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破壊作戦

 火矢が建物内に撃ち込まれて数十秒後、叫び声や打ち付ける音で騒がしくなった。寝ているところにそんなものが飛んできたら当然驚くだろう。


 火事を起こすとイビヌが燃えて危ないので、火事を起こすつもりはない。とはいえ多少恐怖を味わってもらいたいので、煙玉に火をつけて窓めがけ3個ほど投げた。


 これは蜂やモグラの駆除に使っているもので、農家のお供だ。うまく火事だと錯覚してくれればいいが。


 大きな音を立てて出入口の扉が開かれ、2人の男が慌てた様子で飛び出してきた。10代と20代くらいだろうか、寝ていたのか半裸で靴も履いていない。


 眠り薬をつけた矢を続けざまにカルロが当てる。もちろん手加減しているはずだけど胴体に矢が刺さった瞬間、死にそうな大声を上げる。足をもつれさせながらしばらく走り、地面に倒れ伏した。


 眠り薬はお父さんが昔研究していたものだ。頼めば気軽に作ってくれるお父さんもやっぱり感覚がおかしいかもしれない。


 カルロが私に7、とハンドサインを送る。ドッディの石で聴覚強化しているカルロが聴いた限りではあと7人、建物内に残っているらしい。


 最初の2人が大声を上げたせいで残りは警戒してしまったのだろうか。煙玉を追加で5個着火して建物内に投げ込み、ランタンは消火した。


 カルロは音で大体の気配がわかるし、私もザンディーラの石を使えば匂いでわかる。でも無精髭の男たちは臭そうだから使わないでおく。

 ただのごろつき程度の強さなら目で見てから対応しても十分だろう。


 我慢出来なくなった男たちが3人、煙の吹き出る建物から身を低くして這い出てくるがカルロがまた眠り薬つきの矢を当てた。残りは4人。


 慎重派の4人が残ってるようだ。折り曲げていた襟を鼻上まで伸ばして覆い、壁を背にしながら建物に侵入することにする。私は腰のホルスターに収めた安物の短剣に手を伸ばす。


 王都で売っている短剣の中で一番安いものらしい。誰でも買えるものだ。愛用の短剣は間違いなく私を特定するものなので家に置いてきた。


 どさっと重い音がしたので、カルロが一人倒したのだとわかる。左側から生暖かい気配がして、私は咄嗟にしゃがみ、床に縫い付けるように、男の足の甲に短剣を刺した。叫び声と感触がとても嫌な感じだが、眠り薬が塗ってあるので、すぐに落ちるだろう。


 叫び声につられたのか、中年の男が迫ってきた。私はこの男がちゃんと襟のある服を着ているのを煙の中で視認して、脛に軽く蹴りを入れる。怯んだ瞬間に襟を交差するように掴み、しゃがんで真下に引っ張るように締め上げる。


 今回の作戦のためにカルロから習った、殺さないで済む対人技だ。頸動脈反射とまではこの世界で言われていないが、喉仏の左右を締めると人間が失神することは経験則として知られている。7秒数え、私は手を離した。


 もう一人倒れこんだ音がしたのでこれで全員制圧したはずだ。男は床にだらんとしているが、失神しているだけなことを確認して、男のベルトを抜き取って腕を縛る。いつ目を覚ますかわからないからだ。絞め技を実践したのは初めてだけどうまくいって良かったと安堵する。


 軽く手を叩く音が2回聞こえた。カルロからの完了の合図だ。私は男たちを集めて戸外に運ぶ。牛の世話よりよっぽど軽作業だった。


 カルロと競い合うようにどこにでも売っている荒縄でそれぞれの腕を後ろ手に縛り、両足も縛る。縛る練習なんていつどこでしてるんだろう?という手早さでカルロが6人縛り上げ、私は3人縛った。声を出すのは禁止なのだけどちょっと笑いそうになった。


