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 金、銀、ルビー、エメラルド……

 割るほど出てくるそのあり得なさに私は腰を抜かす。


「おとうさーん!!」


 とりあえず、私は光る小石たちをポケットに入れて家に駆け込んだ。


「お父さんお父さん!これ見て!」


 お父さんは人形の手足のような、奇怪な人参を切り刻んでいた。その机にゴトゴトと金銀宝石を並べる。そういえば重さすら割る前と変わってしまっている。


「おお!どうしたんだこれ?!」

「畑の小石の山あるでしょ?あれ割ったら出てきたけど、あれってどこから持ってきたの?」

「あれは近所の川原から拾っただけだぞ。育苗箱の水はけをよくするために使った余りだ」

「……川ってことは山から流れてきたのかな?」


 私は育苗箱の底に眠る金銀をイメージしてしまう。


「ああ、北の山だな。そういえばあの山は昔採石場だった。お城の城壁に使ったらしい」

「じゃあ、そのとき金とか銀があったら絶対わかったよね」

「そういう話は聞いたことないな…」

「まあいいや、これ売ったらいくらになるかな?」


 私の質問にお父さんはニヤリとした。


「3万にはなるだろう」

「ほんと!」


 3万といえば卵が1個200Gなので卵150個分だ。

 うちは卵が1日約20個獲れるので7.5日分の収入ということになる。疫病によって、この辺の鶏農家はうちだけになってしまったのでこれでも単価は高い方だ。


「だが、本物の宝石かどうか鑑定してもらわなきゃいけない。俺はツテがあるから、ちょっと王都に行ってくる」

「え?お父さんにツテ?」


 農民なのに王都の宝石商に顔が利くって??


「まあ待ってろ!村長の馬借りて行ってくるわ!」


 私の頭をぽんと撫でて父はかつて小石だった宝石を袋に詰めて、足が悪いとは思えない速さで家を出ていってしまった。


「肉を買ってくる!ユリィ準備しといてくれ!」


 捨て台詞が遠くから聞こえる。

 私はしぶしぶと、手足のような人参を拾い集めた。今夜のスープにでもしてしまおう。



 農作業を済ませ、夕方になった頃お父さんの声が聞こえた。


「ユリィ!帰ったぞ!!」


 袋を抱えて笑顔でお父さんが帰って来た。


「おかえり!見せて見せて」


 肉は久しぶりだ。肉といっても牧畜の肉ではなくモンスターの肉だ。2年前の疫病のせいで多くの人が亡くなったり離農してしまって、最近はほとんどモンスターの肉しか手に入らない。


 お父さんさんは袋の中から、ごろんと大きな塊の肉を取り出す。


「これだけ?あれって偽物だったの?」


 いくらモンスター狩りは命の危険すらあって、肉は高値で売られているとはいえあれだけの宝石でこの肉一個なのかと、私はお父さんの顔を見た。


「ああ、うん。本物と鑑定してもらったがワインを買ってしまってな。ユリィにもブドウジュースがあるぞ」

「ふーん」


 お父さんは袋からワインの瓶とジュースの瓶も取り出した。

 まあいい。あれから実験したら、また宝石を出せたからまたやればいいやと私は黙って料理に取りかかることにした。


 肉屋がおまけに付けてくれたというスパイスと、塩を肉にすりこみ焼き目をつけてから、硬く大きな葉っぱでくるんで竈に突っ込む。


「そういう料理の仕方はジーナ…母さんに教えてもらったのか?」

「そ、そう。お父さんが牛の世話してるときにね」


 本当は前世の記憶だ。アルミホイルが欲しいところだ。


「お前は子供の頃から本当に賢かったからな……」

「まあね、うん……」


 日がほとんど沈んだ頃に肉が焼き上がる。

 といっても竈から出したあと、しばらくおいて肉汁を落ち着かせなければならない。その間に肉汁と少量のみじん切りにした人参、玉ねぎを煮詰めグレービーソースをつくった。


 奇妙な人参たちは柔らかくなるまで煮たあと裏漉して、少量の肉汁と塩でポタージュスープにした。生クリームなどはない。


「できたよー」


 謎のモンスター肉のローストと、謎の人参のスープが完成したところでお父さんを呼ぶ。暗くなったので灯した、蝋燭の火に照らされたテーブルはワインなどもあって珍しく豪華な雰囲気が出ている。


 肉を切り分けて口に運ぶと、口に広がる肉汁に私と父は悶絶した。


「うまいな!」

「おいしい!」


 野生の肉なので硬いかと思ったけど、ゆっくり長時間火を通したおかげでほろほろに柔らかい。肉屋さんが調合したらしいスパイスも合っていて食べるごとに力が漲る感じがする。


 調理に比べて食べるのはあっという間だ。空腹だった私とお父さんはすぐに食べ終えた。


 明日も早いので寝ることにする。私は自分の部屋で、コップに生けたお花を眺めた。ジェイクからもらった赤いチューリップだ。

 ジェイクがあの空とぶ馬車でどうやってこのお花を見つけたのだろう?わざわざ探してくれたのかな?

 胸の奥がじんわり暖かくなる。


「かわいいお花…」


 私は鋏を取り出し、花をちょきりと切り落とす。精神は正常だ。

 その赤い花を分厚いノートに挟む。これはお母さんが5歳の誕生日に買ってくれたものだ。


 作物の品種改良に興味を示していた私に、記録できるようすごく高価な紙のノートを買ってくれたのだ。ジェイクの花を押し花にして挟み、これは私の宝物となった。


 茎だけになった部分は、下側をよく水を吸うよう斜めにカットして根が出るのを待つ。殖やすつもりだ。植物ってすばらしい。


 なんだか体がぽかぽかして眠れそうもなかった。


 お父さんのいびきが聞こえる。私は、そっと家を抜け出して納屋に向かった。ハンマーを手に持つ。


 私は近くを流れる川に沿って走り出した。


 お父さんが言っていた、北の山に行ってみようと思う。村の外はモンスターが出るから、本当はひとりで出てはいけないと言われているけど、我慢できない。


 多分誰にも見つからないだろう。この村に夜出歩く人なんていないんだから。星と月明かりだけを頼りに私は北の山の採石場にたどり着く。

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