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黒嵐竜②

「観測班!」


「はい!」


私が声を荒らげると切れの良い返事があった。二十代半ばの青年が怯えた様子で駆け寄ってくる。


「ヌウアルピリの正確な予定到着時刻を」


「はい!今から1時間半後にこの港に上陸すると思われます!」


「一時間半か…充分ね。作戦を説明します」


雨が強く降る中、私は皆を集める。まだ不満そうな顔をしている者がいたのでもう一度剣を奪い、その男の顔の目の前で折って見せた。


「暴れ馬だ……」

「暴れ子馬だろ?」


ひそひそと話す隊員は無視する。


「この中にヌウアルピリの姿を目視した者は?」


私の問いに、雨音だけが答える。

黒嵐竜ヌウアルピリは伝説的な存在で、その姿は暗雲にいつも隠されている。ジェイクもどのような文献においてもはっきりと書かれていないと言っていた。


「いないのね?では、私が知っていることを話します。ヌウアルピリは、嵐の中心にいます。そこは風も雨もありません。よって、嵐の中心に入るまで全員待機」



「この港は!嵐に飲まれるぞ?!」


「全てを守るのは無理な話です。暴風の中、姿も見えない敵に向かって大砲を撃っても意味はありません」


全員の目が私に集まっている。この状況でも不思議と私は落ち着いていた。隊員たちに話していることは、前世の台風の知識では当然のことだけど、モンスターであるヌウアルピリがそうである確証はない。


ただ、嵐を起こすには上空に気圧がめちゃくちゃ低い場所を作り、雲を集める必要がある。恐らくそこにいるだろうなという予想だ。


自分の周りに暴風域を作り、何もかも薙ぎ倒して安全に捕食する、はた迷惑なモンスターだと思う。


「なんの根拠があってそんなこと言ってるんだ!」


はっきり私の前に出てきて言う勇気もないのに、太い声で文句をいう誰かがいる。


「私はユリィ殿の意見に賛成だ!」


一歩前に出てきてよく通る声を張ったのは、隊長だった。声に聞き覚えがあるし、いつもの青い羽根飾りをつけている。日焼けした肌に肩までのシルバーブロンド、高い眉骨の精悍な顔つきだった。私は初めて彼の顔を見た。


「我々が立てた計画も全て、ヌウアルピリを発見次第──というものだった。しかし暴風の中にはいないのであれば、戦いやすいというもの。貴殿らの命を守る責任が私にはある」


隊長は全員の雨に濡れた顔を見回す。


「ありがとうございます…。では、暴風に飛ばされると危ないので、この辺全て片付けてください。無理なものはロープで繋いでください」


隊長と比べるとカリスマ性のない私の命令だったが、隊長から怒号が飛ぶと皆一斉に動き出した。



「カルロ、カルロは重要な役割を果たしてもらうから体力を温存してて」


私は残りの作戦をカルロに伝えた。カルロはずっと難しい顔をしていた。


「ねえ、昨日も言ったけど……カルロと一緒なら楽勝って思ってるから。カルロは嫌がるけど、私は前から一緒に戦ってみたかったの」


雨風が私に当たらないよう、カルロはさりげなく風上に立っている。どうしてこんなにかばいたがるんだろう。


「そっか」


雨粒を滴らせたカルロの口元は微かに笑ったように見えた。



更にごうごうと風が強くなり、叩きつけるような雨が体に降り注ぐ。雷も発生しているので皆で身を伏せて待ち続けた。移動できなかった艀や屋台の骨組みが風に巻き上げられ、どこかにぶつかる。大砲はどうしても使いたいそうなのでロープで固定されている。



一生分の雨に打たれたんじゃないかと思ったそのとき、突然音が静かになった。風が、雨が止んでいる。


「観測班!」


「2時の方向!」


私の呼びかけに素早く観測班が翼求の瞳を使い、ヌウアルピリを発見する。


「ミル、ドライ!」


私はカルロを指差し、ミルにドライを使ってもらう。びしょ濡れだったカルロの姿が一瞬にして乾く。


カルロは目標を発見して大弓を構える。カルロの使う矢の矢尻は、いつの間にかお父さんがオリハルコンで作っていた。それを昨日発掘強化してある。


大弓は引くのに少し時間がかかる。まして目標は遥か上空だ。この間にミルにドライをあちこちにかけてもらい動きやすいようにする。大砲に詰める爆薬はドライをかけていいかわからなかったので、濡れないよう厳重に保管していた。


高い風切り音が響く。カルロが矢を発射した。第二射を撃つべく、カルロは矢をつがえる。


ここではヌウアルピリに当たらなくてもいい、ただヌウアルピリを怒らせて上空から私たちのいるところまで降りてきてもらうのが目的だ。


固唾を飲んでカルロの第二の矢の発射を待っていると、音もなく大きな影が降りてきた。


「来たぞ!カルロ!下がって後方から発射用意!」


隊長が声を張り上げ、隊員たちがカルロと私の前に並ぶ。私とカルロは積み上げた貨物箱の上に移動する。


漸く姿を見せたヌウアルピリは浮遊する岩、という印象だった。あちこちに苔が生え、全体は四角で顔らしきものがかろうじて浮かび上がっている。

ここにいる全員が背中に乗れそうなほどに巨大な岩は、私たちの目の前、空中で静止した。


「これがヌウアルピリ……」

展開遅いでしょうか…反省してます。


ブクマ、評価、閲覧ありがとうございます。

大変励みになっております。

こんなに長く文章書けたの初めてです。

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