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107 リゼ、晩餐会に出席する2


 わたしは大満足で食後のコーヒーまでしっかりいただいたのだった。


 美食と健康の神様イシュタルにお祈りを捧げたあとは移動。


 歓談室で、ディオール様はわたしをぴったりと侍らせたがった。


 手袋をはめようとしているわたしの手を遮って、勝手に握ってくる。


「指輪はもう少し見せびらかしておけ」

「はい」


 別にいいけどなんで?


 今回、女性の参加者は少ない。


 ディオール様はにこにこしながら、ピリピリしていた。


「騎士団が多いだろう。油断しないに越したことはない」

「ディオール様は騎士団の人に何をされたんですか……?」


 ウラカ様がアタックしてたのは知ってるけど、それ以外の部分を知らないので、警戒ぶりがいまいちピンとこない。


 ディオール様がやけ気味の笑みを浮かべてわたしの肩を抱き寄せ、ひそひそと恋人みたいにささやく。


「今日は泊まっていけと部屋を手配された郊外の城のパーティで、部屋にあった水差しに薬が入っていた」

「ヒッ……!」

「何となく嫌な予感がして手をつけなかったんだがな。そしてあたかも偶然を装って部屋をノックしてきたのが猫撫で声の女だ」

「そ……それでどうなったんですか?」

「ドアごと凍らせて朝まで籠城した」

「……」

「簡易の毒物チェックをかけて陽性反応が出たときはまさかと思ったんだ」


 ディオール様はいちゃいちゃとわたしの後頭部を撫でまわしながら、とても甘い声で言う。


「まだまだある」

「まだあるんですか」

「オペラに招待されれば偶然を装って年頃の娘やら何やらを紹介される。狩りに付き合えば今年デビューする予定だとかいうご息女に乗馬を教えてくれとせがまれる。魔術の家庭教師を頼まれたこともあれば、遠征についてきた指揮官の夫人が深夜に私のテントまで……あのときは逃げ場もなくてどうなるかと思った」

「おモテになりますねぇ」

「違う、美人局だ。騎士団の強さは抱えている魔術師の質で決まる。魔術師を確保したいんだろう」

「へー……?」


 また難しい政治のお話をしているなぁ。


 興味の薄いわたしを、ディオール様は真正面から覗き込んだ。


 わー、ディオール様まつ毛なっがーい。


「一応警告しておくが、次は君だぞ」

「え?」

「大魔術が使える魔術師ひとり引き抜くのにこの騒ぎだ」

「ディオール様は大変ですねえ」

「その大魔術を誰でも気軽に使える魔道具を作ってしまったのが君だ。もしもそのことが公になったらどうなると思う?」


 え。


 わたしはちょっと青くなる。


「わ……わたしにも美女が押し寄せてくると……!?」

「どうしてそう思った」

「あっ!? そういえば、最近美少女と縁があると思ってました……! マルグリット様もすっごくよくしてくださるし……!」


 ディオール様は完全に呆れてしまったのか、苦笑しながらわたしの頬を手の甲で撫でた。いちゃいちゃのしすぎで、だんだん人の目も集まってきている。


「君の場合は、食べ物に気をつけるところからだな」

「食べる量は減らしませんよ!?」

「そうじゃない。外で食べるときは、あまり好き嫌いを見せすぎない方がいい」

「そんな……!」


 こんなにゴージャスな晩餐会の料理を……?


 つまらなさそうに食べないといけない、と……!?


「それは食への冒涜ですよ!」


 憤慨してから、わたしはハッとした。


「も、もしかして、ディオール様が、なかなかわたしに好きな食べ物を教えてくれないのは……」


 誰かに利用されるから……?


 わたしのような粗忽者は、ディオール様の好きなものを知ったらうれしくなって、みんなにしゃべって回ったはずだ。


 ディオール様は否定も肯定もしなかった。


 やさしい目つきでわたしをじーっと見つめる。


「君は本当に可愛らしいな」


 急に何を言うのかと思ったら、すぐそばにアルベルト王子がぞろぞろと側近を引き連れてやってきていた。


「早く家に連れて帰りたいよ。こうしている時間がもどかしい」


 わたしの手に指を絡めてそんなことを言うので、アルベルト王子と一緒の人たちも、ぎょっとした顔をしていた。


 あと、わたしもちょっとびっくりした。


 ディオール様はもうちょっと街にいる恋人同士とかを観察してきてほしい。


 こんなのはゼロ距離すぎる。


「あー……こほん」


 アルベルト王子も話しかけづらそうにしているよ。


 ディオール様はたった今気づいたとでもいうように、立ち上がって、わたしにも立つよう促した。


 今日何度目かのお辞儀。


 貴族っていっつもぺこぺこしてるなぁ。


 ぼけーっとごあいさつするディオール様を眺めていたら、アルベルト王子がわたしの前に来たので、うろたえてしまった。


 え、えっと、どうするんだっけ?


 付け焼刃で叩きこまれた礼儀作法は、ご馳走を食べたら全部吹っ飛んだ。


 男性から女性にあいさつするときは……キスをするんだっけ?


 あれ、逆だっけ?


 手の甲にキスしたらいいんだよね?


 そう思ってアルベルト王子の手をつかんだら、ものすごくびっくりされてしまった。


「リゼ、離しなさい。失礼だろう」


 ディオール様が慌てて言ってくれたけれど、もう遅い。


 わたしは頭が真っ白になっていて、脳死状態で、ぎくしゃくとアルベルト王子の手の甲にキスをした。


「ふっ……ふふっ……ありがとう、かわいらしいお嬢さんから可愛いごあいさつをもらってしまったよ」


 アルベルト王子とその取り巻きはめちゃくちゃ笑いをこらえていた。


 やらかした? と思ってディオール様を振り返ったら、ディオール様も肩を震わせて笑っていた。


 赤っ恥を悟って、わたしは下を向いた。


 ううっ、礼儀作法も、そろそろちゃんと覚えないとダメかもぉ……


「今日は来てくれてありがとう。あれから少し進展があったから、お知らせしておこうと思って」


 アルベルト王子はわたしのやらかしなんかなかったみたいに、真面目な顔つきでわたしたちを促し、一緒のテーブルにつかせた。


 声をひそめて、わたしたちにだけ聞こえるように言う。


「魔香の開発者を全員捕らえた。販売ルートも抑えて、じきに全員監獄送りにする予定だよ。これもすべて君たちのおかげだ」

「本当ですか! じゃあ、ハーヴェイさんに魔香を浴びせた犯人も……?」

「すぐに明らかになるよ。今はまだ話すときではないから、ごめん。でも、これで解決だよ」


 よかったぁ。


 談話室を見回すと、隻腕のハーヴェイさんが王宮のお仕着せを着た男の子にサポートされながら、招待客と話し込んでいるのを見つけた。


 アルベルト王子、ハーヴェイさんのこともちゃんと気にかけてくれてたんだ。


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