秘密基地
「爺さんが反乱軍のための武器を作ってた場所なんだ。80年前の内戦だな」
「そんなことがあったの……」
私は驚いてしまう。80年前の歴史だというのに全然知らなかった。
「何だったらまた武器を作って王を倒してもいいかもな!はは!」
「アウグス、私の前でそんなこと言っていいの?今の私には貴族のパトロンがたくさんついてるのよ」
後ろからアンジェラ先生の冷静な声が届く。
「今の私は、貴族たちに薬を売って大儲けなんだから」
「アンジェラ先生はなんとなく大丈夫でしょう!」
「……まあこんな少人数でできるわけないから、冗談だと思っておくわ」
「はは!その通りです。
だけどユリィ、今日のあれで目をつけられるかもな!あんなモンスターをひとりで倒せる武力を持ってて、王政に不満があるなんてやばいぞ」
「えっそんなあ…私は理想の牧場作りたいだけなのに」
私は情けない声を出してしまう。がんばってるのになぜ理想が遠のくの…
「うーん…俺も無事に済むよう色々考えてみるよ」
お父さんが色々やると面倒なことになるからいい、と言いかけたが言ったら言ったで面倒なのでやめた。
「出口についたぞ。目を慣らしながら出るように」
お父さんが梯子を指し示す。
眩しさに目をしかめながら外に出ると、見えてきたのは石造りの堅牢な基地だった。
煙突が何本か出ているのはお父さんが言っていた窯炉だろう。それどころか熔鉱炉かと思われる巨大な鉄塔まであった。錆びついて所々緑の葉に覆われているが、とても大規模なものだったようだ。
「わあっかっこいい!!」
ジェイクが興奮を抑えきれず駆け出してしまう。
何かわからなくてもロマンがあるようだ。
頭上を見ると、巨木の枝が基地全体を隠すように伸びていた。
「ここは村から行った北の山の裏側くらいだな。巨木が伸びてくれたお陰で見つかって破壊されずに残ってたし、まだ使えたんだ」
お父さんがドアノブのない金属のドアに、また金具を差し込む。ガチャガチャいじくると、扉が押せるようになった。普通の鍵とはちょっと違うようだ。
「本当にすごいわね!私もここで実験してみたいわ!!」
アンジェラも興味深そうに辺りを見回している。
「ここを私の別荘にしたいわ!お家賃はおいくらかしら?」
物件内覧じゃないぞ、と私は独りごちる。
「うーんアンジェラ先生、家賃はいりませんが家具を運ぶのが大変だと思います。現在はさっきの地下通路しかルートがないので」
「ここを作ったときはどうしたの?」
「違う道があったのですが、今は落石で使えなくなっています」
「そうねぇ~馬だとつらいかもしれないわね」
この世界の一般的な馬は空を飛ぶが、離着陸にある程度助走が必要だ。
巨木に覆われていては馬が使えないが、伐採すれば国に発見される可能性がある。打つ手なしだ。
「これが窯炉です、アンジェラ先生」
「なるほどねえ、これで高温にするわけね…」
お父さんとアンジェラは窯炉に夢中になっている。
恐らく『ふいご』だろう、足で踏んで空気を送り、炉を高温にする道具を仔細に観察していた。
その近くには私が発掘した鉱石がいつの間にか運ばれて、積まれていた。
クワのほかにカマやスコップなどこれから作って欲しいものはたくさんある。
お父さんにはしばらくがんばってもらわなければ。
我々は基地の視察を終え、また地下通路をぞろぞろと連れ歩いた。アンジェラは錬金の書を取り返ししっかりと抱いている。
今度はお父さん、ジェイク、アンジェラ、私の順番で狭い通路を進む。
道中、アンジェラが急に振り返り私にしか聞こえない声量で話しかけてきた。
「そうだユリィ、あなたはケツァルクックを飼っているのよね?卵を食べてるの?毎日?」
「え…はい」
「あなたから強い闘志を感じるのはそのせいかもしれない」
「?」
「食べ物が体に与える影響はとても大きいわ。私を見ればわかると思うけど、私のこの美貌は錬金術による秘薬と、ある種のモンスターの肉を食べることで成り立っているの。
モンスターの体には魔力が宿っている。例え死んで、皮や肉となっても失われない強い魔力がね」
「……」
「ケツァルクックはとても強い魔力と闘志を持っているわ。あなたの体はまだ小さいから魔力の取りすぎに気をつけて。モンスターになってしまわないように」
「アンジェラに言われたくない」
「何ですって!!どういう意味よ!!」
「その通りの意味ですう」
私はひょいひょいとアンジェラの長い爪をかわした。




