赤い結晶のペンダント
家に帰ると、待ち構えていたキーラさんが出迎えてくれた。キーラさんには、私の作った結晶をペンダントに加工するためソニアの工房に持っていくことをお願いしていた。
「ユリィ、はいこれ!素敵な感じになったわよ」
「ありがとうございます」
手渡されたペンダントは赤く丸い結晶を4本爪で固定して金の鎖に繋げたものだ。結晶の表面はカットもなく滑らかなのに不思議と輝いて見える。
キーラさんはため息をつく。
「それ、一度持ってしまうと手離すのが惜しくなっちゃうすごいお守りね。持ってるとじんわり温かくて、なのにすうっとする……ソニアさんも感動してた。こんなすごい素材見たことないって」
「いやあ……」
ベタ褒めされて少し照れてしまう。はっきりと実証はしていないけど、作ったときに願ったのは体力回復、防毒、加護だ。とにかくジェイクが危ない目に合わないように作った。
「ソニアさんはもしまた作れるのなら買い取りたいと言ってたけど……」
若草色の瞳を揺らしてキーラさんは言う。
「私がもっと強くなったらできるかなと思います」
周りに心配かけずに楽々と作れたら、もちろんソニアにもキーラさんにもあげたい。魔力を少しコントロールできるようになってきたし将来的には可能だと思う。
「これ以上強く?そっちの方が私は心配しちゃう。ユリィはもっと普通の幸せを手に入れてほしいわ」
キーラさんは眉を下げて、私を抱き締める。キーラさんはしっかり筋肉もあるのに胸の柔らかい感触もある。
「私も昔は、戦いとか任務に明け暮れてた。でも今、ゼフと平和な暮らしができて本当に幸せよ。ユリィも求めれば叶うのに」
肩越しに聞こえる優しい声音は、堕落的な魅力があった。私もいつかはそういう暮らしを、と望んでいる。
でもそれは何年も後でいい。やるべきことは山積みだから。
出来上がったお守りを早く渡したいので、ジェイクの家に向かう。朝はばたばたしているし、今の方がいいと思った。
「こんばんは」
夕食を作るいい匂いが漂う、ジェイクの家のドアを叩く。お母さんのハンナさんが出てきて、すぐ後ろからジェイクも顔を覗かせた。
「ジェイクご飯前にごめんね、ちょっといい?」
「うん、もちろん」
久しぶりにジェイクの部屋に入る。 たくさんの本が積まれた机と椅子、ベッドと引き出しがあるだけの簡素な部屋だ。
小さい頃、私のお母さんとハンナさんは交代で私とジェイクを預け合って、その間に家事や畑仕事をしていた。そのときの記憶が強い。特に天井の木の模様は良く見ていた。
「天井、懐かしい?」
ジェイクがおかしそうに聞いてくる。
「うん、つい見ちゃう」
「僕も子供の頃の記憶結構あるから…顔みたいってユリィが言い出して」
「ジェイクが泣いてたよね」
「それはユリィの記憶違い」
口を引き結び、ジェイクがきりっと言い張るのでそういうことにしておこう。私は――包装くらいしてくれば良かったかな、と思いつつ、ペンダントをジェイクに手渡す。
「これね、お守り。私が作ったの。加護とか体力回復って感じかな?服の下に隠せるから」
「あっ……」
受け取ったジェイクはペンダントを見つめ、私を見つめ、勢いよく抱き締めてきた。今日は良く抱き締められる日だなと思う。この国では割りと気軽に行うけど私は未だに少し恥ずかしい。
「ありがとう。本当に嬉しい……これ、ユリィの赤い瞳にそっくり」
「それはあの、狙ってその色になったんじゃなくて……」
薄々思ってはいたけど、はっきり言われて顔が熱くなる。そこまでナルシストじゃないのに、なぜか私の瞳の色に結晶は似ている。そういうものを渡すのって意味深が過ぎるかと困っていた。でも作り直すこともできない。
「いつも一緒にいられるみたいで、見てるだけで元気が出てくるなあ。僕、ずっとこれ身につけるよ」
ジェイクはペンダントを首にかけ、矯めつ眇めつ眺めている。服できっちり隠れるように鎖は長めにしてもらってある。
「ジェイクを守ってくれると思う」
「僕は……ううん、ありがとう」
ジェイクは何か言いかけた。とても気になるけど片付けなければいけない問題がある。
「ところで、全然話は変わるけど。ジェイクは雷牙狼が国境近くに出没してるってどこで聞いたの?」
噂の出拠は公爵家が持つディセンブーク商会だった。雷牙狼の角を買い取りたい、国境近くに出没していると言って回っているという話だった。雷が当たれば即死もあり得るので余程命知らずでなければハンターも受けないけれど。
ジェイクに国境地帯の山中で麻薬であるイビヌが栽培されていたことを伝え、今後の方向性を話し合った。
イビヌは強い幻覚作用と中毒性でこの国で栽培も使用も禁止されている。健全な国家であれば、麻薬を野放しにしていいことなどひとつもない。
私も腹の足しにもならない上に人の命を食い物にするようなものだと荒っぽくなるくらい心底嫌いだ。自分だけが利を得れば良いという利己主義の産物だと思う。
しかし王族と血縁関係の濃い公爵家が絡んでいそうなので、こちらも良く策を練り証拠を掴んでからということになった。
三日後、長雨が終わると同時に城に黒旗が掲げられ国王が身罷ったと国民に告げられた。




