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ジェイクの決心

暗い階段を登って扉を出ると、一気に雨粒と街中の喧騒にさらされる。地下のことは夢だったのかと思うくらいだ。


だけどエミリアーノ殿下の求める本を差し出し、エミリアーノ殿下の質問にもそつなく応じるジェイクに殿下は身分を明かし、侍従になるよう熱く語った。いずれは役職に就けるとも。そしてジェイクの答えを聞くことなく王宮に戻っていってしまった。


ジェイクはその後静かにいくつかの本に目を通してから、私に


「出ようか」


とだけ言った。何て言ったらいいのかわからなくなった私は黙ってジェイクの後をついてきている。


「雨がすごいから商会の事務所に行こう」

「う、うん」


ジェイクに案内されて、久しぶりにポンさんの商会事務所に向かう。怪しげな看板を出す小さな店が立ち並ぶ奥にある、増築を繰り返して扉と窓がいくつもある建物。商会の規模からいってもっと立派な建物に引っ越せばいいのにと思うが。


鷺のノッカーがついた扉を開けてジェイクは中に入る。


「あれ、ユリィちゃん来たの?ジェイクの用事は済んだの…」


「すみませんポンさん、ちょっと」


「お二人さん何か深刻な雰囲気?わあーボクお客さんとこ行ってくるからごゆっくりー」


ポンさんはジェイクの一言を聞くなり察してそそくさと上着をつかんで出ていってしまった。



「…いいの?」


「ユリィ、ビニールハウスについてよく考えたんだけどある程度わかったよ」


ジェイクは無表情に呟く。


「え?」


「お茶の用意するから座ってて」


ジェイクはにっこり笑って長椅子を指し示した。やっといつものように笑ってくれたので、少しほっとして私は大きな長椅子に腰掛けた。ジェイクはカチャカチャと手際よくお茶の用意をしながら語る。


「海にいるプラインってモンスターの粘液にスペロウガっていうモンスターの電気と熱を流すんだ。きれいに魔力を流す為のあとひとつの要素はまだ考え中だけど」


「粘液を固めるの?その発想はなかった…。そのモンスターってこの辺にいる?」


どんなモンスターでも倒す自信はあるけれど、生息地が国外ならハンターに依頼を出さなければと思う。


「プラインはこの辺の海にも、村の海にもいるありふれたモンスターだよ。スペロウガは国境前に最近出てるんだって」


「それなら何とかなりそう!ありがとうジェイク」


ジェイクは長椅子の前の低いテーブルに紅茶を置いて、私の横に座る。


「良かった。僕は少しでもユリィの役に立ちたくてずっと勉強してきたから……。だけど、限界を感じてた。僕は王太子に仕えるよ。その方がユリィのために出来ることは多くなる」


私はすぐ横のジェイクの、栗色の瞳を見つめる。寂しくなる、王宮に住んでしまうのかなと胸がいっぱいになった。と、急にジェイクが体を動かす。


もちろん私の動体視力はジェイクの動きをはっきり捉えていたけど拒否する理由もなかった。私の太ももの上にジェイクの頭が乗っている。いわゆる膝まくらだ。


「僕の頭、重い?」


「ううん、あんなにたくさんの本の中身が詰まってるのに重くない。…知識は荷物にならないって本当だなって思う」


純粋な瞳でジェイクは私を見上げているので、私も心のままに感想を言う。目の前の誘惑に勝てず、久しぶりにふわふわの猫柳色の髪を撫でた。私より背が高くなったジェイクにはこういうことをしてはいけないとずっと我慢していた。


「うれしいなあ。最近ユリィはミルばっかり撫でてるから」


気持ち良さそうにジェイクは瞳を閉じる。


「ジェイクももう大人だし子供扱いしたらダメかと思って」


「いいんだよ、よくユリィが言ってるでしょ…ユリィは僕よりずっとお姉さんなんだから」


「まあ、たしかに」


この肉体ではジェイクとは同い年で2ヶ月だけ私がお姉さんだ。 だけど、前世の記憶があって精神的には違うということを賢いジェイクはもう気づいているのかもしれない。だから、いいのかなと自分で自分を納得させる。



「やっぱ無理、外雨すごすぎて帰ってきちゃった」


勢いよく扉が開かれてポンさんが帰って来た。私は腰を浮かそうとしたけどジェイクが動こうとしないので、そのまま膝まくらの体勢でポンさんと見つめあう。気まずい数秒が流れた。


「えっと、すっかり仲直りしたみたいだね!でもそろそろジェイクは仕事に戻ってほしいな!」


「ポンさん、僕王太子殿下に侍従になるよう誘われました。殿下に仕えるので商会は退職します」


「は?」


突然のジェイクからの報告にポンさんは目を白黒させる。


「いや、ジェイクがすごい奴だってことはわかってたよ。いつかやる奴だろうとは…。だけどそういうことその体勢で言うかなあ?」




今後の集荷については、商会員に数日で引き継ぐ形になるらしい。ある程度話がまとまったところで私は家に戻った。



自分の部屋で、大きなアクセサリーケースを開ける。アクセサリーなどは入っていない。ここには今まで私が倒したモンスターから発掘した色とりどりの石が納められている。


効果がわからず、放置していた石だけどこの中からジェイクの役に立ちそうなものを改めて探そうと思う。

ジェイクのことだからうまくやるだろうけど、王太子も立派な人だけど危ない雰囲気があるし、政治の世界はドロドロだという偏見がある。考えると胸が詰まって涙が流れてきた。


「何かないかなあ…」


耳栓をつめ、目をつむり、色々と実験を行う。


「だめ、何にも感じない…というかもしカリネックスの石みたいな共感能力だったらひとりじゃわかんないし」


私はひとつ息を吐き、短剣を握る。そこまで差し迫って必要でもないのでずっと試していなかったことがある。モンスターから発掘した石を、更に割って発掘したらどうなるのか――――


「えいっ」


思いきって天王星の画像ような、薄緑の石に短剣を突き立てた。青く眩しい光が室内に満ち私は一瞬目を眩ませる。チェレンコフ光か、と焦る。いやまさか。


「え……?」


薄目で部屋を見回すと、あちこちがキラキラと光っていた。足元にいたミルの周りに特に集まっている。


「ミル、きれい……」


光の粒子を纏うようなミルの背中を撫でると、キラキラが私の手にも纏わりついて吸収された。ミルの体全体の輝きも、やがてミルに吸収されて消えた。


「ああ、そっか……これが魔力」


世界に満ちていると言われているもの。モンスターから発掘した石は魔力の塊だから、壊すとこうして散ってしまうのかもしれない。


じゃあ散った魔力を私とミルで吸収するとどうなるのか―――恐くもあったが、私は一度やり始めるとやめられない性格だ。続けて10個、色とりどりの石を短剣で壊していった。

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