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創造

何度も魔力の光に曝されて、私はある可能性を見出だしていた。


アミルが帰って来た声がしたので一度実験をやめることにする。私はだるさを感じながらもなるべく急いで階下へ降りた。


「アミル!ジェイクが……」


私は王立図書館で王太子と出会ったこと、王太子がジェイクに侍従になるよう説得してきたこと、ジェイクは今の仕事を辞めて侍従になる決意をしたことを一気にまくしたてた。


「ジェイクが?」


アミルは額に手を当て、少し沈黙する。信じられないのかもしれない。私だって信じられない。


「あと、アミルは王の健康状態について、何か噂を聞いたことある?」


畳み掛けるようで悪いけれど、どうしても気になっていることを訊ねてしまう。


「いや、フランコ先生は貴族の顧客をたくさん持っているけどそういう話はないな」


「アミルが診察するなんて無理?」



「王族は侍医が診るものだから……。王太子殿下が何か言った?もし初めて会うユリィにまで言うとしたら相当な……」


アミルは鋭く事情を察して、眉を顰める。


「そうなんだ……」


自分の国の王と言えども特別尊敬もしてないし、今まで王の策略に迷惑を被ってきた。でも王は確かまだ46歳だ。死ぬには早い年齢を考えると同情心が湧く。私は前世で20代で死んだし、人間いつ死ぬかわからないから本当に急いでやることをやりたいなと思った。


「ユリィ、俺今、ユリィが考えてることわかるよ。自分もいつ死ぬかわからないから急がなきゃって思ってるだろ?」


的中しすぎてて驚いて顔を上げると、アミルがじっと私を見つめている。


「しかも今日はすごく疲れてるみたいだから心配だな」


「あ、あの石は私に使うの禁止していい?女子には色々秘密が……」


アミルに体の感覚を共有できるカリネックスの石を渡していたことを忘れていた。よく考えたらやばい石だったと今気づく。


「ごめん、しまうの忘れてただけ。これからはユリィと話すとき必ず石はしまうようにするから」


アミルは慌ててポケットから石を取り出し、魔力を封じる袋にしまって見せた。だけどアミルの青灰色の瞳は、全てを見透かすように透明な輝きを放っている。




夕食を食べてお風呂に入って、寝る用意を全て完了させ、いつ倒れてもいいよう準備する。私は上着を羽織ってモンスターから発掘した石が入ったアクセサリーボックスと大剣を持ち、ミルを連れてそっと家を出た。外はまだ小雨が降っている。


刈り取ったばかりの牧草地がいいかと広い畑を移動した。アクセサリーボックスの蓋を開き、衝撃波が直撃するように開口部を地面と平行に置く。


このボックスは魔力を封じる加工がしてある。中に入っている様々な石の効果がどんなものかわからず不安だったからだ。今は特注していて良かったと思う。


「ミル、私が倒れたら家まで連れて帰ってね」


ミルはわかったのかわからなかったのか、三角の耳を少し動かし、お行儀良く座って真っ黒な瞳で私の手元を見つめている。多分わかってくれてるはずだ。


剣の柄を握り締め、息を深く吸って吐く。一回勝負だ、と覚悟を決める。


「ミル、目を瞑ってね!」


私はボックスの中にある山積みの石、全てを壊すべく、思い切り剣を振った。剣から出た衝撃波が石を破壊し、目を瞑っていても眩い閃光が目蓋を通して視界を灼く。


ほとんど見えないままボックスを起こし、両手を差し入れた。熱い、と思ったら冷たくて指先が痺れるようだった。だけど魔力が逃げる前にと心は逸る。漸く慣れてきた目に映った魔力の青い光は、狙い通り大半がボックスの中に残って、暴れるように動いている。


