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三年後

 めまぐるしい15歳の年から、三年が経った。


 私もアミルもそれぞれの仕事に忙しく、あっという間に日々が過ぎた。私は牧場の仕事に加えて、王立植物研究所の仕事に努めた。


 作物の品種改良、種苗の管理、また植物の病害虫の早期発見、駆除などやることはいくらでもあった。封建的な領地という枠組みを超えて、国家単位で安定した大量生産を目標としたこの組織は、反発も多かった。


 しかし多くの尽力も得られた。特に副所長になってくれた叔父のグレンの助けもあり、かなりの成功を収め、バーフレム国は農業大国となった。


 そして輸出入には、トリエールの民の技術の応用により開発された高速魔導船が大いに役立った。旧式の帆船とは比べ物にならない機動力により、物流革命が起きた。


 アミルはその資本力により、薬の製造、研究所を自らの男爵領に立ち上げた。様々な薬を開発し、技術の売却及び薬の輸出で更に稼いでいる。特に革命的だったのは抗生物質の発見だった。


 私が5歳のときに大流行した疫病は、ネズミによって媒介されたものだった。その病気の治療薬が開発されたことは涙が出るほど嬉しいものだった。あの悲劇はもう起こらない。また、この抗生物質は農薬にも応用でき、収穫量は更に増えた。



 そして私は18歳の誕生日を向かえるこの日、王立植物研究所の一室で、緊張による腹痛に襲われていた。


「ああ、もうなんか無理……逃げたい」

「だめよ、ここまで来て」


 私は付き添いのキーラにぐっと肩を押されて、椅子から上げかけた腰を下ろした。今日はアミルとの結婚式だ。なのだけど急に鬱になってきた。


 鏡には薄い水色のドレスを着た私が映っている。いつも緑色のドレスばかりなので、結婚式だし特別感を出そうと婚ハイで何となく仕立屋に発注してしまった。ウエディングドレスが白という定番はこの国にはないし。けど急に似合わない気がしてきた。


「ねえキーラ、これ似合ってなくない?」

「似合ってるから!!最高にかわいい。自信持って。ていうかアミルならユリィが何着てもめちゃくちゃ褒めてくれるでしょ」

「まあ……うん」

「もう、のろけやめてよ」


 アミルとは三年経っても仲が良い。でもずっと仲が良いからこそ、結婚して関係が変わったらどうしようかと不安がある。


「もうだめ、むり」

「ユリィが怖じ気づくなんて初めて見たわ」


 キーラがため息をついていると、支度に使っている部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「ユリィさん、ちょっといい?」

「どうぞ」


 その声に少しの緊張感を持って答えると、扉を開けてアミルに面影の似た美少女が顔を見せた。アミルの妹、ルーナだ。昨日から結婚式に合わせて両親と共に来てくれている。ちなみに高速魔導船が出来てからは何度か遊びに来ているので初対面ではない。


 褐色の肌に長く伸ばした銀髪は片側のみ編み込みがされている。アミルより鮮やかな青い瞳にはアイラインが太く引かれ、大ぶりのアクセサリーをじゃらじゃらさせている。彼女との初対面の感想はこの世界にもギャルっているんだ、というものだった。


 アミルは「小さい頃は妖精みたいにかわいかったのに俺が留学から帰ったら派手になってた」と言っていた。お兄ちゃん子だったのに、ぐれてしまったらしい。兄を取った申し訳なさもありルーナとは一定の距離感がある。


 ルーナは私のドレス姿を大きな瞳で観察しているようだった。ルーナは肩出しの黄色いドレスが似合っていて、派手だけどすごくかわいい。


「ふーん、きれいじゃん。あのさ、これあげるね」

「あ、ありがとう」


 この場合お礼は一回でいいのか悩みながらルーナから折り畳まれた紙片を受け取った。


「そこにお兄ちゃんの扱い方書いてあるから。大人になって隠すようになったけど、お兄ちゃんてさ、甘えたらすっごい喜ぶから。それ見て仲良くやってよね」


 ぽっと頬を染め、照れながら言うルーナの姿はあまりにも――


「かわ……」


 かわいすぎて正直な感想が漏れる。


「かわ?」

「ルーナありがとう、かわいい……」

「はぁ?か、かわいくないし!」


 いやすごいかわいい。何この妹力は。今日からルーナが私の妹かと思うと新しい力に目覚めそうだった。


 ルーナに励まされて元気をもらった私は何とか式に出るべく、部屋を出た。


 結婚式を挙げる場所にした、王立植物研究所は左右に尖塔を配したアーチを描く門で始まっている。その門をくぐると一面のお花畑及び噴水があり、その奥に更にお城が建っている。ちょっとしたテーマパークの入り口というか、私の趣味を反映しまくった場所だ。


「あらぁ、ユリィきれいじゃない」

「……ありがとう」


 廊下を移動しているとアンジェラが声をかけてきた。いつも黒ずくめのアンジェラは、今日は式典仕様なのか、袖無しの黒いタイトなドレスに二の腕までの手袋を着けていた。胸元はレースになっていて豊満な胸が透けている。


 慣習にとらわれない式にしたかったので、神父のような役は、アンジェラに頼んだ。私はこの国の宗教に馴染みがない。


 アンジェラは今や完全に聖女として崇められているのでいいと思った。

 全ての人間の源である始祖エズリと、全てのモンスターの源である祖竜ヴェプナー。彼らの第一子であるアンジェラは、正体を隠すのをやめて人々に魔力について教えている。


「エズリとヴェプナーも、式に行けたら行くって言ってたわ」

「何その若者みたいなせりふ。あの人たち何千歳でしょ」


 始祖エズリと祖竜ヴェプナーは完全に本来の姿と力を取り戻した。気ままに世界中を移動して、見込みのあるものに力を与えているらしい。


「ユリィ、そろそろ行こう」

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