発掘の力
クワを握りしめ、ドッディに向かって私は走り出す。
「こっちよ!!」
大声を出す。まだ餌の入ったバケツがあるので、簡単にドッディは挑発に乗ってきた。アンジェラはまだ元気に逃げ回っていたのでもう少し後でもよかったかもしれない。
餌をばら蒔いて、ドッディが油断している間に尻尾にクワを振り下ろす。
ギュワッ
嫌な手応えを感じる。
尻尾は少しだけ切れ目が入った。―――が
力いっぱい振ったクワは折れてしまった。
お父さんごめん、と思う。
しかし、瞬時に新しいクワが出現する。
そう、私はなにかの状態を決定的に変えると『発掘』スキルが発動する。
ドッディは尻尾を傷つけられて怒ったのか突進してくる。
私はギリギリまで惹き付けてかわし、またクワを振るった。
それにしても本当に硬い。こいつは素早さを捨てた防御特化型モンスターだな、と前世のゲームを思い出す。
クワをドッディに打ち付けては壊し、新しいクワを手に入れる。そしてその度強くなる。こんなの普通の剣だったら何本あっても足りないだろう。
「……でもやっぱり次は剣を作ってもらおう」
25回ほど発掘を繰り返して、クワは怪しい光を放っているが──距離を置いて見守るお父さん、アンジェラ、村長、ロック爺などの熱視線にふと恥ずかしくなった。
「破壊と創造の女神じゃ……」
なんて村長が変なことを呟いているのが聞こえてしまった。
ドッディは少しずつ体力を削られて弱っている。
ただしそれは私も同じだった。
『発掘』は体から大幅に力を奪っていく。
今、採石場のときみたいに倒れたら洒落にならない…
クワをピッケルのように引っかけドッディの足元から前足、首へと伝うようにジャンプする。暴れるドッディだが私を振り落とせない。
「これでトドメだ!!」
気合一閃、ドッディの首にクワを振り下ろす。25回発掘を繰り返したクワは衝撃波すら発生させてドッディの首と体を切り離す。
轟音を立ててドッディの体は崩れ落ちた。
──ごめんね
ずっと地中で寝ててくれたら良かったのに。
「「ユリィー!!」」
みんなが走り寄ってくる。
お父さんは泣いていた。
「無茶しないでくれ!!」
そうは言っても、夢中になると周りが見えなくなるのはお父さんもじゃない──
私は疲労困憊で口を開くことも出来ないまま、みんなに抱き締められたり、揺すられていた。
「防衛兵が来たぞー!!」
やっと王都から援軍が来たらしい。
「ああ!今の間に貴重なドッディの素材!もらっておいた方がいいわよ!!目撃例がほぼないんだから!」
アンジェラがどこからかナイフを取り出しドッディを解体しようとするが、やっぱり硬すぎて中々切れないようだ。
というかもらう気満々じゃない?
私も念のためドッディに近づいてみた。
もう動いてはいなかった。
「ちょっとあなた!これはあなたが取って置きなさい!」
アンジェラが急に近所のおばちゃんのような口調で私を呼ぶ。
切断面の辺りに紫色の小さな石が落ちていた。
「ありがとうございます」
「あらぁ、お礼はちゃんと言えるのね」
私は紫色の小石を眺めて思った。
モンスターからも発掘できるの?
確かに決定的に状態を変えたけど──
とりあえずポケットに押しこんでおく。
「ユリィ!!ユリィ!!大丈夫?!」
この場にジェイクの馬車まで飛んできた。
「あ!アウグス!私の錬金の書返しなさいよ!!」
アンジェラもお父さんに絡みだした。
─────もう限界
私はその場に倒れこんだ。
少しだけ、休ませてもらおう。私は目をつぶった。
────ってうるさいなあ?!
周りがガヤガヤとうるさすぎて寝れやしない。
なんなの、疲れ果てた7歳の少女を休ませてもくれないの……
もういい、とっとと片付けよう。
「ユリィ、危ないことはしないでよ、僕はアミルに頼まれてるんだから」
ジェイクが涙目で私を揺さぶる。
泣かれたら私は私を殴らなければいけないので慌てる。
「ごめんね、もうしない!」
この村にモンスターなんて滅多に現れないんだからこんなこともうないだろう。
このモンスターは地中にいて、たまたま目覚めてしまっただけだ。私は農業に忙しいからこんなこと本意じゃない。
防衛兵の隊長らしき人が話しかけてくる。
「到着が遅くなって申し訳ない。それにしても本当に君がモンスターを討伐したのか?」
「ええそうです。だって国に税金を払ってるのに兵はこの村に常駐してくれないし、この村の家が全部壊れても国は補償してくれませんし、それでも人頭税は払わないといけませんからね。私がやるしかなかったんです」
疲れてクレーマーみたいな物言いになってしまった。
税務署勤めの記憶がつい。
子供に嫌味を言われて隊長はたじろいでいる。
言った直後から私は後悔し始めた。
「とにかく、私は疲れてるんです…すみません…」
「ユリィ、私からも謝らせてほしい」
村長が私の肩に手を置く。
「村長だというのに何の役にも立たず……申し訳ない。とりあえずあとの処理は私がやっておくから、家に帰って休みなさい」
「あ、はい…ありがとうございます」
私はふらふらとジェイクに近寄る。
ジェイクが察して馬車に乗せてくれた。
「あとでゆっくり話そう」
とは言われたけど。
お父さんとなぜかアンジェラも乗せて、家に到着した。
「そういえばお父さん、さっきは何で引きこもってたの?私、家に入れなかったんだけど」
「ん?ああ……クワの仕上げ中で鍛冶場にいたからな」
「え?どこで?!そもそもあれどうやって作ったの?」
お父さんは私、ジェイク、アンジェラみんなの顔を見回した。
「そうだな…そろそろ1人じゃ限界だし、アンジェラ先生に助言頂きたい。ジェイクは秘密守ってくれるよな?」
意味がわからないのでみんな沈黙している。
お父さんは食器棚を押し始めた。
ズズズ…と玄関ドアを隠すように移動させると、食器棚の下、床板に嵌め込まれた金属の板が現れた。
お父さんはポケットから金具を取り出し、金属の板の凹みに引っかけると取っ手が出てくる。
取っ手を引っ張って扉を開けると、冷気がぶわっと流れ出た。かなり広いところに繋がっていそうだ。
「地下?通路?こんなのいつから?」
私はこんなの全く知らないで毎日料理をしていた。
「アウグスさんすごい!」
こういうのが大好きなジェイクは瞳を輝かせて中を覗きこむ。
「私の錬金の書はこの先にあるわけ?早く返して欲しいんだけどー」
「アンジェラ先生、そうです」
「って、お父さんってなんでアンジェラを先生って呼ぶの?いつから知り合いなの?」
「あーそれは…長くなるから移動しながら話そう」
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