北の山の洞窟③
戦闘シーンなので残酷な表現があります。
苦手な方は飛ばしてください。
「ジェイク…何かいる。逃げよう」
相手が何にしろ足場の悪いこの場所で戦うのは不利だ。そしてジェイクを危険に晒したくない。
ジェイクは緊張した面持ちで頷き、なるべく静かに来たルートを引き返す。
しかし、入口に近づくにつれ蠢く巨体がはっきりと見えてくる。専門用語でいう『しかし回りこまれてしまった!』というやつだ。
諦めて相手を見ると、そこに居たのは紫がかった鱗に覆われた巨大蛇だった。
手足のない長い体がうねうねとクリスタルの柱に沿って這いずっている。この場所では二足歩行より余程効率が良さそうだ。
そしてその頭は二つある。それぞれ二股に分かれた細い舌を宙に出し入れして、どちらの頭が先に食べるのか迷っているように見えた。
左右の頭はどちらも大きく、私とジェイクを簡単に飲み込めそうなほどだ。
「ジェイク、あれが何て言うか知ってる?」
「あれはザンディーラ…双頭の蛇。毒液を吹きかけてくるけど、その毒は決して治らない。死だけが救済になるほど苦しみ抜いて、あの本の筆者の友人は死んだらしい」
「ああ……ジェイク。お願い。クリスタルの陰に隠れてて。私が何とかするわ」
無言の抗議なのか、ジェイクに強く手を握られるのを感じた。
私はそのまま握り返す。
「ぐっ……」
ジェイクが痛そうな声を出す。
「お願い。私はできる」
私は必死にジェイクを見つめる。そのとき、背中が総毛立つ気配を感じて私はジェイクを突飛ばした。
ジェイクのいた場所に、液体がかかる。
「この!!」
私は短剣を投げつける。それはザンディーラの体を掠めて、どこかに落ちる硬い音がこだました。
私のスカートにも少しかかってしまったようで、布地が溶けて鼻をつく刺激臭がする。私はレイピアでスカートの端を切り落とした。ミニスカートになってしまった。
やっぱり木綿の服ではいけなかったかもしれない。
実はソニアさんからまだ装備は届いていない。
私が強く突飛ばしたせいかジェイクは気を失ってしまっているようだが、微かに胸が動いているのが見える。
私は短剣を投げた方向に走り出した。
「こっちこっち!!」
この暗闇では、あまり視覚に頼っていないはずだから派手な音と気配を出せば陽動できるはずだ。ドッディのときと同じ。クリスタルをレイピアで引っ掻くようにして、耳障りな音を立てる。
「わっ」
また毒液が飛んでくるが、私に向かっているならそれでいい。
でもどの辺りに毒液があるか覚えておかないと、この足場で足が滑ったらアウトだなと思う。転んで毒が回って、蛇のどちらかのお口に飲み込まれて一巻の終わりだ。
私の短剣はそこまで飛ばなかったらしくすぐ見つけることができた。私の頭の中にいくつかのプランが浮かんでは消える。
今持っている武器は小さいので、双頭の蛇の片方の頭を攻撃したら、その隙にもう片方の頭に毒をかけられるだろう。
しかし体を狙うと長く戦うことになり、周りが毒液だらけになって私の負けだ。
私に許されているのは、あと1、2ターンの攻撃だけだろう。
覚悟を決める。
「いっせーの!」
私はクリスタルの柱の列を勢いをつけて駆け上がる。
向かってくるザンディーラの頭の片方、私の顔より大きな円らな瞳を短剣で突き刺し──顎を蹴って背後にまわる。
「せ!!!」
双頭の繋がり合う背骨をレイピアで突き刺し、腕に渾身の力を込めて斬り下ろす。
「ぐううう……」
骨を砕く嫌な感触が伝わる。暴れて体勢を崩すザンディーラから離れた。ザンディーラの勢いに、短剣がクリスタルにぶつかって落ちる音が聞こえた。巨体に潰されないよう短剣を取り返す。まだ暴れるザンディーラだが、今は二つの頭から正しい信号は体に伝わらない。ただ筋肉の反射で痙攣しているだけだ。
終わらせよう。
クリスタルの柱を数ヶ所飛び、天井からザンディーラに向けて飛び降りる。短剣で、ひとつずつ頭を斬り落とした。
短剣はリーチが短いのでかなり腕を突っ込まなけれぱならない。
「ごめんね」
完全に動かなくなるまで私はザンディーラを見つめていた。やっぱり大きな生き物を殺すのは抵抗がある。
だけどジェイクを守るにはこれしかなかった。
私がレイピアを回収しようとすると、青く光る小石を見つけた。『発掘』のスキルが発動して、ザンディーラから何かの石が見つかったようだ。私はそれをポケットにしまってジェイクを起こしにいく。
動かす前に近くに落ちていたランタンでジェイクの頭をじっくり見たり触ったりしたが、どこも打っていないように見える。
頭を打っていたら大変だから。そのほか、体にも外傷はないので心の底から安心した。
「ジェイク!ジェイク!」
「ん……」
「もう大丈夫、ごめんね、危ない目に合わせちゃって。帰ろ」
目を覚ましたジェイクは、とても悔しそうにしていたけど私は一生懸命に楽勝アピールをした。
ちょっと血で汚れているけど、私は本当にどこも怪我をしていない。
まだ体力はあったので、走って帰れるくらいだった。
月が沈みかけているので、もうすぐ夜明けだろう。
静かに家に入る。




