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甘くないオレンジ

いよいよ本格的な夏が到来した。

私は日が昇るかなり前に起床する。我が牧場はサマータイムを導入し、2時間ほど早く作業を始めることにした。というか、炎天下で収穫を行うのは人間にも収穫物にも悪影響しかないので暑くなる前に野菜の収穫を済ませてしまう。

トウモロコシが主な収穫物なので、朝採りの方がおいしいし。



まだ少し寝ぼけ顔で出勤してきたカルロと、朝靄の中ひたすらトウモロコシを収穫する。

ルシファーたちの飼料にもなるので、春に大量に植えてある。

飼料用のほかに、私が甘いトウモロコシを目指して品種改良中の区画がある。しかし、突然変異種も多く実っていて、真っ白、紫、ミックス、巨大化したものと滅茶苦茶に生えている。


「成長してるときからやばいなとは思ってたけど、壮観だな」


カルロが呟く。これは私の手に宿る能力、『発掘』の副産物だ。私が品種改良しようと人口受粉などをさせるとこうなるらしい。今年の春まで能力に気づかずにこの世界はこういうものなのだと思っていた。

ソニアから、魔力を遮断する手袋が届いたので今度からはこれを使っていくつもりだ。


「来年にはきっとうまくいくし……」

私は巨大化して通常の3倍の大きさになったトウモロコシを手折る。見た目は面白いけど需要はなさそう。


私は軽く唇を舐める。周囲の匂いがぐっと濃くなる。

嗅覚を強化できるザンディーラの石を最近使いこなせるようになってきた。

唇を軽く舐めると、程よく嗅覚が強化されて30分くらいで効果がなくなっていく。



ソニアに頼めばペンダントかブレスレットにしてくれそうだけど、効能を知られたくなくてカルロのように服の裏側にフラップ付きポケットを縫い付けて入れている。

あまり真似したくなかったけど。


「女の人がいる」

畑の真ん中で、私はカルロに囁く。今日は臭い監視の男から交代しているらしく、女性が枯草を身に纏い畑の端に潜伏していた。

「そうだな」

カルロは一瞬眉を寄せ、半眼で私を見る。

この距離ならあの女性には聞こえないと思うのだけど?


「…ユリィお前またその石使ってるのか?悪趣味。近寄らないでくれる、まじで」


すすすっとカルロは私から距離を置く。

「ふ、ふん!カルロだって悪趣味なことしてるくせに!ばーかばーか」

私はつい大声になってしまったが、ただの口論に見えると思うので良いこととする。


確かに匂いの情報はとてもとても多い。

おかげで私は長風呂になった。お湯を沸かしてくれるミルがいて良かったと思う。



トウモロコシをカルロに任せてオレンジ畑に移動する。


ここのオレンジの木は私が小さい頃から生えていて毎年多くの実をつけるが、甘くないし水捌けの悪い平地に生えているので水っぽい。けれど暑いときの水分補給や持ち歩きの水筒代わりにとても人気がある。常温で食べる分には甘くなく、ほのかな酸味が丁度いいらしい。

村の工事をしている人たちにもあとで差し入れするつもりだ。


甘いオレンジは今苗木が育成中なので、私が大人になる頃には出来ると思う。


「今日は暑くなりそう……」

目を細めて空の様子を伺う。青く突き抜ける空は雲が全くない。夏の虫がうるさく鳴いている。

監視の女性は昼日中になってもずっと畑に潜伏するつもりなんだろうか?

熱中症まっしぐらなのだけど私から接触するわけにもいかない。


「……このオレンジは小さいから、鳥にあげようかな~」


思ったよりわざとらしくなってしまったが、小さめのオレンジを5個もいで地面に置いた。


「さー、そろそろルシファーのお世話しなきゃ」


山盛りになったオレンジを詰めた木箱を重ねて持ち、その場を後にする。




◆◆◆


いつもより2時間早く作業を始めたので、本日の業務は2時間早く終わり、カルロも帰っていった。


「うーむ」


監視の女性が気になる。オレンジを食べたことは匂いでわかったし、そのことで生存確認もできた。

それにしても私なんか監視して何の意味があるんだろう?

それに監視対象としては私は最悪だと思う。家の周りに畑しかない。


あんな茂みに潜んで、虫に刺されまくりではないかと心配になってしまう。男女差別ではないけど女性なのに可哀想になってくる。



「お父さんちょっと材料借りるよー」

「んあーいいぞー」


今日のお父さんはぐでぐでしている。気にしてはいけない。

お父さんの趣味の怪しい薬の材料が収められている、小さな引き出しが連なる棚に向かう。

今まで栽培した草花、種、根などを干したものが入っている。


何となく虫除けに効きそうなものを数種類取り出した。これを私の能力を使って刻む。

これだけで発掘強化されて、本来の何倍もの効力になるはずだ。


あれ?


───良く考えたら、これで傷薬でも作ればすごいことになるんじゃ?


「しまった、私は怪我しないから考えもしなかった」


あまりの発見に手が震えてしまう。

私の周りで最近怪我をした人はいない。お父さんの足は2年前の古傷で、骨が難しくくっついてしまっているので流石に無理だとは思うけど。


「ジェイク……ジェイク用に開発しなきゃ」

ジェイクを私自身の手で傷つけてしまいそうになった件は海よりも深く反省していて、思い出す度に胸が切り刻まれるように痛い。


「お父さん!傷薬作るから手伝って!!」


「んあー」


お父さんがのそのそ起き上がる。お父さんは言えばやってくれる。言えば。

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