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発見

「お父さん!また変なもの作ってるの?!」

「今日のは傑作だぞ!」


 お父さんは薄暗い室内でボサボサ頭のまま、大鍋をかき混ぜていた。辺りには酸っぱいような、苦いようなひどい匂いがする。私は木戸を開け放ち換気に努めるが咳すら出てきた。


 聖母子像のようなジェイク母子と比較してなんという落差だろう。薄暗くて臭い家、魔女というか魔男?みたいになってしまった父。全部2年前、疫病でお母さんが亡くなってしまってからだ。


「よし行くぞ!ユリィ!記録してくれ!」

「うん…」


 お父さんはボコボコ沸く緑の液体をカップに注ぐと一気に飲み干す。熱くないのかな?


「ぐはっ!」


 お父さんは顔が真っ白になって後ろに倒れこむ。目は苦悶によって閉じられているが呼吸はあるようだ。


「いち、にい、さん…」


 数を数えること30秒。

「っっ?!」

 お父さんが復活した。


「ユリィ?!何秒だった?!」

「30秒だよ、記録更新だね」

「そうか!この調合はなかなかいいな!朝飯を頼む!」

「うん…その薬はモンスターを捕まえるのにも使えるかもね」


 お父さんは木片に墨で何かを書き込んでいた。ちなみに時計はこの村には1つしかないが、幼児の頃にみんながやるリズム遊びがあるので5分くらいは正確に計れる。


 丁度朝の守りの鐘が鳴り響き始めた。


 私は卵をボウルに割り入れ、かき混ぜる。大事なたんぱく質だ。


「ユリィのオムレツは最高だよ、食べると力が出る」

「バターとか生クリームがあるともっといいんだけどね」

「何言ってるんだ、今でも充分だろう」


 私は黙ってフライパンに卵液を流す。卵が熱せられる小気味良い音だけが響く。2年前までは牛を飼っていて、牛乳があって、バターも作れて、お母さんがいて、お父さんは働いていた。


 しかし突然流行りだした疫病のせいでお母さんはなくなり、傷心のお父さんはうっかり牛に足を踏まれてしまい、お父さんは足を複雑骨折してしまった。


 魔法なんてない世界だが、手術できる医療技術もない。お父さんは杖なしでは歩けない体になった。危険だからと牛はどこかに売られ、今は鶏と畑のみで細々と生計を立てている。


 それも大体私が働いていて、お父さんは少々畑を手伝うのみで大体の時間は謎の薬の調合というか、錬金術もどきをやっている。


「はい、できたよ」


 オムレツと野菜サラダとジェイクのお母さんのパンを切ってテーブルに並べた。早朝から働いているのでお腹はペコペコだ。


 オムレツを一口、口に運ぶ。塩と少量の植物油のみで作られたオムレツは、卵自体のほんのりとした甘みとコクが良くわかる。今の飼料の配合は良いようだ。一口ごとに力が沸き上がるように感じる。


 前世の記憶もあるので、料理はかなりできる方だと思う。ただし、卵と季節の野菜以外はろくな材料がないので出来る料理は限られている。料理は魔法や錬金術ではないのだから、一に材料、二に材料だ。


「うまいな!ユリィは天才だよ!」


 でもお父さんは褒め上手なところがあって、毎日代わり映えしないメニューでもうまいうまいと喜んでくれる。更にお父さんは家事の才能が全くないのでほとんど私がやるようになったが、いちいち褒めてくれるのであまり気にならない。というか気にしないようにしている。


 朝食を終え、私は畑の手入れをする。雑草を抜いたり、畑を耕したり、堆肥をかき混ぜたり。農業用の機械などないのでとても時間がかかる。


 しかし、この7歳の体はどういうわけかとても力が強く疲れ知らずだ。私の前世の記憶にある7歳児とは全く違う。


 これがこの世界の普通の7歳児なのか、村にジェイクくらいしか子供がいないのでわからない。ジェイクは私ほど動けないけれど、おっとりしていて運動が苦手なタイプなのかもしれない。


 私は、絵本のような巨大なカブを引っこ抜いた。私の体くらいの大きさがあり、20キロくらいの重さはありそうに思う。


「すごい、3日は食べれそう」


 とはいえこれは突然変異なので売り物には出せない。

 うちとジェイク家で食べてしまおうと思う。


 ふと遠くの畑を見ると、ヒョコヒョコと長い嘴を前後に振りながら歩くオレンジと黒と黄色の派手な鳥のモンスターが闖入していた。極彩鳥(クルラルト)だ。私は畑の隅に固めて置いている小石を拾った。


 極彩鳥は長い嘴で作物を食い荒らすから大嫌いなのだ。狙いを定めて、更に殺意を込める。


 はっきり言って弓矢でもないと無理なのだが一縷の願い──卵じゃなくて肉食べたい──を込めて投擲する。


 気配に気づいた極彩鳥(クルラルト)は素早く黒と黄色の鮮やかな羽根を翻えして飛び立とうとするが、逃亡ルートを先読みしていた私の第二投が命中する。


 甲高い音が聞こえたが──極彩鳥は雲間に消えていく。


「だめかあ」


 石は極彩鳥の、鉄をも穿つといわれる嘴に当たってしまったようだ。私は畑の確認をしようと小走りで現場に急ぐ。畑は広い。


「よかった、大丈夫だった」


 ここには苺が植えてあるのだ。まだ色づいていないが、熟れたら苺が好きなジェイクにあげたいと思う。


「ん?」


 視界の端にきらりと光るものがあった。


「さっき投げた石?」


 形状に見覚えがあった。クルラルトの嘴に当たって割れたようだ。金色に光輝いている。


「き、金……?」


 この世界でも金は当然のように価値がある。通貨の単位もゴールドなくらいだ。慌てて割れた石の破片を探すが、金はこれだけのようだ。


「あの小石の山、割ったらほかにも見つかるかな?」


 もしかしてこの辺にかつて金鉱山があって、その破片が紛れていたのかもしれない。畑を整地するときにまとめた小石の山に走る。手頃な小石を掴み、どうやって割ろうと辺りを見回す。


 畑の中に固いものなどない。とりあえず右手に小石、左手に小石を持ちお互いにぶつけてみる。


 すると、石は簡単にそれぞれ真っ二つに割れた。右手の石からは銀が、左手の石からはルビーのような真っ赤な石が現れる。


「え?!」


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