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105 リゼ、公爵さまにデザインを考えてもらう


 晩餐会に出ることになった。


 貴族の出し物に出るのは、これで何回目だろう?


 そろそろ寒くなってきたので、クルミさんと相談して、ちょっと暖かめの生地に。


 まあ、温度調節は魔道具化すればいいんだけどね!


 コルセットをつけると量が食べられないのが悩みだったけど、今回は錯視も仕込むので、おなかいっぱい食べられる。


 宮廷のゴージャスなお食事会……


 いったいどんなご馳走が……?


 と、ご馳走のことで頭がいっぱいだったので、わたしはディオール様と約束した金色のアクセサリのことを、すっかり忘れていた。


「ところでリゼ様、アクセサリは金色でなくてよろしいのですか?」


 クルミさんにそう言われてようやく思い出した。


 そうだった。


 ディオール様、お互いの名前にちなんだアクセサリをつけて、バカップルのふりをしたいって言ってたんだよね。


 そこでわたしは、悩んでしまった。


 わたしは仕事柄、溶けた鉄とかを扱うので、アクセサリみたいにうっかり引っかけたりしたら大惨事になりそうなものは極力身に着けない。


 だから、ディオール様にいただいた指輪もずっとしまい込んでいた。


 好きなものを作っていいとは言われたけれど、何を作ったらいいんだろう?


 好きなものはもちろん、無数にある。


 金色のアクセサリもこれまでにたくさん作ってきた。


 でも、これは、ディオール様が、わたしのためにプレゼントしてくれたもの――という設定だ。


 あのディオール様が、わたしに。


 正直、何をくれるのか見当もつかない。


 珍獣が好きだと言っていたからには、一風変わったものがわたしらしいのかなぁとも思う。


 そうすると、変わった細工物に金箔をする?


 革とか、べっ甲とか?


 でも奇をてらいすぎると、見た人全員に「風変わりなアクセサリね」って言われて、ディオール様が恥ずかしい思いをするかも。


 かといって、普通の流行りものの金細工だと、ディオール様を連想してもらえないかもしれない。


 いっそ氷のモチーフに金箔を添える?


 確実だけど、それもやりすぎのような気がする。


 困ったなぁ。


「ご主人様と相談してみては?」


 クルミさんにアドバイスしてもらったので、わたしはディオール様のお部屋に行った。


「こんばんは!」


 ディオール様は寝るところだったのか、じゃっかん迷惑そうな顔をしていた。


 手短に行こう、手短に。


「あの! 金色のアクセサリって、何を作ったらいいと思いますか?」


 ディオール様が目を瞬かせる。


「何でもいいと言ってあったろう」

「あ、すみません……」


 会話終了。


 だよね。


 ディオール様はそんなことに興味ないよね。


 分かってたけどちょっと悲しいな。


 しょぼくれていたら、ディオール様がくすくす笑い出した。


「どうした? 悩んでいるなら聞こうか。長くなるなら飲み物でも淹れてもらうが」


 おお……!


 今日は機嫌がいいみたい。


 チャンスだと思って、わたしは飲み物もお願いすることにした。


 温めたリラックス効果のハーブティーをもらって、対面で相談開始。


「わたし、好きなアクセサリはいっぱいあるんです」

「片っ端から全部作って身に着ければいいだろう」


 ディオール様がずばっと解決策を言う。


「金塊が足りないなら持ってこさせるが。何キロぐらいいるんだ?」


 ディオール様のこの悪気のない目つき。


 絶対これ善意で言ってる……!


「毎回違うアクセサリを作っても構わんぞ」

「わぁい……?」


 お洋服ごとに違うアクセサリ。


 とんでもない金満趣味だけど、ちょっと楽しそうと思ってしまった。


「いえあの、お気持ちはうれしいんですが、そういうことじゃなくてですね」


 なんて言ったらいいのかなぁ。


「わたしはお花のモチーフ好きですし、動物や幾何学模様も大好きです。でも、どれもディオール様のイメージじゃなくて。ディオール様が選んで、わたしにくれるアクセサリを作ろうと思うと、何にも思いつかなくて……」


 わたしは紙と鉛筆を出した。


「というわけで、ディオール様がデザインを決めてください!」


 何か書いて、というつもりでペンをディオール様に押しつける。


 ディオール様は戸惑った顔をしている。


「プロに向かって私のセンスで何をデザインしろと?」


 恥をかかされるのはごめんだ、と言わんばかりに、ディオール様が鉛筆を返してきた。


「このアクセサリは恋人同士の演出でつけるんですよね?」

「何か問題でも?」

「わたしが自分の趣味百パーセントで、タンポポとミツバチのバレッタとかを作っても、誰も恋人からの贈り物だなんて思いませんよね? ただの昆虫好きな子ですよね?」

「まあそうだな」

「だからディオール様の趣味が分からないと、何も作れないんですよぉ……わたしの好きにしていいのなら、そりゃあいくらでも思いつきますけどぉ……恋人っぽいアクセサリって何なんですかぁ……」


 わたしは心底困って両手で顔を覆った。


 ディオール様も困っているのか、しばらく無言で考えているようだったけれど、やがて口を開く。


「……婚約指輪……では、ダメなのか?」


 心なしか照れたような、口ごもりがちの提案。


 わたしはぴしゃーん! と衝撃を受けた。


「こん……にゃく……?」

「生まれて初めて聞いたみたいな反応だな」

「婚約指輪って……婚約したときに贈る例の……?」

「幻のレアのように言うな。くれてやっただろう、先祖代々伝わる古くさい化石を」

「それは好き合ってる人同士で送るものでは……?」

「だからいいんじゃないか?」

「贈るわけないじゃないですか、ディオール様が、そんな……」

「さっきから心外なんだが」


 ディオール様が不審げにわたしを見る。


「私はそんなに情がなさそうか? 婚約者に指輪も贈らんような人間に見えるのか」

「ううっ、答えづらぁい……!」

「失礼なやつだな」


 ディオール様ははーっとこれみよがしにため息をついた。


「私は……まあ、なんだ。リゼのことは、気に入っている」


 珍獣としてですよね、分かります、と、心の中であいづちを打つ。


「だから、私から君に贈るとするなら……こういうものじゃないか?」


 ディオール様はわたしから鉛筆をひったくって、ダイヤらしき宝石の嵌まった、華奢なハートのリングを描いてくれた。


 いつも不機嫌そうなディオール様からは想像もつかないかわいらしいデザインに、わたしは「カワイ……ッ」と、変な声が出てしまった。


 ディオール様はどこか屈辱そうだった。


「おかしいか? 私にセンスは期待しないでくれ。だから好きなものを作れと言ったんだ」

「い、いえ、全然おかしくないです」


 むしろちょっとうれしかった。


 かわいい上に、シンプルなデザインだから、いくらでもアレンジしようがある。


「すごい、ちゃんとした恋人みたいですね!」


 喜んでいたら、ディオール様は何とも言えない顔をしていた。


「君のそれは天然なんだろうが……」

「えっ?」

「私はこれでも真面目に恋人をやっているつもりだぞ」


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