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108 リゼ、晩餐会に出席する3


「本当にありがとう。君たちにはとても助けられた」


 アルベルト王子はお礼を言ってくれて、帽子まで脱いでくれた。


 うひゃあ。


 これは男の人がやる、最上級の敬意の表現だって聞いた。


「ところで、リゼルイーズ嬢に聞きたいんだけど、これからのことは考えている? その……」


 アルベルト王子はより一層声をひそめた。


「君の作ってくれた『アルマンデルの魔法書』は、誰もがほしがる魔道具だと思う。もしかしたら、君の身に危険が及ぶこともあるかもしれない」

「うっ……」


 その心配はずっと心にあった。


 アニエスさんに言われたことを思い出す。


 ――護衛を頼めないのかしら?


 わたしはアルベルト王子に聞いてみることにした。


「お店に警備員を雇おうかと思ってるんです。それで、王宮から信頼できる騎士さんを紹介してもらえたらありがたいんですが……」

「それは構わないけれど、そうすると、あのお店では手狭ではない? 場所を移転してはどうかな。そう、たとえば……」


 アルベルト王子はにっこりした。


「王宮に」


 王宮にそんなスペースある……?


 王宮はものすごく広くて、何棟も何棟もあるけれど、ほとんど全部が貴族でみっちり埋まっている。


 たぶん、わたしのお店の方が広いんじゃないかなぁ……?


 疑問に思うわたしに、アルベルト王子がさらに畳みかける。


「ちょうどひとつ空いている離宮があってね。庭もかなり広くて、いい場所なんだ。そこなら王宮の衛兵を随時巡回させられるし、なんなら侍女と侍従もたくさんつけるよ」

「それもう王妃様では……?」


 魔道具師とはとても思えないような、身に余る待遇に思わずツッコミを入れてしまう。


「君が望むのなら、何らかの爵位が得られるように手配してもいいよ」

「お、女男爵ですか!!???」

「いいや、王族だよ。君の祖母だって王女だったのだからね」

「ほんとうですか……!」


 それってディオール様とも対等くらいの地位では?


 前のめり気味に話を聞いていたら、急に引っ張られた。


 スツールをくっつけて横に座っているディオール様が、真横からわたしを抱き寄せたのだ。


「ご心配いただかなくとも、私が肌身離さず懐に入れて連れて歩きますので」

「それはもうちょっと離そうか?」


 アルベルト王子がたまらずに突っ込んだ。


「それを言うなら『片時も離さず』くらいが適当じゃない? ねえ? ……なんでそんな真面目な顔ができるの? 私がおかしいのかな?」


 そしてうろたえ始めた。


 ディオール様の真顔つよいよね。


 わたしも真顔で言われるとそうかなって思っちゃう。


「とにかく、君が王宮に来てくれたら嬉しい。どうかな?」


 アルベルト王子はめげずに誘ってくれた。


 ありがたいことだけど、でも――


 わたしの返事は決まっていた。


「わたしはあのお店も、ディオール様のお屋敷も、大好きなんです。移動はしたくありません」

「そっか」


 アルベルト王子は笑ってわたしの意見を受け入れてくれた。


「リゼ?」


 ディオール様は王子に目もくれず、わたしに絡みついてくる。


「屋敷とはずいぶんつれないな。好きなのは私の財産だけか?」

「ち、違いますけど……」

「私はこんなに君が好きなのに」


 おでこの髪をかきあげ、こめかみにちゅーされる。


 今日は一段と激しいですねぇ……!


「君も私が好きだとは言ってくれないのか?」

「あっはい。もちろん好きですよ!」

「嬉しいよ、私の可愛いリゼ」


 甘ぁい!


