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傷薬

今回血が多くなってしまいました。

私とお父さんはお互いの知識と技術を総動員して、傷薬を作り上げた。

傷に効果があると言われている植物はこの世界にも複数あるので作ろうと思えば何十種類にもなってしまうが、今回は絞りこんで3種類にした。


私が植物を刻み、効果を何倍にも引き上げる。

お父さんがその成分を抽出して傷口を保護できるようにゼリー状に調整した。

今まで気づかなかったが乳鉢や秤、濾過装置、蒸留装置、手動の遠心分離機などお父さんは様々な道具を持っていた。私が農業に夢中になっている間に本当に色々やっていたらしい。お父さんの手伝いがなければいきなりこれほど完成度の高いものはできなかっただろう。


お父さんとまともに共同作業したのは初めてかもしれない。


「よし、じゃあ実験だな」

お父さんは腕の肘から下を机に乗せる。そのまま材料を刻むかのようにナイフで自分の腕に切れ目を入れた。


「…えっ、な、」

私はお父さんの突然の行動に驚く。お父さんの腕に3本入れられたナイフの傷からじわじわ血とリンパ液が滲み出てきていた。


「薬を塗ってみてくれ」


「なんでいきなりそんなことするの?!」


「なんでって、そりゃ実験しないと効果がわからんだろう」


「私はそんなつもりで手伝ってって言ったんじゃないのに……」

傷は深くはないけれど、目の前でリスカされる娘の気持ちも考えて欲しい。

私は薬を塗りながらついお父さんを非難してしまう。


「このくらいで死にはしない。俺がひとりで作って飲んでた薬の方がやばかったぞ」


お父さんは傷口を眺め、ふうふう息を吹きかけている。ミントを使った傷薬もあるので気持ちいいのかもしれない。


「私ってお父さんの血を引いてるわ……無茶してるとき、周りからこう思われてるんだって良くわかった」


「はは、まあ顔なんかそっくりだしな」


「うそ?私はお母さん似でしょ?」

いや絶対お母さん似だと自分では思っている。


「ジーナはもっと美人だったからなあ」


「ふん」


記憶の中のお母さんは確かにものすごく美人な印象だけれど写真もないこの世界では、その輪郭は少しずつ朧気になってしまっている。もし顔が思い出せなくなっても私の中に存在していることに変わりはないけど。


薬が乾かないように包帯を巻いて明日様子を見ることになった。


「あっ」

そういえば虫除け作りが途中のままだ……


と、私は寝る前に思い出したが明日でいいかとベッドに入った。夏になってもミルは一緒に寝ようとくっついてくる。かわいいけどとても暑苦しい。

ミルは炎を食べるくらい熱に強い。夏の暑さなんてせいぜい10度くらいの温度差だから、あってないようなものなんだろう。

とても羨ましい。






「……?」

何か聞こえた気がして、暗闇の中で目を開ける。

暑いながらもいつの間にか寝ていたらしい。顔の横にミルの鼻息がかかっている。


「キャアアア!!」


聞き間違いじゃなかった!

私はザンディーラの石がポケットに入った服を着て、外に飛び出す。今夜は新月で、星明かりしかないがザンディーラの石で嗅覚を強化して匂いの方向へ走った。


監視の女性の匂いと、獣の匂い。そして血の匂い。

自分の顔が歪むのがわかる。どっちの血?!



暗闇の中、モンスターの赤い目だけが僅かな光を反射して見えている。目が慣れてきたのか、枝のような巨大な角が揺れているのも見えた。


「何やってるの?!」


どちらに向けた言葉なのか自分でもわからない。

私はとにかく加速をつけて飛び上がり、黒い影に向かって踵を落とす。鈍い音が辺りに響いた。

あまり硬いタイプではないようで手応えというか、足応えはあった。

しかし匂いで場所はわかるものの、急所がわからないし武器も持って来なかった。致命傷は与えられなかったらしい。

モンスターは憎しみのこもったうなり声をあげて私に向かって突進してくるが、それは簡単に避ける。


そのとき、カルロの匂いが近付いて来たのを感じた。

私は女性を探す。鼻が麻痺しそうな血の匂いの中に女性が倒れていた。息はあるけれど危険な状態に感じる。手が滑るが何とか背中に担ぎ、走ってモンスターから逃げる。


「カルロ!!モンスターはお願い!女性は私が確保してる!!」


これくらい大声で叫べばカルロはちゃんと聞き取ってくれるだろう。


ややあって、空気を切り裂くような鋭い音の後、重たいものが倒れる音がした。


私は走るのをやめて女性をあまり揺らさないようにして家に入る。

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