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106 リゼ、晩餐会に参加する


 わたしは天文学的なことを言われたのかと思って、一瞬頭が宇宙に飛んだ。


 思わずあたりを見回してしまう。


「解説役のピエールはいない。探すな」

「あの……ディオール様がいつも真面目なのは知ってるんですが、恋人……というのは……?」


 ディオール様は眉を逆立てた。


 真っ白な頬に赤みが差す。


「知らん。自分で考えろ。だいたい、私ばかり責めるが、そもそも君だって婚約指輪をもらったからって喜ぶタイプでもないだろうに。一キロの金塊と一キロの牛肉、どっちがほしい?」

「ぎゅうに……あ、金塊を売ったら牛肉が百倍買える……!?」

「結局牛肉じゃないか。君にはこれまで通り質のいい食事を毎日食べさせる。それで何か問題があるのか?」

「何にもありません……! ディオール様は最高です!」


 ディオール様はようやく本来のちょっとふてぶてしい表情を取り戻した。


「指輪のデザインはそれでいいだろう。ルースは適当に探して届けさせる。他に何の用事だ?」

「いえ、特には……」

「なら、もう帰れ」


 怒ったディオール様に追い出されてしまって、わたしの目の前でぱたんとドアが閉じる。


 なんて塩対応……! と思ったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


 むしろ、満足感で胸がいっぱいだった。


 ディオール様が指輪の石をくれるんだって。


 えへへへ、うれしいな。


 わたしはさっそく指輪の完成予想図を頭の中で作るのに忙しくなって、その日はなかなか寝付けなかったのだった。


***


 晩餐会には、王家の皆さんや、魔道具師協会の幹部や、その他騎士さんたちが集まっていた。


「手袋を外して、手を洗いなさい」


 ディオール様にちっちゃい子どもみたいに注意されながら、わたしはいそいそ手袋を外した。


 作ったばかりの婚約指輪が目に入る。


 わたしはうれしくなってしまって、隣のディオール様に見せびらかした。


 ディオール様は「早くしろ」なんて怒っていたけれど、声は笑っていた。


 神官さまと一緒に食前のお祈りを済ませて、会場入り。


 すでに料理が並び始めている。


「手袋は膝の上に置いて、上からナプキンを広げてかける」


 わたしが言われたとおりにすると、ディオール様は目を細めて微笑んでくれた。


 あーよかった。ディオール様がいなかったらテーブルマナーを全部無視してみんなに笑われるとこだった。


 持つべきものは素敵な婚約者だよねぇ。


 わたしはメニュー表を開いた。


 ワクワクするようなご馳走がずらりと並んでいる。


スープ四種

ヒバリとトリュフのコンソメスープ

ペルドリと赤インゲン豆のポタージュ

カブとクリームのスープ

ザリガニとムール貝とエビのブイヤベース


冷製肉四種

豚ヒレ肉のテリーヌ

牛ヒレ肉のロースト

ウサギのガランティーヌ

鶏肉のバロティーヌ


魚料理四種

鯛のクネル スコッチエッグソース添え

スズキのフィレとトマトのコンポート

舌平目のデュグレレ

鱈のオー・ブルーソース


メインディッシュ四種

仔牛肉の照り煮

牛フィレ肉のポワレ・ソース・タレーラン

七面鳥のロースト クランベリーソース仕立て

鳩のディアーブル


アントレ十二種類

鶏肉のガルニチュール添え

羊肉のソース・ユサルド

牡蠣とフォアグラのグラタン

……


 他にもルルヴェが二品とアントルメが八品あるらしい。ルルヴェってなんだろ?


 十人前くらいありそうな大皿の料理がずらーっと、長い長いテーブルの端から端までみっちり並べられている。


 どれがどの料理なのか全然分かんない!


 でも全部おいしそう!


「うわあああ、全部食べきれないかも!」

「食べられるのは近くの席の料理だけだぞ」

「な、なんですって……!?」


 こんなにいっぱいあるのに……?


 全種類は試せない……!?


 わたしのテーブルの傍には、魚料理とスープ、それから冷製肉がいくつかあるだけ。


 メインディッシュは……!?


 ショックを受けていたら、ディオール様が笑いながら「ちょっと待っていなさい」と言って、席を立った。


 どうしたんだろう? と思っていたら、どんどん進んでいって、王様の前に来た。


 帽子を脱いで、お辞儀をして、手の甲にキスをして、また帽子をかぶって。


 何か恐縮しながら話し込んでいる。


 貴族のれーぎさほーは大変なんだなぁ……


 王様とディオール様、そしてそばにいたアルベルト王子は、最終的に大笑いしながら和やかに話し終えた。


 ぼーっと眺めていたら、ディオール様は、給仕の男の子をひとり連れて戻ってきた。


「なるべく全種類持ってきてもらうように頼んだ」

「ディオール様……!」


 わたしはこのときほどディオール様がかっこよく見えたことはなかった。


 こ、これが権力……!


 公爵さまになるということ……!


 お貴族様ってなんか偉い人なんだなーとしか思ってなかったけど、やっぱりすごいんだなぁ。


 わたしもいつか、料理を全部取り分けてもらえるくらい偉い人になりたい。なれるかな?


 わたしに向かって、ディオール様が素敵な笑顔を見せてくれる。


「君にとってはいい報せだが、まだあと二回料理の総入れ替えがあるぞ」

「な……なんですって……!?」


 あと二回の変身を……!?


 すでに並んでいる分だけでも、招待客が食べきれる量じゃなくなっている。


「デザートも来る」

「王様万歳……!」


 王様の健康を祈って乾杯が捧げられ、わたしは心から王様に長生きしてほしいなって気持ちでおいしい林檎のサイダーを飲みほした。


 王宮の晩餐会すごい……!!


 これが……!!


 王様にご褒美をいただくということ……!!!


 わたしはすっかりメロメロだった。


 もうどれがどの料理か分からないけど、運んでもらう料理をひたすら食べた。


 これ何の料理?


 分かんない!


 でもおいしい!


 全部の料理がおいしいので、わたしはどうでもいいことが気になってきた。


「ディオール様……」

「どうした?」

「これ、ざっと見た所、三百人分ぐらいありますよね?」

「そうか? まあ、そんなものか」

「でも、招待客って、五十人ぐらいじゃないですか? 残った晩餐はいったいどうなってしまうのですか……?」

「使用人が食べるんだろう」


 な、なんですって……!?


 わたしは心の底から王家のメイドさんたちがうらやましくなった。


 わたしは職業の選択を間違った。


 メイドさんになっていれば毎日ご馳走が食べ放題だったかもしれないのに……!!


 今からでもマルグリット様の侍女とかにしてもらえないかなぁ……?


 ちらりと上座にいるマルグリット様を見ると、マルグリット様は大きなお皿にほんのちょっぴりしか取り分けられてないお料理を粛々と食べていた。


 飲み物のお世話をする騎士さんや料理のお世話をするメイドさんたちに取り巻かれ、真後ろには棒立ちで付き添う怖い顔の貴婦人がいる。


 マルグリット様も、ご馳走に囲まれてるのに、あんまり楽しくなさそう。


 わたしのようなのんびり屋の粗忽者がメイドさんみたいな責任が重くて大変な仕事、できるわけもないし、夢のまた夢だなぁ。


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