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因縁の相手

「ようユリィ。俺のことわかるか?」


重そうなブーツの靴音を響かせ、勝手に室内に入ってきたのはぴったりした茶色の帽子と、鋭い水色の瞳の青年だった。ざらついた低い声は前より更に低くなっているが、聞き覚えがある。


「…カルロ?」

「そうだ、久しぶりだな。ていうか俺、昨日もあの現場に来てたけどな。隊の鎧を着てたからわからなかったか?」


「わかんなかった……」

水色の瞳が私を射るように見る。

カルロは2年前までこの村の住人だった。弓の名手ロック爺の末息子で、カルロも弓が好きなようだった。幼い頃からいつもひとりで練習をしていた。

まだ子供気分を謳歌していた私はそんなカルロにいたずらをしては本気で怒られ、逆恨みした私がまたいたずらをするという負の連鎖だった。



「防衛隊?あの中にカルロがいたの?」

弓の名手だけあっていいところに就職していたんだなと思う。

「そうだよ。立派な防衛兵だったんだよ。昨日でやめたけどな」


「なんで……」


どかっと椅子に座ったカルロは村長とお父さんを見やる。


「まあ、俺から志願したんだけど。

ユリィという危険分子を監視するために村に戻ってスパイをやりますって」


村長が眉根を寄せる。

「カルロが?隊に入ったばかりでこの村出身のカルロがひとりで行動を任されるほど上層部からの信用があるのか?」


「まさか。監視はつく。でもそしたら村に俺、俺への監視、あと一応ユリィもいるし?いつ大型モンスターが来ても戦力は十分になるだろう」


「うむ…」


カルロはため息をつく。


「鐘が壊れた現状で俺ができるのはこんくらい。

防衛隊にいたら、俺の生まれ育った村がモンスターに実際に襲われるまで、動けないんだからな。

俺はスパイという名目ならこの村にいれる。その間に鐘に代わるものが見つかればいいけど」


カルロがすごく大人になっていたことに私は驚く。

こんなに色々考えて行動できるようになったなんて。


「カルロ、そんな話をしてしまっていいのか?既にお前への監視がいるという可能性は」

お父さんは声を落として心配そうに尋ねた。


「ああ、誰かさんのおかげで気配にはすごく敏感だから大丈夫。今はいない」


カルロは私を横目で睨む。やっぱり全然大人じゃない。



「さ、という訳で!!俺はここの手伝いさせてもらうんで!はいはい散った散った!やるぞ!」


カルロが勢いよく席を立ったことで皆もつられて解散という雰囲気になる。


丁度馬車の音が聞こえた。それで話を終わらせたのかな?


「おはようユリィ?あれお客さん?村長と…か、かカルロ?!どうして…」

集荷にやってきたジェイクがカルロと鉢合わせになり、固まってしまう。

「ようジェイク」

カルロが睨み付ける。

「懐かしいな、また蛇だの虫だの集めてるのか?」

「あ…あ…」

ジェイクこそ蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている。


「ジェイクをいじめないで!あれは私が無理やりやらせてたから!ジェイクは悪くないから!」


私はジェイクを守るためカルロとの間に割って入る。

というか事実だ。ただの自白だ。

いたずらを繰り返すうちにカルロが気配に敏感になったので、私がわざと姿を見せて気を引いてる間にジェイクにやらせていた。今では反省している。


「へえ…やっぱそうなんだ。お前昔からろくなことしないな」


「うっ」

カルロの言葉が矢のように刺さる。言葉を矢に変えて攻撃する能力者かと錯覚しそうになる。


「…とにかく、今それはあとで!ジェイクごめんまだ出荷の用意できてないの!ちょっとだけ待って!」


「う、うんゆっくりで大丈夫だよ」

「俺も手伝うよ。一応農家の息子だからな」

カルロが腕まくりをする。


「じゃあ野菜の収穫だけお願い!畑はあっち!」


私をは鶏舎に走り出す。少し遅れているのでルシファーの怒りの声が聞こえる。



───カルロの手伝いもあってすぐに出荷作業を終えることができた。

流石に農家の息子で、スピードも選別も文句のつけようがなかった。正直言ってすごく有能だ。


「カルロって何歳だったっけ?」


「17歳。王都ならかわいい女の子もいっぱいいたのに、こんな田舎に逆戻りで俺かわいそうだろ?」


「……私が責任を取る」

私の軽率な行動のせいでたくさんの人に迷惑をかけた。


「ユリィが?ぶはっ…ちょっとそれは勘弁」

カルロが吹き出して大げさに腹を抱える。確かに7歳の少女がどう責任を取るのだと思うだろう。

それにしても笑ったカルロを見たのは初めてかもしれない。


「3年。私は3年でこの村の人口を増やして、女の子もいっぱい増やすわ」

怪しい社長のような口調になってしまったが私なりの決意表明だ。


「あ、そっちか?」


「え?あ、そっか。3年もこの村にいないで王都勤めに戻れるようにしなきゃね」


「何でもない。でもユリィも3年も命があるかどうか…」

真顔に戻ったカルロが怖いことを言う。


「ドッディを倒したユリィをを倒すには、一個小隊かそれ以上必要だろうけど…でも子供を捕まえるのに隊を組んで出動する大義名分もないから、今は保留になってるけどいつまでかはわからない」


「そんなこと言ったって……」


「正直言って、このこともあって俺は村に来た。しばらくは俺がなんとかする」


また、カルロの水色の瞳が私を射るように見ている。だけど今は冷たく感じなかった。


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