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剣の訓練

「人型モンスターって、存在しないじゃない!」


いつかアンジェラが話していたおとぎ話を証明するかのように、この世界に人型のモンスターは存在しない。全てのモンスターは人間とかけ離れた姿形をしている。だから私は反論するが、全員が険しい顔をしている。まるで鏡を見ろと言いたげに。


「まあ、いいわ。モンスターより的が小さくてやりづらいかもしれないけどお相手致します。ちなみに私の服はとても防御力が高いから本気で当ててもらって大丈夫よ、当てれるものなら」


私は安心させようと微笑んだつもりだが隊員たちは更に顔色を失くす。


今日の私は、白いフリルのついたブラウスに縁が金色で黒のベスト、花柄のスカートとまあまあかわいい格好だが、これは決して切れない大蜘蛛の糸と物理攻撃を無効化する空飛ぶ毛糸玉と呼ばれるモンスターの糸を縒り合わせて作られている。こういったものを着ているから、心配性なカルロが参加させてくれてるとも言える。


「この訓練は、何か決まりあるの?」


「剣を取り落とすか、胴体が地面に着いたら負けだ」


私の質問にカルロが淡々と答える。


「私には、一撃でも当てたら私の負けでいいわ。じゃあ…始めていい?実戦っぽく乱戦でいいでしょ?」


剣を両手で構え、ゆっくり歩を進めるだけで怯えた表情の隊員たちが後ろに下がっていく。全部で8人いるな、と目で数える。


「始め!!」


カルロの号令と共に、私は隊員たちの真ん中に躍り出た。若そうな隊員、と言っても同い年だろうか。茶色の瞳と目が合う。


「あなたは目線が動きすぎ」


私の左肩を狙ってくり出そうとした剣撃を、半身を引いてかわす。そのまま背中を手で軽く押すと彼は顔から地面に突っ伏した。10年間怪鳥ケツァルクックのルシファーとホウキだけでやりあってるので、隊員たちの速度は文字通りひよこ並みに思える。


「やああああ!!」


大声を上げながら突進してくる隊員の、手首を狙って剣身を当てる。ぽろりと剣が地面に落ちた。


「ぐっ!!」


「声に力入れすぎ……攻撃に力入ってない」


固まって動けないでいる大柄な隊員にはこちらから向かっていく。咄嗟に剣を構える彼の鎧の隙間に手刀を刺す。


「っ!!」


声も出せずに咳をして倒れこむ隊員に私は告げる。


「その隙間何とかした方がいいですよ」


後ろから気配を感じたので足を伸ばして引っかける。誰かが派手に転んだ。落とした剣を拾って私は真上に回転をつけて放り投げる。


空中の剣に一瞬視線が向いてしまった隊員二人にまとめて当て身をして倒す。と同時に剣が地面に突き刺さった。


「拾った剣なら地面に落としてもいいんでしょ?それにしても簡単な陽動にひっかかりすぎ」


「ああ……」

カルロは渋い顔で答える。あと3人。


「ほら、そんなことで大事な人を守れるの?震えてる暇なんてあるの?」


鼓舞しているつもりだけど悪役っぽくなってしまった私の台詞を聞いて一人の隊員ががむしゃらに突っ込んでくる。たまには、と剣で彼の攻撃を受ける。なんて弱い。そのまま押し返すだけで彼はたたらを踏んで後ろに倒れた。


「攻撃を防がれたらすぐに引いた方がいい。剣で押し合いしても時間の無駄……あとはあなた?」


後ろにいる隊員に振り返って、私は垂直に高く飛び上がる。自由落下で剣を隊員の鼻先すれすれに掠らせると攻撃を当ててもいないのに尻餅をついて叫び声を上げる。


「ま、参りましたっ!!」


「ふーん、モンスターは言葉が通じないから攻撃やめてくれないけどまあ今はいいわ。あとは……ナザリオ?」


さっきから気づいてはいたけど、カルロの同期のナザリオがいる。癖のある黒髪に紫根の瞳を持つ彼は、多分カルロに訓練してもらいたかったんだろう、恨めしげに私を睨んでいる。


