人だわ……?」


 ぽぽぽ……っ、と、頬を染めて、とんでもないことを言うマルグリット様。


「こ、これは人気のオペラをモチーフにしたファンシードレスなんですうぅぅ! 『カルメン』、観たことありますよね!? ね!?」

「まあ、そうなの? わたくしてっきり、あとでロスピタリエ公爵に楽しんでいただくためのものなのかと……?」

「誤解ですうううう!」


 誰が王女様のセンシティブ発言を止められようものか。


 周囲の人も、可憐な王女様から放たれるちょっとセクシーな話題に、驚きを隠せない様子だ。


 このままの流れだととてもまずい。


 そばで聞いているディオール様も、なんだかそわそわしているみたいだし。


「あ、あの、わたし、ヒールの靴を履きこなせるようになりたくてですね、それでちょっと背伸びしてみただけといいますか、ヒールが似合う服を考えたらこうなっちゃっただけで、そんな、深い意味とかは……っ!」


 わたしの渾身の弁明に、マルグリット様はかわいらしく眉根を寄せた。


「まあ、ヒール? そんなもの、お捨てになったらよろしいわ。足が変形して膝に負担がかかるもの、百害あって一利なしよ。魔法の靴で幻影になさいませ、ね?」

「でも、いつかはヒールを履いて、動きにくい正装をする式典に出るかもしれませんので、そのときの予行練習をしておきたかったんです」

「そうなの……」


 マルグリット様は悲しそうにした。


「本当なら、偉大なるマエストロに要らぬ気苦労と馬鹿げた負担を強いる行事など、わたくしがすべて取り除いてさしあげたいのですけれど、現状だとなかなか難しくって……」


 マルグリット様のお優しさが天井知らず!


「でも、もしもお困りのことがあったら何なりとわたくしにご相談くださいましね。わたくしリゼ様のためならいかなる労苦も厭いませんわ!」


 マルグリット様の完璧な宮廷ことばのアクセントに聞き惚れたあと、わたしはつい聞いてみたくなった。


「わたし、今、ヒールの歩行訓練も含めて、礼儀作法の練習中なんです。マルグリット様みたいに気品のある言葉遣いは、どこで勉強したら身につきますか?」

「まあ、ありがとう。わたくしの行儀は、すべてあちらの伯爵夫人より薫陶を受けましたの」


 マルグリット様が扇子で手招きをする。


 すると、一分の隙もなく地味なドレスを着こなした侍女がするすると前に出た。


「偉大なる国王陛下より王女殿下づきの寝室付侍女ファム・ド・シャンブル筆頭の栄誉を賜っております、エチケット伯爵夫人でございます」


 作法のお手本みたいなご挨拶を受けて、わたしは圧倒された。


「わあ、すごい……! だからマルグリット様はいつも完璧なんですね!」


 わたしが素朴な感想を口にすると、マルグリット様は一瞬だけ、何か言いたそうに口を開いて、すぐに閉じた。


 マルグリット様はぱっと扇子を開いて、ちょっと恥ずかしそうにうつむく。


「……そうね。今日のようにリゼ様のところに駆け寄るようなはしたない真似をしてしまったのは、魔法学園の生活に毒されてしまったからかしら?」


 反省したような口ぶりに、エチケット伯爵夫人がにっこりした。


「マルグリット様はこの国でもっとも高貴なお方のひとりでございますから、親しく打ち解けていただけたという事実を重んじ、王家への崇敬をより強く覚える者もおりましょう。非才なるわたくしがお教えすることなどございません。マルグリット様のなさることがこの国の婦女すべてのお手本でございます」


 するとマルグリット様は、エチケット伯爵夫人の回答を予見していたかのように、満面の笑顔になった。


「――そうよね! わたくしのすることがお手本よね!」


 エチケット夫人が少々たじろぎながら、「え、ええ」と同意する。


「そうだわ! ねえ、リゼ様、わたくし魔法学園で、宮廷の文化にご興味がおありの生徒の皆様をお招きして、マナーの講習をするサロンを開いているの! よろしければリゼ様もお入りになりませんこと?」

「さ……サロン……?」


 サロンってなんだろ?


 戸惑うわたしに、マルグリット様がどんどん勝手にお話を進めてしまう。


「生徒の皆様とマエストロの交流が深まればきっとこの国のためにも……いいえ、いっそマエストロを魔道具の教師としてお招きするのもいいかもしれませんわ!」


 マルグリット様がパチンと扇子を閉じる。


「こうしてはいられませんわ! さっそく陛下にご検討いただきましょう!」


 わたしはわけもわからず、マルグリット様に手を引かれて、陛下の御前に立たされることになった。


 マルグリット様の侍女集団は、追いかけてこなかった。


 な……何がどうなってるんだろ……?

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