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襲来

灰色の朝が来る。

全てが色を失くしたように見える。


私は魂の牢獄について考える。前世で読んだSF小説。転生を繰り返す男は記憶が永遠に続く。やがて───何も感じなくなる日が来るのだろうか。


こうやって朝に最悪な気持ちになっておけば、今日はこれ以上最悪な気持ちにならないはず。

「よし!!」

そう願い、反動をつけてベッドから降りる。

ルーティンワークをこなす。


春は種蒔きの季節なので、種を蒔く前に耕す作業を行う。クワを納屋から引きずってきて延々と耕す。畑は広い。何百回とクワを振るっただろう。クワと柄の接合部が折れてしまった。


そのとき、折れたクワが光輝き、新しいクワが出現した。


『発掘』スキルは道具にも適用されるらしい。


新しい発掘の使い途に少しだけ心が浮き立った。

しげしげと新しいクワを眺める。


とは言え、それほど変わったように見えない。石ころから金に比べて、地味すぎる。どうせなら泉に落とした童話のように金のクワ銀のクワになってもいいのに。


丈夫になったか確かめるため、柄の両端を持ち太腿に当て、力を入れてみる。

「えいっ」

ボキッと音を立てて柄は簡単に折れ、即座に新しいクワが発生した。


そうか、石を発掘するときは1回で終わりかと思っていたけど発掘を繰り返すことも可能なのか。


私はその後、続けてクワを折ってみた。新しくなる度、頑丈にはなるが所詮木製なので簡単だ。

5回繰り返すとクワは折れたままになった。

どうやら限界があるらしい。


私は納屋に行き、鎌や鋤もポキポキ折ってみる。

どちらも新しくなるが、元々ぼろいので新しくなってもなんとなくオーラを感じない。そう、元々のポテンシャルが低い道具には限界があるんじゃないだろうか?



「ちょっと!!アウグス!!居留守してんじゃないわよ」

家の方向から大声が聞こえる。



「お客さん?珍しい」

声に聞き覚えもない。村の人じゃないようだ。

とりあえず走って向かう。

アウグスはお父さんの名前だけど、家にいないんだろうか?おかしい──


「アウグス!!いるんでしょ出てきなさい」


黒ずくめの女性が家のドアを叩いていた。


「あの……どうしました?」


私が声をかけると女性が振り向く。

黒いレースに覆われた豊満な胸元にルビーのネックレスが赤く輝いている。

黒に赤はなんとなくルシファーを思わせる色合いだ。


「あなた…戦士ね」

女性が赤い唇を動かすと、意味のわからない台詞が聞こえた。


「え?」

「アウグスったらこんな戦士を育てていたのね!私の命を奪うつもり?!」

「そんなつもりはないです」

「じゃあその手に持っているものは何よ!」


言われて自分の右手を見ると、鎌が握られていた。

命を刈り取る形をしている。


「これは慌てて持ってきちゃっただけです」

私は鎌を後ろ手に隠す。

「嘘よ!親子そろって私の知識だけじゃなく、命まで奪おうというの…なんて恐ろしい」


どうやって誤解を解こうかと逡巡したとき、激しく鐘を打ち鳴らす音が辺り一帯に響いた。


村で非常事態が起こっている知らせだ。火事か、モンスターかどちらかだと思う。


「すみません私村に行かないと!」

「その前にこのドアを開けなさいよ!」


女性がドアを叩く。

私がドアを押してみると、びくともしない。

うちには鍵なんてシステムはないので、つっかえ棒か食器棚で押さえているかと思われる。


「早くしないと火をつけるわよ!」


女性が恐ろしいことを言う。


鳴り響く鐘の音、火をつけると脅す正体不明の女性

恐らく中にいる父


どうしたらいいのかわからない


足元が揺らぐように感じる。

こういうときは────


手が届くところから手をつけるだけだ。


私は、女性の手首を掴んだ。

バランスを崩したところで女性の股の下にもう片方の手を差しいれた。


「きゃああ?!」


そのまま女性を私の肩に担ぐ。女性はくの字のようになって私の背面にいる形だ。身長差があってもこれなら持てる。


「は、離して!」


女性の右手はホールドしているが、左手は掴んでいないので背中をぼこぼこ叩かれる。


「痛くしないでくれます?このまま私が背中から倒れたらどうなると思いますか?首折れるかも」


「ひっ……」


「村の様子が気になるので、先に村に行きます。火をつけられたら嫌なのであなたも連れていきますね」


「いやあ!」


「私もちょっと重いし嫌です」


そう言いながら走り出す。


「うっ、揺れる!お腹に肩当たって痛い!誰か助けて?!少女に誘拐される!!」


頭の後ろがうるさいが、降ろしたらまた何をするかわからないのでしっかり女性の腕と太腿を体に引き寄せた。


村からは悲鳴らしき声がする。


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