「どこからでもどうぞ」


私は剣を上段に構えわざと隙だらけにしてゆっくりナザリオに近づく。ナザリオが私の胴を狙っている。案外素直な性格だなと思った。


ナザリオが攻撃のために半歩踏み出した瞬間、私は彼を追い越して背中に自分の背中をぶつける。ナザリオは自分の進む勢いに加勢されバランスを崩して倒れた。


「わーんカルロ!!ユリィがいじめた!!仇を取って!!」

ナザリオはすぐ立ち上がり、泣き真似をしてカルロに抱きつく。この人は………。


「いい訓練になっただろ?ナジは最近鍛練をサボってるんじゃないのか?」


カルロは慣れた様子でナザリオの肩を軽く叩いている。カルロは鋭い水色の瞳でクールそうに見えるけど、頼られるのが好きな性格だ。だからこそ私はあまり頼りすぎないようにしている。


「カルロお願い!ユリィとの試合をやって!!俺かっこいいカルロが見たいんだよ!!」


「隊長!!それ俺も見たいです!!」


「俺も!!」


体をさすったりしていたほかの隊員たちが我も我もと声を上げ、妙な団結力を見せる。


「俺は剣は得意じゃないし、ユリィとなんて……」


「私も剣は得意じゃない、さっきのでわかったでしょう」


カルロは普段弓専門だし、私も短剣やレイピアを主に使っている。だからさっきもほとんど剣を使わなかった。


「カルロもユリィも国内最強どころか世界最強のくせに!こんな夢の対決もうないよ、みんな見たいよな?!」


ナザリオが煽るので、うおおおおっと隊員たちも一致団結して喚声を上げる。この団結力はさっき私と戦うときに使えば良かったのに。


みんなに囃し立てられ、お膳立てられるまま私とカルロはそれぞれ剣を持ち、相対していた。


「よーい、始め!!」


ナザリオが号令をかける。私は剣を両手に持ち、正面のカルロの全体を見る。私と同じように剣を両手に持ってやや緊張した面持ちをしている。だけどさっきの隊員たちとはまるで違って、隙が見受けられない。引き締まった体躯はどこを突こうとしてもすぐに反応してくるイメージが見える。


カルロの反応速度を考えると身長や手足の長さの違いは不利になるかもしれない。私の方が小さい。さっき隊員たちと戦ったときは体格差なんて気にならなかったのに、8年、私の近くで身体強化を続けたカルロは今や――もしかして私より強い?


背筋に電気が走ったように、ぞくりとした。


カルロの左足の爪先がわずかに動く。視界が明るく広がり、世界が輝いて見えた。


「笑ってるぞ……」


誰かの呟きが聞こえたとき、私はカルロの間合いに飛び込んでいた。跳躍と共に遠慮なく顔めがけて最大速度で剣を振り下ろす。当たる直前、剣が折れないように片手を離して力を緩めた。カキンと小気味良い音がした。続けざまに、腕、肩を狙うが全てカルロの剣が丁度いいところに出現して防がれる。


口元が緩むのを抑えきれない。カルロは私の攻撃を全て剣で弾いてくれる。なまくらな剣が刻む音がこんなに綺麗だなんて知らなかった。手を変えたりフェイントを混ぜても必ずそこにカルロの剣がある。


初めて負けてもいいと思った。私は遊ぶように剣を薙ぎ、片膝を地面につき隙を作る。――攻撃してこない。カルロの目には困惑が見えた。


やっぱりこんなときでもカルロは私を傷つけないようにしている。みんなの前でいいところを見せたらいいのに。私は剣を片手に持ち、一番得意な刺突でカルロの胴を狙った。カルロの剣が防御のため斜めに斬り下げられる。キン、と甲高い音がしたとき、私は剣から手を離し、それは遠くに弾き飛ばされた。一応人のいない方向に飛ぶようには計算してある。


「私の負けね。疲れちゃった。私って体力ないみたい」


おおおおっと再び喚声が上がる。


「隊長!お見事でした」


「早すぎてあんまり見えなかったけどすごかったです!!」


隊員たちが口々にカルロを誉め出すのでこれで良かったんだと思う。


「ユリィ……」


カルロが何か言いかけるが私はそれを手で制す。


「すごく楽しかったわ。皆さんも手合わせありがとう、では私はまだ仕事がありますので。ご機嫌よう」


私はそそくさと挨拶をしてその場を去る。そんなに疲れていないのに、なぜか心臓の鼓動が速くて胸が苦しかった。



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