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再会

何かに呼ばれるように目を開ける。


天蓋の薔薇の刺繍と、ドレープを作るオーガンジーに焦点が合い、私は体を起こした。隣で眠る大きな銀狼、ミルは鼻を鳴らして何かの夢を見ているようだ。


私はベッドから降りて蔦模様の厚いカーテンを開けた。昔の家にはカーテンなんてなかった。そもそもガラスの入った窓すらなかったのだから。


あれから8年が経った。私は15歳になり、この国でいう成人を迎えた。レオナルド・グラソー子爵の養女となり、発掘農具と化学肥料による農業改革を行い、毎年の黒嵐竜対策と忙しい日々を送っていたら本当にあっという間に過ぎた。



新しいこの家は、王都のグラソー邸の別邸として建てられている。主邸と同じく蔦のレリーフがあちこちに配され、主寝室が3、客室が7部屋と無駄に広い作りで完成まで2年もかかった。


前の家は屋敷の裏にひっそりと佇んでいる。



私は、子供の頃より身支度に時間をかけるようになった。日焼けをするとドレスが似合わなくなるとグラソー家のメイドにため息をつかれるので、アンジェラからぼったくり価格で日焼け止めを買っている。



週1回、グラソー子爵の元に行き、教育を受け、たまにパーティーに出席する以外は変わらず農業に精を出している。


階下に降りてダイニングに行くと、カルロがコーヒーを飲んでいた。コーヒーと茶葉は5年前から、畑作に向かない山の上の領地で生産を開始している。


「おはよう」

「おはよ」

私はカルロが淹れておいてくれたコーヒーに、牛乳をたっぷりと注ぐ。これも日常になった。カルロはこの家に住んでるわけじゃないけど、鍵を持っていて自由に出入りしている。近くにいることにもう何の疑問も感じない。


25歳のカルロは涼しげな水色の瞳はそのまま、大人の落ち着きが出てきた。絶対にもてるだろうと思うのに未だに結婚しないでいる。


この8年で村への移住者も増えて適齢期の女性もちゃんといるのにのになぜ…と思うけど、そろそろ結婚しないの?なんて言ったらセクハラかなとずっと触れずにいる。

そういうのは私も前世で言われていたけどいつ結婚するかも、あるいは一生しないのも本人の自由だ。



足音がしてきたので、私とカルロは仕事を始めるために席を立つ。

ゼフさんとキーラさんだ。


元々は国に命じられて反逆の恐れのある私を監視していた二人だが、色々な縁があって、今では牧場を手伝ってもらっている。


牧場といっても、その範囲はとても広い。グラソー子爵領のほかに、子爵が結婚した伯爵家の領地も開拓して、農業、酪農、工場と多角経営をしている。

それらをひっくるめて便宜的に牧場、と呼んでいる。



カルロ、ゼフさん、キーラさんは私の作る食事で身体強化しているのでひとりで10人力以上の働きができるので今のところ直営はこのメンバーでやっている。


王都に出荷する卵や牛乳、野菜の収穫が終わった頃ジェイクが集荷にやってきた。



「ユリィおはよう!」

「おはよう」


ジェイクは栗色の瞳と猫柳色の髪はそのまま、いつの間にか私より少しだけ背が高くなった。昔は女の子と見間違えられる程可愛らしい顔をしていたけれど、今は美少年という感じだ。


「これお母さんから」

「ありがとう、じゃあこれね」


ジェイクのお母さんの焼いたパンと、私の作った野菜の物々交換も変わっていない。最早ジェイクのお母さんのパンは私にとってお袋の味なので、ないと何だか落ち着かないのだ。


「なんか、ジェイクまた背が伸びたんじゃない?」


昨日も会ったけど、昨日より大きい気がする。


「寝るとき足があちこち痛いから…まだ伸びてるかな?」


ジェイクは長く伸びた足をさすって答える。男女の成長期の差なんだろうけど、数年前は私の方がずっと大きかったのに。


「私もまだ成長止まってないから、勝負はこれからよ!」


「あはは、やっと追い越せたのに困るなあ」


朗らかに笑うジェイクの後ろの空──何かが見えた気がした。誰かが馬に単騎乗りでやって来ている。私の視線に気づいたジェイクが後ろを振り替える。


薔薇と赤いリリアレスが両端に咲き乱れるアプローチに、一頭の白馬が緩やかに着陸した。


「久しぶり!元気だったか?」


騎乗したまま、親しげに笑うその人の姿を見て私とジェイクは、驚きのあまり一言も発することもできずにいた。


褐色の肌に、輝く銀の髪の青年は──アミルだった。


白い布地に金糸の刺繍が施された服は、朝の光を反射して妙に眩しく見える。


「アミル!!」


白馬から降りたアミルに、ジェイクは抱き着いた。昔も頭ひとつ分くらい身長差があった気がするけど、今でもあまり変わっていない。


それにしても──すごく男の人───


たくましくジェイクを受け止めるアミルは、どこからどう見ても男の人で、私は宇宙人を目撃したかのように固まっていた。

私も抱き着くとか、無理……そんなこと…


「ユリィ、久しぶりだな。すごくきれいになった」


アミルが立ち尽くしている私に歩み寄って手を差し出してくるので、ぼうっとしたまま大きな手を握った。

乾いたその手に触れたとき、自分の手が手汗で湿っている気がして今すぐこの場から走って逃げたい気持ちになった。

8年振りに会えたのに。


「あ…アミルすごく大人になったね……」


近寄ってくるとまともに顔が見られない。あと、何で真顔できれいになったとか言えるんだろう。大人?


「成人したからな。それで家出同然で出てきたんだ。先に連絡できなくてごめん」


「ルサーファは20歳で成人なんだよね。でも僕らの国は15歳で成人だからみんなもう大人だよ!」


ジェイクは嬉しそうに頬をピンクに染めている。私の顔は今どうなっているのか、とりあえず顔が全体的に熱い。


「積もる話もあるけど、ジェイクはこれから王都に行くんだろう?俺も村長に会ってくるからまた後で話そう」


「あっそうだね!」


「う、うん」


ジェイクとアミルはまだ何やら話をしつつ、それぞれ出発した。

だけど私はその場にしばらくうずくまって動揺がおさまるまでしばらくかかった。

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