 けどだんだん慣れてきた。


 ディオール様は水差しに毒を盛られる生活がどうしても嫌なんだね。


 アルベルト王子はぽかーんとした顔で眺めていたけれど、ディオール様がわたしの婚約指輪をチラッチラッと見せつけながら、指先にいっぱいちゅーしだしたあたりで、笑い始めた。


「……いやもう、分かったよ。分かったから。邪魔してごめんね、ロスピタリエ公爵」


 アルベルト王子は心が広い。


 怒られても仕方ない状況なのに、笑って許してくれて、さわやかに去っていった。


 ディオール様はそそくさとわたしを解放してくれ、深々とため息を吐く。


 顔にやりきった感がにじんでいた。


 お疲れ様です。


「……次は髪飾りも作ってくれ。指輪はいまいち見せつけづらい」

「がってんですっ! オープンハートの三連とかでいいんでしょうか?」

「いっそデカデカと文字でも入れたらどうだ。『永遠の愛』とかなんとか」

「それはとってもバカップルっぽいですね……! でもそれ、ディオール様も恥ずかしくありません?」

「特には」


 ディオール様つよい……!


 その後、わたしたちは疑似的にいちゃいちゃしつつ、リオネルさんに指輪の件で再三笑われたり、ハーヴェイさんと世間話をしたりして、晩餐会を終えたのだった。


***


 ギデオン伯爵邸。


 使用人たちがようやく起き出す早朝に、それはドアを叩いた。


 門の前には大勢の男たちがたむろしている。


「こんな朝早くに、一体何の騒ぎで……」


 ドアマンが顔を覗かせたとたん、男は小声で素早く告げる。


「国王陛下直属の秘密警察だ。ここを開けろ。さもなくば、強行突破する」


 ドアマンはびっくり仰天して、ドアを閉めにかかったが、門にたむろした男たちが手に手に剣をかざして突撃してこようとしているのが見えて、肝をつぶした。


「ここを開けなさい」


 ドアマンは言われた通り、ドアをいっぱいに開放し、そばの壁にはりついて道を譲った。


 ――そのころ、当主マクシミリアンはベッドで就寝中だった。


 どやどやと十数人がなだれ込み、マクシミリアンを叩き起こす。


「ギデオン伯爵、マクシミリアンだな?」

「なんだ、無礼者!」

「秘密警察だ。王命により、貴様を投獄する」


 マクシミリアンは剣をつきつけられ、両手を別々の男たちに拘束された。


「投獄だと……!? 罪状はなんだ!」

「それは貴様がよく分かっているだろう」

「ふざけるな、俺はどうなる!?」

「いいから黙ってついてこい!」


 マクシミリアンは恐怖した。


 秘密警察の噂は聞いたことがある。捕まったが最後、監獄に直行させられるという、恐ろしい組織だ。


「放せ! 放せと言っているだろう! おい、裏金がほしいならいくらでも――」


 警察のトップらしき長衣の人物が、ギデオン家の執事に話しかける。


「失礼、こちらの紳士に奥方はいらっしゃらない?」

「当家は、マクシミリアン様おひとりでございます」

「そうですか。彼は遠い島に送られることになっています。直系の跡継ぎがいない場合は、家の断絶とみなし、爵位と家財一切も国家へ没収するようにとのお達しでして」


 王の印章入りの書状を見せつけられ、執事は慄然としつつも、とっさに答える。


「……ハーヴェイ様。弟のハーヴェイ様がいらっしゃいます」

「では、資産はその者に。一週間後の刻限までに警察に出頭するようお伝え願えますかな?」

「承知いたしました。必ずや……」

「おい、ふざけるなよ!? 俺の屋敷だ! 俺の……!」


 しかし、マクシミリアンがいくら喚こうとも、執事は彼以上によく弁えているようだった。


 この国の秘密警察の執行は王が直接指示した命令であり、いかなる貴族も逆らえない――と。


 執事はもはやマクシミリアンなど目に入らない様子で、大声で叫ぶ。


「急いでハーヴェイ様をお探しするんだ!」


 マクシミリアンは屈辱にまみれながら、連行されていった。


 ――その後、彼は消息を絶ち、二度と屋敷には現れなかった。

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