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出撃命令

ナザリオが連絡係として村に来るようになって数日が経った。

小麦畑は鮮やかな緑から少しずつ黄色みを帯び、収穫の日の到来を予感させる。


カルロは私を「部外者」または「子供」扱いして作戦の詳細を教えてくれなくなった。ナザリオと二人でこそこそと喋っている。私を出来るだけモンスターと戦わせないようにしているカルロなので、私もあえて無視していた。

だけどカルロの顔色が日に日に悪くなり、目付きが鋭くなっているのが気にかかる。




農作業の終わった昼下がり、私とお父さんは私の部屋のベッドを広くするべく作業をしていた。


「うん……部屋中ベッドになったけどこれで目が覚めたら床ってことはないと思う。ありがとうお父さん」


自らファルオス狩りをするようになってミルはますます大きく成長した。シングルベッドを完全に占領しても足りないくらいだ。


「それにしてもミルはなんで俺とは寝ないんだろうな?」


「さあ?年頃の女の子だからかな?」


ミルはお父さんにも懐いているけどお風呂と就寝時は私にべったりだ。女の子だから、とお父さんには言ったけどやっぱり私の方が好かれてるからだと思っている。



「ユリィー!いる?」


ジェイクの声がした。王都の仕事を終えて寄ってくれたらしい。


「ジェイク!暑かったでしょ?何か飲む?」


夏になって氷鳥の冷蔵庫は大活躍している。少し早めに収穫できた大麦を焙煎して作った麦茶を冷やしてあるので味を見てもらいたくていそいそと私はコップを用意する。


「うん、ありがとう……おいしいねこれ!」


「あと何種類か、麦の品種違いもあるからまた明日も味見してね。一度に飲むとお腹冷やしそうだから」


大麦も色んな種類があるし、焙煎の具合でも味が変わるので面白い。ジェイクはもっと喜んでくれるものかと思っていたけれど、なぜか暗い表情になる。


「……王都の様子がおかしいんだ。港に船が少ない。それに、さっき宿屋リリアレスに貴族の馬車が何台も止まってた。だけど管理人に確認したら、お金を払って部屋を確保しただけで宿泊はしていないらしいんだ」


「それってどういうこと?」


「わからないけど……。明日、何かありそうだからユリィも気をつけて」


ジェイクの栗色の瞳が不安そうに揺れている。

元気づけてあげたくて私は必要以上に明るい声を出す。


「大丈夫、私はぜっったい何にも負けないから」


口に出したことで自分でも励まされる。ジェイクは少しだけ笑ってくれた。内部で色々と葛藤があるようだけど。


ジェイクが帰ったあと、すぐにカルロがやって来た。というかジェイクが帰るのを近くで待っていたように思える。


「ジェイクの勘は当たってるよ」


カルロは陰鬱な雰囲気を纏い、足取りも重い。


「アウグスさんとユリィに話がある」


「なんか怖いんだけど」


「……」


私がおどけてみてもカルロは伏し目のまま自分の靴を見ている。これは何か大変なことになったかも、と私とお父さんはダイニングの椅子に座る。


一応みんなの前に麦茶も出してみたけど誰も手をつけない。重苦しい空気の中、コップはびっしりと水滴をつけている。


「どこから話せばいいか…。まず、観測班からの情報だ。明日王都の港に観測史上最大の黒嵐竜ヌウアルピリが上陸するそうだ」

カルロは組んだ手をテーブルに置き、視線をそこに向けたまま話し始める。


「!」


「貴族にだけ先に情報が伝えられている。明日、王都は避難するやつらで大変な混乱が起きるだろう。まあ人間は大体避難できるはずだ。しかしこのままだと王都の建物は壊滅的な被害を受ける。建物は全てなくなり、みんな宿無し、都市機能も止まる」


カルロは拳を固く握り、血管が浮き出る。


「それで……俺とユリィに出撃命令が出た」


「ユリィに?」


珍しくお父さんが血相を変える。


「すみませんアウグスさん。俺の責任……俺の力不足です」


「カルロは悪くない!すごく色々やってくれてる」


謝るカルロに私は驚いてしまう。お父さんよりよっぽど動いてくれているのを知っている。


「だけどユリィ、ファルオスの石を観測班に使わせるなんて俺が言い出さなければ」


「そしたら突然ヌウアルピリが王都に上陸して、どれだけの人が犠牲になったかわからない」


王都にいる人はこの村の比ではない。それだけの人がヌウアルピリに襲われるなんて悪夢だ。


「大丈夫、もともと命令なんてなくても…戦おうと思ってたから。私ならヌウアルピリにも勝てるし、カルロも一緒なら楽勝でしょう」


私は盛大な嘘をつく。毎年嵐には悩まされていたけど戦おうなんて思ったことはない。風雨の中でどう戦えばいいんだろうか。


「……多分だけど、命令を下した重臣たちも俺とユリィが勝てるなんて思ってない。この機会に排除しようとしてるだけだ」


「大誤算にしてやるわ。よし、こうなったら私とカルロが出撃することを国中に広めて、倒したら国の英雄としてパレードくらいやってもらおう」


未だに青い顔をしているカルロを慰めようと私は明るく振る舞う。カルロを巻き込んでしまって悪いとは思っているけど、謝るのは全て終わってからにしよう。

───これ、死亡フラグかな?


数人の荒々しい足音がした。なるほどこれが軍靴の足音というものか。


全身を甲冑に包んだ防衛隊が家に入ってきた。高々と立派な令状を掲げ勿体ぶった口調で何かを読み上げている。要約すると国家の危機に出撃してその身を捧げろ、ということらしい。生け贄を捧げてもヌウアルピリは許してくれないけど。


防衛隊の人たちの表情は見えないけど、彼らも命令されてやっているだけなので私は冷静に答える。


「──わかりました。ささやかながら尽力致しましょう。成功した暁には私とカルロの功績を祝うパレードを行って下さい。それとカルロは二階級特進で」


「む…いいだろう」


どうせ出来ると思っていない隊長は安請け合いする。相変わらずフルフェイスの甲冑だが、隊長とは何度も話しているのでわかるようになってきた。

羽根飾りの色が違う。


「ヌウアルピリの予想上陸時刻はいつ頃なんですか?」


「明日の午前中だ」


「良かった。それなら仕事終わりに出来そうですね」


私はあくまでも、農民だ。日々のローテーションは崩せない。明日もトウモロコシの収穫をしてルシファーたちの世話をしてから出撃する。

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