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再び国境地帯

 今日は牛たちの冬用の飼料であるデントコーンを収穫していた。60回くらい『発掘』した刃付きブーメランを3つ立て続けに投げ、回転しながらデントコーンを実や茎もろとも切断していく。


 ゆるく回転しながら帰ってくるブーメランをジャンプして足で踏みつけ、地面に落とす。といったちょっとしたアクションゲームのような工程を繰り返す。


 集めた荒切りデントコーンを人力で回す巨大な裁断機にかけ程よい細かさにしたのち、乳酸菌を振りかけて炭で色づけした黒ビニールをかけ、重石としてその名の通り岩石を上に積む。


「よし……じゃあ私ちょっと今日は出かけて来るからあとはキーラ、お願いね」

「はーい。あとは例年通りにやっとくわ」


 キーラは黒いローブを着こみ、笑顔で見送ってくれた。

 キーラは長年牧場を手伝ってくれているので安心して任せられる。新しい試みもいいけど、例年通りサイロという塔のような建物に牧草を踏みながら積み、発酵させる作業もある。それは黒ミサの儀式めいていて、なぜか黒いローブを着ることになっている。


 アミルがこの村でも虫たちの動向を調べたところ、やはり今年の冬は寒くなる可能性が高いという。

 人間の食べ物はもう小麦を収穫済みだからいいとしても動物たちの試料も確保しておかなければならない。

 リスク分散のため私は色々と試すことにしたのだ。


 そして牧場の仕事の合間にモンスターを狩るという謎の生活だけどこれも宿命のようなものかと思っている。今日は、白纏氈(パウレクター)を国境地帯まで狩りにいく。


 私は一度家に入り、普段着用から戦闘用に着替えた。これは最近ソニアが私のために魔力を通さない繊維を織り込んで色々と新しく作ってくれたものだ。ソニアも忙しいのに特急で完成させてくれて本当にありがたいと思う。


 それからアミルも、アンジェラと合同で魔力を跳ね返すクリームを完成させてくれた。これを全身に塗り、ソニアの装備を身につけることで、大気中の魔力の吸収をかなり抑えられるようになったと思う。動くと前みたいにすごくお腹がすくようになったので。自分ではセーブできない魔力の吸収を、この二つで抑制できれば私の寿命も伸びると思う。


 私も大体いい気になって人助けだなんだとやっているが、助けてもらうのはとてもくすぐったい気持ちになる。

 だけど以前お父さんが「生きてれば人に迷惑かけるもんだ」なんて為になるようなならないような教えをくれたので、そんなものかなと深く考えないことにした。


 鏡の前で全身を確認して、剣を腰に差した。


「用意できたか?」


 ノックの音と共に扉の外からカルロの声がかかる。


「今行く!」


 扉を開けると、私と同じく戦闘用の装備に着替えたカルロが立っていた。二足わらじはカルロも慣れたものだ。装備を新調したらしく黒地に金の縁取りがカルロのバターブロンドの髪色に合っている。



 いつものように、私はミルに、カルロは鹿毛の馬ディープ号に騎乗して空中を移動するが、国境地帯まではかなり距離がある。


「雨降りそうだから今のうちにおやつ食べちゃおうか?はい、カルロ」


 私は包みからマフィンを取り出してひとつカルロに投げた。空中を飛んでいるので、もし落とせば悲惨なことになるけどもちろん、私とカルロでそうはならない。


「ありがとう」

「今日のは、ココアベースで中に梨と栗が入ってるよ」

「さっき昼食べたばかりだけどうまい」

「そうでしょ?」


 ココアの甘い香りの中に軽くソテーした梨が甘酸っぱいアクセントになっている。そして栗もごろっと入っていて自分で作ったけどとてもおいしい。


 しかし空は真っ暗というか真っ暗に染まり、遠くはぼんやり紫に光る不気味な空模様になってきた。音が届かないくらい遠くで雷が大量に落ちているのが見える。そういえば日本語で雷を稲光、などというけどあれは稲穂が実る秋に大気が不安定になって雷が発生するからだったなと思い出した。この国は小麦ばかり育ててるから、麦光だろうか。ビールかな。


 頬に冷たい滴が当たりだしたので、私もカルロも防水のローブを羽織った。私が来ると国境周辺はいつも雨だ。


 やがて雨に霞んだ白い城壁と要塞めいた建物が見えて来た。実際我がバーフレム国を山からのモンスターから守る要だ。ここは私とケンカ中のディセンバルト公爵の管轄内でもある。王都にある公爵の邸を燃やしたのが私だと思われ恨まれているので、何事も注意しなければならない。


 私とカルロの訪問は今回は正式に通達してある。何かあっても全て記録になるようにだ。なのですばやく事は進んだ。戦闘能力のないディープ号と国境地帯に生えているイビヌという植物に異常反応するミルを預け、兵10人かかりでようやく動く重厚な門扉が開かれる。


