ゼフの感謝
「えーと、それはともかく」
私はつい興奮してしまったので、気を取り直して咳払いのふりをする。
「キーラさんの様子は今どうなんですか?傷が膿んだり、熱を出したりしてませんか?」
こうしてゼフさんがこちらに来ていることからも察することができるが念のため確認したい。
「キーラは、もう身の回りのことも自分でできる程に元気だ。本当に、ユリィ殿の素早い救助のおかげである。任務に戻るまではもう少しかかるだろうが」
ゼフさんの言葉に、安堵すると同時に胸が痛くなった。お父さんのように、キーラさんの体に後遺症が残ったらどうしよう。少しでも今までと同じように体を動かせなくなることはその人の生活に大きな影を落とす。
私が存在していなければ、こんなことにならなかったという自責の念が湧いてくる。
「……傷が落ち着いたらこれを使ってみて下さい。傷痕を薄くするくらいは出来ると思います」
私は壁際の引き出しから、先日作った傷薬を取り出した。遮光のできる金属の軟膏容器に入れてある。
「これは……かたじけない。ユリィ殿は、不思議な魔力を持っておられる。きっとキーラの傷に効くだろう」
ゼフさんは渡された容器を受け取り、初めてにこりと、普通に笑った。目尻に浅い笑い皺ができて、普段はよく笑う人なのかと思わせる。
「ユリィ殿。他者より力を持つが故に余計な気苦労も多いようだが、拙者は年端もいかぬ少女に責任を負わせるつもりはない」
「でも……」
ゼフさんは私の心を読んだように言い当てる。流石の観察力というべきか。
「拙者がもっと強ければ良かっただけのこと。……ちなみにだが、カルロ殿のようにユリィ殿に助力頂ければ拙者も強くなれるのかな?」
「完全に農家になってくれるなら考えます」
私は少し迷ったけど肯定的な意見を出した。ゼフさんは私の能力について大体知ってるようなので隠すこともないかと思ったのだ。
「はは!冗談だ。では、すっかり長居してしてしまったが、今後はもう話すこともあるまい。私は任務に戻る。これからは拙者に気付いても無視して欲しい。もしモンスターに襲われていても、だ」
「そんなこと言われましても」
私は反論しようとしたがアンジェラの賑やかな声が外から聞こえたので、ゼフさんは無表情で片手を上げ、家を出ていく。
「ちょっと~子供たち~。お出迎えがないわよ!」
ゼフさんとアンジェラは玄関前ですれ違うが、アンジェラは気にしていないようだ。
「今日は星のお勉強しましょうね!大人の神話の話もしてあげるわ!」
「アンジェラ先生、よろしくお願いします」
今まで黙っていたジェイクがアンジェラを迎えに出ようとする。が、急に振り返って私に囁く。
「ユリィ、僕も自分の力の無さによくうんざりするよ。多分ユリィよりもしょっちゅう」
「ジェイク……」
私は名前を呼ぶしか出来なかった。
色々考えることがあって授業の前に頭がパンパンになってしまっている。
ゼフさんとキーラさんの恋仲は応援したいのに間接的に二人を傷つけたこの私という存在。
というか、大人の神話って何?
神話の中から行動を間違えないヒントとか学べるのだろうか?
◆◆◆
「ふぅ……」
今日のアンジェラの授業は早めに終わり、解散となった。
頭の中で神話の恋人たちの愛憎渦巻く物語とゼフさんとキーラさんの姿がごちゃ混ぜになってくらくらしていた。
ため息をつきながらブルータスにご飯をあげる用意をする。
小さなブルーベリーの粒を微塵切りにして、お父さんが持っていたピンセットでつまみ上げ、ブルータスの嘴の奥に差し入れる。
手製の箸もいいけど、すぐ紫に染まってしまうので金属のピンセットがあって良かった。
「ブルータス、これで強くなれるよ」
ブルータスはご飯をもらうことに慣れて、雛返りでもしたように折れた嘴を開けて次を待っている。
その嘴も充分食事ができるようになっただけで驚異の回復力を見せている。オリハルコンやミスリルの嘴はいらなそうだ。
「みんなはそんなにやらなくていいって言ってくれるけど、手の届く範囲くらいは何とかしたいよね…」
ブルータスにご飯をあげ終わったとき、地下通路に通じる床板が動き、青ざめたお父さんが顔を覗かせる。
「ミルがご飯食べなかった」
「え!!」




