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アンジェラの課外授業②

「アンジェラ!どういうつもり?」


耳障りな笑い声に向かって叫ぶ。

サロンの天井が高いせいかこだましている。


「どうって……

ユリィが男爵に言うこと聞いてもらいたいって言うからそうしただけじゃない?ねえ、グラソー男爵、ユリィの言うことなんでも聞きますよね?」


「もちろんだ!愛する人の望みを叶えられなくて何が男か!」


心底楽しそうに言うアンジェラと、恍惚とした表情のグラソー男爵。

お薬の効き目がすごすぎる。


「もう思い付いてからずっと笑いこらえるの大変だったんだからぁ」


私が薬を頼んだとき、アンジェラにしては神妙な顔をしていたことを思い出す。あれがアンジェラが良くないことを考えている顔だと、私は、心に刻みつけた。次は絶対騙されない。


「はは!ミス・アンジェラ!

私も最高の気分だ!まるで魔法が解けた気分だ!」


今まさに魔法にかけられているんじゃ?と私はグラソー男爵の特徴のない顔を見る。

大体アンジェラに惚れ薬を頼んでおいて、自分が飲まされてる問題はいいの?この男爵の頭大丈夫?


「はは!ユリィ、そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ、私は気づいたのだ。天使が囁いてくれたのだ」


幻覚まで見ているようだ。


「愛とは、求めるものではなく与えるものなのだ!

だからそう、ユリィ、私は例えあなたが私を愛さなくても構わない、生涯あなたへの愛の炎は消えない!」


男爵はまた演劇のような身振りを交える。


「グラソー男爵はろりこ──いえ、私は子供、大人の男性にそのような対象にされても困ります」


「もちろん私は紳士として、ユリィが大人になるまで待つつもりだ。若雛を育てるのも貴族の嗜みと言われている」


この世界にも源氏物語のように幼い子を自分好みに育てる嗜好はあるらしい。どこの世界もどの時代も貴族って変態だと思った。


「──アンジェラ、この薬の効果はどれくらい?」


「個人差があるわ。ロマンチストにはよく効くみたいね」


アンジェラは無責任に答えた。私は、数刻前に馬車の中でアンジェラをいい人だなんて思った自分を殴りたくなった。あと目の前のアンジェラも殴りたい。



「ああ、ユリィ…紳士としてこの想いどう伝えれば……そうだ!!」


懊悩するグラソー男爵が指を鳴らすと、執事が現れて紙とペンを差し出す。グラソー男爵は詩のようなものをゴリゴリ書き出した。

ポエマーだったらしい。


笑い転げるアンジェラと、詩を書くのに夢中なグラソー男爵、どんな精神力なのか真顔の執事、棒立ちの私。

ここは地獄か?


「うふふっ人にものを頼むときはよーく確認することねユリィ。でも、ちゃんと願いは叶えたでしょ?」

こいつは悪魔か?


「ああユリィ、願いとは?私にできることならなんでもやろう!」


「じゃあ…これをお願いします」


私は最後の精神力でテーブルの下に隠し持っていた袋をテーブルに置く。硬いテーブルと金貨が布越しに当たる音がした。

「このお金でグラソー男爵領の私の村に宿屋と食堂を建てるよう指示を出してください。計画の詳細、使うべき業者は中に計画書がありますので」


ジェイクとポンさんに頼んで計画書は既に用意してもらっていた。


「ユリィ、そんな簡単なことならもちろん言われた通りやろう!しかしお金はいらないよ!」


「いいんです使ってください」


グラソー男爵に貸しを作りたくない私だが、男爵は袋を開け、計画書だけ受け取った。


グラソー男爵は私に近づいてきた。

「これがあなたから僕へのプレゼントなんだね……ありがたく受け取ろう!代わりにと言ってはなんだが」


グラソー男爵は、身長の低い私に目線を合わせるようにひざまずく。先程したためたポエムの紙面にキスをして、私に差し出す。


「これを受け取っておくれ」


全くもって受け取りたくなかったが、仕方なく言うがままにする。


フフッと笑うグラソー男爵に鳥肌が立ってしまう。

どんなモンスターも恐いと思ったことはないのに、私にも弱点があったのだと知った。


ニヤニヤと見守るアンジェラに視線で人が殺せるなら、と願いを込めて睨み付ける。


「アンジェラ…あなた初めて会ったときのこと、根に持ってたんでしょう?仕返しのつもり?」


「なんのことやら」


アンジェラは人に教えるほど歴史に詳しいのに、歴史から何も学んでいない。


復讐は復讐を生む。人と人がいる限り憎しみと争いは絶えないと、私は学んだ。

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