 私とカルロは危険なモンスターが跋扈するフィールドに躍り出た。その後ろで重々しく門が閉ざされる。


「えーっと……」


 私は目的の白纏氈(パウレクター)がどこにいるか、探知しようと感覚を研ぎ澄ませた。やり方を誰に習ったわけでもないけど、例えば何かの作業をしているときは気にならない微かな物音に耳を澄ませる感覚に似ている。


「あれ?」

「どうした?」


 カルロが周囲を警戒しながら訊いてくる。カルロは聴覚を強化できるドッディの石を長年使っていて、もう石と一体化してるんじゃないかと言うくらい耳がいい。


「あ……うん、色々騒がしくて、ちょっと待ってね。今探知するから」


 言いながら私は冷や汗をかいていた。やばい。うまく探知できない。もしかして魔力の吸収を阻害する装備とクリームが効きすぎてるのかもしれないと思い当たった。この二つを使い始めたのは最近だけど、日常生活では気付かなかったけど、ここに来る前に試してみるべきだった。


 カルロが静かに弓を構えた。そのまま矢を放つと、禿頭の黒い翼のモンスターが私のすぐ近くに落ちて来た。カルロは2秒先の未来が見える能力者なのかな?きれいに眉間に矢が突き刺さっている。


「ユリィ、具合悪いのか?」

「そ……そうかも?」


 私は名案、というか苦し紛れのプランを思い付いた。


「カルロ、私ちょっとお花を摘んでくるから……わかるでしょ?だめだからね絶対!!耳塞いでよ!」

「あー、ああ。気を付けろよ」


 基本的には家を拠点に活動してるので滅多にないことだけど、そういうことにして私はカルロから走って離れる。物陰で取り敢えずローブの下の服だけ脱げば何とかなるはずだ。クリームは洗い落とせないにしても。


 幸い霧も濃くなっているので、見つけた繁みに私は入った。急いでローブを脱ぎ、その下の特製装備を脱ぎ、再びローブを着込む。変態おじさん風味になってしまったけど、ばれなければ問題ない。


 元来た道を走って戻るが、そこにカルロはいなかった。


「あれ?カルロ?もういいよー」


 辺りを見回しても霧が濃くてカルロの影も形も見えない。そんなに長くかかると思われてるのかな、失礼しちゃう、と私は仕方なくザンディーラの石を使ってカルロの匂いを追うことにした。


「何でそんなにひとりで移動しちゃったの?カルロ」


 カルロの名前を呼べば絶対聞こえてるはずなのに、立ち止まってもくれない。走っても走っても匂いは遠ざかるばかりだ。白くぼやける霧の中で追いかけっこをしたいとも思えない。だけどカルロの敵になるようなモンスターなんて、もういない気がする。


 眼前に飛び出してくる黄金色の猿に似たモンスターを反射的に斬った。いつも通り一撃で倒せたものの、私は驚いてしまう。こんなに接近を許してしまうなんてやっぱり今日の私はおかしい。


 そういえば、白纏氈(パウレクター)の魔力探知はちゃんと出来るようになったのかと私はひとつ息を吐いて集中してみた。


「え?」


 もう傍らにいるような、そんな気配に私は肌が粟立つのを感じた。周囲に漂うこの霧は全部、白纏氈(パウレクター)の魔力だと漸く気付いた。いや、霧は実際にあるけれど白纏氈の魔力を含んでいる。単に魔力が濃すぎて探知が出来なかった?


 うっすらとカルロの金の縁取りが着いた袖が見えた瞬間、私はそれを掴んだ。


「カルロ!」


 やっと見つけたカルロは水色の瞳を最大に開いて驚いた顔をしていた。


「嘘だろ……」

「何が?」

「全然ユリィが近づいて来るのが聞こえなかった。耳がおかしい」

「私もこの霧で感覚がおかしい気がする」


 匂いを辿ったつもりだったけど、カルロを見つけられたのはただの偶然だったかもしれない。霧と方向音痴も相まってここがどこかわからない。


「……またいつもの、とユリィは言うかもしれないけどこれは流石にやめないか?危険すぎる」


 カルロの提案に私は心中で飛び付いた。こういう敵は初めてだし、さっきの状態でカルロがもし襲われてたらと思うとぞっとする。


「か……帰る……?」


 声に出すのは勇気が必要だった。戦う前からの敗北宣言なんて、今までであり得ないし情けないけどそれしかない。私の声も情けないものだった。


「帰ろう」


 安心したようにカルロは少し口元を緩めた。宥めてるつもりなのか、肩を軽く叩かれる。


「え?」

「え?」


 その肩口からぱらぱらと大量の緑色の葉が落ちてきて私とカルロは目を見合わせた。

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