幽霊③(解決)
「お父さん!ミルに炎あげすぎ!!」
私がお父さんを怒鳴り付けると、勢いにミルまで耳を後ろに倒してしまう。
「だってミルが欲しがるから……」
お父さんが言い訳をしてくるが、全然かわいくない。
「ミルがお腹壊したらどうするの?診てくれる人もいないのに」
「ミル、今日はいっぱい食べたねえ、お腹ぽんぽんだねえ」
ジェイクが場を和ませようとしてるのか、優しくミルを抱っこする。ミルは満足そうに膨らんだお腹を撫でられるままになっている。特に具合が悪そうではないけど。
私だって甘やかしてミルに好かれたいのにみんなずるい……。
小さいうちに写真を撮っておけば良かったと思ってから写真なんてこの世界になかったと気づく。
とりあえずミルのご飯の適正量はわからないので、様子見ということになった。
私は寝る前に、蝋燭の明かりでベッドの中、モンスター図鑑をめくる。
カルロの手を舐めた謎のモンスターについてヒントでもあればと思ったが、名前もわからないので難しい。
今のところわかっているのは
・舐めてくる(攻撃してこない?)
・4つ足
の2点だけだ。説明文にそれらしい記述がないか流し読みしていく。
「こっちの10冊にはないのかなあ、ジェイクがもってる10冊かも──」
ふとケツァルクックのページを見つけて手が止まる。
ルシファーたちのことだ。
〜ケツァルクック〜
怪鳥。目が合うと石になると言われているがこちらが反応する前に攻撃されているだけである。視線に石化効果はなく、異常な素早さを持つ。
発達した強力な下肢で速く走り、強靭な爪で獲物を切り裂く。翼は小さくほとんど飛ばない。
雌は大人しく卵は美味なので、卵を守るため雄が強くなったと思われる。雄1羽に雌数十羽で群れを作る。
雄が生まれる確率はとても低い。
氷属性に弱い。
「ふーん、知らなかった……」
私は眠くなったので蝋燭を吹き消して眠りにつく。
翌朝、ルシファーの雄叫びで起きる。
私は寝起きの頭でモンスター図鑑を眺めた。
そうだ、この声はある程度弱いモンスターを遠ざけてくれているので、今この辺を彷徨っているモンスターはルシファーより強いのかもしれない。
ケツァルクックより危険度が高いモンスターのページだけに絞ってページをめくってみる。
見るべきところはかなり少なくなった。
9冊目で私はそれらしい記述を見つけた。
〜ウナカテクトリ〜
別名幽霊牛。火山の熔岩流によって焼け死んだ家畜の牛の魂がモンスター化したと言われている。
透明で姿が見えない。ときおり人間を舐める習性があるが攻撃はしてこない。
また、透明時全ての攻撃を無効化するので透明時の討伐は不可能である。放っておけばいつの間にかいなくなるので放置を推奨。
唯一、透明化を解除する方法はハンドベルを鳴らすことである。これは家畜だったときのなんらかの記憶によるものと思われる。
しかし透明化を解除すると狂暴になり、鋭い角で筆者は身を貫かれた。
「ほうほう」
これはかなりそれらしいモンスターだ。成る程、ハンドベルを鳴らすだけでいいらしい。
私は足音を立てないようにそっと部屋を出た。昨日食べ過ぎたミルにご飯をあげていいのかわからないからできれば気づかれずに家を出たかった。しかし、ミルは昨日より手狭になってしまった檻の中、昨日と同じポーズで私を待ち構えていた。
濁りのない、清らかな黒いその瞳はこう訴えている。
"ご飯をくれるって信じてる"
そんな信頼を裏切れなくて、私はジェイクが渡してくれた紙袋から、ジャーキーを取り出す。貴族の犬が食べているものらしい。
「ほーら、おいしいよー。食べてみよ!」
ミルは匂いを嗅いで、顔を背けてしまう。
これは───おいしいご飯を食べた犬とか猫がドライフード食べなくなるやつじゃない?
結局私は暖炉に火をつける。
厳しくなりきれない。これでいいのかどうかわからないけどミルは炎しか食べなくなってしまった。
「カルロ……子育てって難しいね」
玄関ドアを開けて入ってこようとしていたカルロに話しかける。
「俺はまだ子どもいないから」
カルロの返答は的外れもいいとこだ。
もちろんミルが来たからって、ルシファーへの愛情は少しも変わらない。今日もしっかりじゃれあいをして、鶏舎の掃除をする。
ジェイクに出荷分を渡したあと私は納屋からハンドベルを探しだした。お父さんが世話していた牛を手放してから、2年ぶりに使うハンドベルは少し錆びていた。
「何を?」
カルロが聞いてくる。
「昨日この辺にいたモンスターを呼び出してみようかと思って…。私に案があるから、カルロは何もしないでね」
「またそうやってユリィは──」
カラカラカラ
ハンドベルの音は遠くまで響く。
チリーンカラカラカラ
地響きがした方向を見ると数頭の牛の群れが迫ってきていた。来た。やっぱり合っていたようだ。
前世で見た牛とほぼ同じだが、弧を描く2本の角は鋭く太い。耳に橙色の飾り毛が生えている。
「ユリィ!」
「大丈夫!ルシファーより遅い。見切れる」
私の鳴らすベルに向かって一直線に駆けてくる、尖った角の切っ先を避け、滑らかな角に触れる。
黒毛の牛は、私を通りすぎ、再び突進してきた。
「よしよし」
向かってくる角を避け、走り抜ける体の口元から胴体にかけて手を触れる。
「さびしかったんだよね、怖かったんだよね」
牛の突進の速度が落ちてくる。
「もう大丈夫だから」
Uターンしてきた牛を腰を落とし角が当たらないように受け止める。大きな顔を体全体で抱きしめた形だ。衝撃で地面に足が埋まるが、止めることができた。
すると牛は、ピンク色の舌を出して私の顔を舐めてきた。私も手を伸ばして額をごしごし撫でてやる。
ほかの牛も我も我もと寄ってきた。私はベロベロなめられてしまう。中には子牛もいた。
「ユリィ…大丈夫か?」
「大丈夫だけどベタベタ……」
私がカルロの近くに寄ると、牛たちはカルロにターゲット変更してくれた。
「うわっやめろよ!」
「よかった」
私は牛タンから解放された。カルロはおいしいのか、激しく舐められている。
「ふざけんなよ、倒していい?」
「絶対だめ。全頭飼います」




