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本の迷宮

王立図書館、と便宜的に呼んでいるがここは正規の王立図書館ではない。地上にある本当の王立図書館は予算不足なのか、私やジェイクが知りたい内容の本は置いていない。


そもそもこの道は万が一のとき王族が城から逃げ出すための非常通路だったらしい。だから街中に隠し扉がある。そしてこの道は数十年前の王女が、ルサーファ国から来た学者の男と恋に落ち、逢い引きに使っていたのだそうだ。


――あんまり子供に聞かせる話じゃないから言わなかったけど――


数年前に教えてくれたポンさんは苦笑していた。


アミルも含め、ルサーファ国は美男子が多いと言われている。王女が夢中になった気持ちも少しだけわかる。


結局王女とルサーファの学者は結婚出来なかったけれど、その名残としてたくさんの貴重な本が集められた。王女は青春を懐かしむように私設の図書館として地下の空間を広げ、王室に引き継がれた。そして今は管理人に高額な賄賂を渡して使う非公式の王立図書館として続いている。


経済的に余裕があるとはいえない王室も、予算を割かなくても本や金が集まる場所として黙認しているらしい。王宮内にも王のための図書室はあるだろうが、パソコンを使った検索システムなどないこの世界なので、時間をかけて蓄積した大量の本を管理把握しきれていないのかもしれない。



薄明かりの漏れる扉の鍵を開けて私とジェイクは本の迷宮に降り立った。


「まず管理人さんに挨拶しないと」


「そうね」


背の高い本棚の列を通って、昔から変わらない小太りの中年の男性を見つける。日光を浴びないせいなのかこの人は老けない。小さなカウンターがあり、後ろにも本棚が置かれている。


「こんにちは」


ジェイクは親しげに微笑みかけて金貨が数枚入った小さな皮袋をカウンターに置く。私はジェイクがたくさん勉強できるように、私の読みたい本を借りてきてもらう名目で頻繁にお金を渡している。最早貢いでるレベルだ。断られるときもあるけど、しつこく渡している。


「ああ…」


管理人の男とジェイクはすっかり顔見知りだと思うけれど、なぜか何度もまばたきし、目線を私とジェイクに泳がせながら皮袋をしまった。


ジェイクが歩き出すのに合わせて私はその場を離れたがどうも違和感がある。背の高い本棚の角を曲がり、向こうから見えなくなったのを確認してから、ジェイクの服を引っ張って足を止める。


管理人はカルロほどではないだろうけど耳がいいそうなので、ハンドサインで会話する。管理人の方を指差し、自分の目の近くで指をわしゃわしゃさせた。


――あの人、目が泳いでなかった?の意味だ。


ジェイクは頭をこてんと倒して考えるようにしてから、管理人の方を指差し、それから自分のお腹の前で手のひらをぐるぐるさせる。


――彼はお腹の調子が悪いんじゃ?の意味だと思う。


私はしゃがんで本棚の陰から気づかれないように管理人を覗く。ジェイクもそれにならった。すると彼は背後の本棚を押して移動させ、現れた扉の鍵を開けてどこかに行ってしまった。


「そう、なのかな?」

「うん、たまにあの扉から出入りしてるのは見るよ」


常連のジェイクが言うならそうなんだろう。私は取り越し苦労だったかとちょっと笑う。


「えっと、ユリィが言ってたビニール…みたいなものを作る方法いくつか考えたんだ。だけどちょっと難しい本の記述で、全部は覚えてないから手分けして本を集めよう」


「すごい、流石ジェイク」


「うまくいくかまだわかんないよ。ユリィは5-41-369の棚の『魔力の規則性と付加重合』という本を持ってきてくれる?」


「…うん」


「またこの場所に戻ってこれる?」


心配そうなジェイクだが、私は後ろを振り替えって棚番号を確認する。ここは2-26-197だ。


「う、うんがんばる」


かなり自信がなかったけど、仕事途中のジェイクにあまり時間をかけさせる訳にもいかない。私は忘れないよう数字を何度も復唱しながら歩き出した。


「5の41の369…」


どこまでも続きそうな本棚の列の、大分類5の並びにたどり着く。螺旋状のゆるい階段の壁全面に納められた本棚から、目を皿のようにして中分類41を探す。


「あった」


だけど身長より遥かに高い本棚の上の方が369になってるらしい。ジャンプしてもいいけれど、あの中から一冊の本を探すには梯子を持ってこないと無理そうだ。一度その場を離れ、梯子を探して持ってきて、ようやく『魔力の規則性と付加重合』を見つけた。


「やった……!!」


宝物を見つけたような達成感がある。私は本を抱き締めて戻ろうと歩き出す。目指すは2……2の……


「嘘でしょ……私の頭よ……」


記憶から2以降の数字がすっぽり抜け落ちている。

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