願いを込めて光を集める。ほとんどは指の間から漏れてしまうがそれでも宥めるように、祈るようにそっと形を作っていく。

「できた……」


赤く輝く結晶を私は手にしていた。









目を覚まして、見慣れた天蓋の刺繍を確認する。自分のベッドにいるな、と安心した。隣にミルのふさふさの毛並みもある。やっぱり倒れたけど、ミルが無事運んでくれたようだ。だけど流石にあの結晶までは持ってきてくれてないかも、ときしむ体を起こす。


「へっ、アミル?」


視界に入ったアミルの姿を見て変な声が出た。アミルはベッドの横に椅子に置き、座ったまま寝ていたようだけど私の声で目を開ける。


「ユリィ?良かった目を覚まして…!」


アミルは泣きそうな表情に見える。アミルに気づかれないようにしたかったんだけど、流石に無理だったかと反省する。ミルに運ばれてるときにばれたんだろうか。


「えっと……心配かけてごめんね、大丈夫だから」


別にぱたぱた倒れる深窓の令嬢気取りでもないのにアミルには二回も倒れてるところを見られている。少し恥ずかしい。


「もっと自分を大事にして欲しい。ユリィだって大事な人が倒れてたらつらいだろ?」


「うん…本当にそう。ごめんなさいもうしない。ところで赤い結晶知らない?」


「そこにあるよ。サイドテーブル」


珍しくアミルの口調がきつい。ぎしぎしする体でなんとかベッド横のサイドテーブルに手を伸ばす。小さな赤い結晶は確かにここにあった。夢じゃなかった。魔力を集めて創造した、私の結晶。


「アミル、聞いてくれる?……私、ジェイクの命を奪いかけたことがあるの」


私の突然の告白に、アミルが驚愕して目を見開く。


「それはでも、わざとじゃなくて何か仕方ない状況だったんだろ?」


「私が無謀に洞窟探険になんか誘ったから。猛毒のモンスターに襲われて、私がとっさに突き飛ばしたの……お守りのペンダントがあったから大丈夫だったけど……」


あれがなかったら私は、身に余る力でジェイクを死に至らしめていた。私がこの手でジェイクを殺めたとしたら私は私自身を許せず、もう生きていないと思う。


「だから、離れちゃうジェイクにどうしてもこれを作りたくて」


「そうか…。責めるような言い方してごめん。そんなに泣かないで」


アミルの指先が私の目元に触れて、自分が泣いていることに気づいた。





翌朝、私はまだうまく動かない体を気力で起こしてダイニングへ向かう。


「ユリィ、どうしたんだ?」


普段と足音が違うからか、耳敏いカルロが心配そうに私を観察している。だけど私もカルロを観察した。今まで感じなかったけれどカルロの右肩のあたりが何かおかしい。


「カルロ……ちょっとそのまま」


「え?」


私はカルロの肩から鎖骨にかけてそっと指でしわを伸ばすように、見えない線をなぞるように触れていく。


「いいんじゃない?」


私は満足して手を離す。きれいになった気がする。


「ずっと痛かったのにすごく楽になった……何で気づいたんだ?」


カルロは右肩を軽く回し、信じられないといった表情をしている。


「色々あってね。何となく魔力が見えるようになったから、直した。だけどカルロも無理してたんじゃない」


人のことは言えない私が良く言ったもんだと密かに思う。


「ユリィはどこまで行くんだよ本当」


「今日は国境地帯に行こうと思ってる!」


「そういう意味じゃない」





集荷の時間になると、二頭立ての馬車にジェイクと、知らない人が乗ってやってきた。


「ユリィ、おはよう。この人はポンさんの商会で前から働いてたボニートさん」


「よろしくお願いします」


「これからよろしくお願いします」


焦げ茶色の髪をした優しそうな人と挨拶を交わす。でも本当にこの人に代わってしまうんだなとまた悲しくなってくる。私の顔を見てジェイクが気遣うように笑う。


「あと2、3日は引き継ぎとかもあるからそんな顔しないで。それに会えなくなるわけじゃないから」


「本当に?」


「何とかするよ」


ジェイクが何とかすると言ったらそれは絶対になる。私は結晶をペンダントに加工してから渡そうと思った。

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