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雨の日の仔犬

前話にキャラクター紹介があります。

ここからやっとまったりな展開になります。

夕方から強い雨が降り始めたので早めに農作業を切り上げた。


お父さんに頼んでいた短剣ができていたので、早速強化したいと思う。


「今回はミスリル鉱石を使ったんだ。アンジェラ先生に相談して柄のデザインも凝ってみた」


お父さんさんは嬉しそうに説明してくれるが、柄のところには十字架が刻まれている。

十字架。シンプルで作りやすい上、この世界の宗教とは関係ないので、よく用いられているモチーフだ。

でも私は中二病っぽいなとどうしても思ってしまう。


「次からはお花の模様とかがいいな…」



短剣を手に持ち、ドッディ戦で25回発掘強化ができた例のクワに押し当てる。

ミスリルの短剣は、柔らかいバターのようにスッと切れてしまう。光の泡になったかと思うと元の姿に戻った。

これが私の能力、発掘だ。

武器や道具を壊す度強くできるが、壊すのが中々大変で、またそのうちモンスターとも戦わなければと思っている。


「1回目、成功」

銀色の輝きが少しだけ増した。


「苦労したのに…」

お父さんが恨めしそうな声をあげる。


「包丁研ぐみたいなものだから、いいじゃない」

私はまたミスリルの短剣を壊し、再生させる。

何度やっても十字架模様は同じだ。


4回目で冷凍庫から出したバターくらいに手応えが固くなる。5回目は短剣を床に置き、クワを打ちつけて壊した。衝撃波が出てしまったので家の中の小物がバラバラ散らかる。


「このくらいが限界かな…」

私は5回発掘強化した短剣の効果を確かめるため、薪を削ってみる。軽く滑らせるだけでかつお節のように薪が削られていく。焚き付けに丁度良さそう。



そのとき、控えめなノックの音がした。


「俺が出るよ」

お父さんが玄関に向かう。


私は新しい短剣に夢中になっていた。

オレンジほどの大きさのなんの変哲もない石に短剣を突き立てる。石は簡単に真っ二つに割れ、中からエメラルドが出てくる。

石を割るのもこの短剣でかなり楽になりそうだ。

ある程度溜まったらポンさんのところに持っていって換金してもらおう。



「いいぞ!!今日からお前らはうちの子だ!!」


お父さんが変なことを叫んでいる。


「な、なに…」


玄関に向かうと、そこには雨に濡れた仔犬が2匹──ではなく、ジェイクと、ジェイクに抱かれた仔犬がいた。



びしょ濡れのジェイクは暖炉の前に座らされ、暖かいお茶も持たされてぽつぽつと語る。


「お母さんにどんなに頼んでも、ダメだって…返してきなさいって言うんだ。うちでモンスターは飼えませんって」


今はお父さんに抱かれている仔犬らしき毛玉は、モンスターらしい。

「よーしよしよし、かわいいなあ」

その毛玉は全体に灰色で、首の周りは白いマフラーを巻いたようにモフモフしている。額にはまだ小さめだが2本の角が生えていた。


「ジェイク、どこで拾ってきたの?」

「市場でいつもの商人のところに荷物を卸したあと、肉屋の前を通りかかったら人が集まってて…つい見ちゃったんだ。檻に入れられてるその子を」


「見ちゃったのね……」


私は横目でちらっと毛玉を見る。未だに恐ろしくて正視できない。見たら最後、私の魂は永遠に毛玉のものとなるだろう。

──かわいすぎるに決まってる。

だってもう気配だけでかわいい。なにやらお父さんの顔を舐めたりしてる。なにその無邪気。苦しい。

見る前から苦しい。


「心配いらないぞ!ジェイクもこのモンスターも今日からうちの家族だ!はははは」


お父さんはもう完全に魅了されている。


「…ジェイク、うちで飼うから、いつでも見にこれるし心配ないわ」

「ごめんね、迷惑かけるつもりじゃなかったんだけど。肉屋が今日中に売れなければ肉にするって言うから僕、放っておけなくて」

「なにその汚い商売…それにどこからあの子を連れてきたのかわかる?」

私は憤慨する。まだあんなに小さいモンスターをどこで捕まえてきたのだろう。モンスターの親はどうしたのか。無理やり引き離したのだろうか。


「石炭を掘っている鉱山に現れたモンスターを討伐したら、その子だけあとで見つかったんだって。かわいそうで……」


私とジェイクは、それぞれ片親を幼くして亡くしている。私とジェイクは数秒見つめあった。


「あの仔犬絶対、絶対幸せにするから」

「僕もできるだけ来るよ!あ、コールティコっていうモンスターだって言ってた」


「名前なににしよう?」

「何がいいかな、アミル?」


私は吹き出した。

アミルはあんまりだ。


「アミルが次来たとき、困るじゃない」

「そうだよね…じゃあちょっと変えて、ミル?」

「いいと思う!」



「名前決まって良かったなあミル。大きくなれよー」

お父さんは命名権が一切なかったことを気にも留めずミルをあやしている。


私はお父さんの肩越しに、勇気を出してミルを見た。

潤んだ黒色の瞳。灰色の毛足が少し長いので、瞳にかかって困ったような顔をしている。

「うぐっ」

──なんて魅力的なんだ。私は胸のうちで一生の誓いを立てた。生涯愛することを誓います。


「コールティコは炎を食べるんだって」

ジェイクが私の背中をさすりながら教えてくれる。


「ほおーどれどれ」

お父さんがミルを暖炉に近づける。

ミルは嬉しそうに尻尾を振り、炎に顔を突っ込んだ。


「「!!!」」


私たちは声にならない悲鳴をあげる。しかし、ミルは熱がる素振りも見せずぱくぱくと口を動かして炎を食べてしまった。火が消えた暖炉から細い煙だけが上がっている。


「ップ」

ミルが小さなゲップをすると口から炎が漏れて、熱くなっていた薪が再び燃え始める。


「火事に注意しないとな……」

お父さんが目を見開きながら呟いた。


私も一緒に寝るのは諦めようと思った。

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