 火打石を使ってナザリオへ合図として狼煙を上げ、最後の仕上げに取りかかる。


 カルロと建物からイビヌを運び出し、適当に外に並べる。そしてカルロが木造の屋根の梁を切れ目を入れている間、私は小さな窓を外側から蹴り崩し広げるという簡単なお仕事だ。


 ガラスなどは嵌め込まれていない窓の周りの粗雑なブロックを上げ底のブーツで思い切り蹴ると、音を立てて室内に飛んでいった。このブーツは硬い金属も入っていてとても捗る。


 ある程度のところで別の窓に移動して、同じことを続ける。カルロも出てきたので、テンポを上げて二人で窓の穴を蹴って広げる。学校の窓を割るヤンキーみたいだなと思った。室内に飛んでいったブロックで中にあるイビヌの精製器具が壊れる甲高い音も時折聞こえた。


 かなり広がった穴の横のブロックを蹴った瞬間、バキバキと屋根の木材が折れるような音がして、私とカルロは後ろに飛び退いた。

 轟音と土煙を立てて屋根が崩落し、石積みの壁も横に広がりながら崩れていく。建物は大地震にでも遭ったかのように完全に倒壊した。


 カルロを見ると、覆面で目しか露出していないが笑っているのがわかった。私も同じ表情だろう。


 悪の組織は壊滅した。しかし、ここは末端に過ぎない。いずれは公爵を叩かなくてはならないがしばらくは世に蔓延るイビヌを減らせるだろう――――


 カルロが親指を立てる。事前の打ち合わせでは帰還するという意味なのだけど私もいいね、と思った。



 憲兵たちが来て面倒なことになる前に再び藪に紛れて山道を下る。ランタンも回収した。



「おかえり!ばっちりって感じ?」


 ナザリオのところに戻ると銅のカップに入った冷たい水をもらった。とても気が利く。


「ああ、完璧すぎてこわいくらいだな」


 水を飲み干してカルロが答える。ナザリオがすかさずピッチャーを持ってきてカルロに水を注ぐ。私も急いで飲み干してみたが気づかないようだ。


「ねえカルロ、置いてきたあのイビヌは憲兵の人たちちゃんと処理してくれるかな?」


「憲兵は王直轄の組織だし、王陛下も最近は麻薬の取り締まりに力を入れてるらしいからまあ大丈夫だろ」


「そっか」


 エミリアーノ王陛下にも公爵がイビヌを栽培している可能性があるとは報告しているが、今回の作戦については一応犯罪行為なので何も言っていない。ジェイクにだけ伝えてある。


「俺はもう少しここに残って見張ってるから、カルロとユリィは早めに帰った方がいいよ。格好も怪しいし」


 ナザリオが肩をすくめて笑った。カルロは汗で塗料が流れている。


「ありがとう、ナジ。またあとで」


 カルロとナザリオはハイタッチのように手を合わせ、カルロはディープに騎乗した。私も慌ててカルロの後ろに乗った。駆け出したディープはまだ暗い空に飛び上がる。


 私は心の中だけで冷や汗をかいていた。真夏の夜にこんな格好をして、男装のためサラシだとか厚着なのに私は全然暑いだなんて思わなかった。ほとんど汗もかいていないことに気づかれてはいけない。私の体はどうもおかしなことになっている。


「ねえ、カルロはあの建物を崩れさせる方法、誰に訊いたの?」


 ばれないよう私は明るく振る舞う。カルロの後ろに騎乗していて絶対顔を見られない体勢で良かった。


「ああ、俺と親父が住んでる家をそろそろ建て替えようかなって大工と喋ってたら教えてもらった。ユリィほど力が無くても時間かければできるらしい」


「へえー、面白かったね!ありがとうカルロ」


「いつになく素直だな?」


「べ、別に……」


 これからどうしようと思うと激しい動悸がする。サラシを巻いていて本当に良かった。

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