幕間
先に遊戯室に移動したエミリアーノ王とジェイクの一幕、エミリアーノ視点です。
遊戯室に着いたエミリアーノ王は護衛の騎士に告げた。
「少しジェイクと話がある」
少女と見紛う愛らしい顔の少年従者とエミリアーノ王は度々二人になりたがる。いつものこと、と騎士は黙して頭を下げ室外へ出る。
重厚な扉が音もなく閉まったのを確認してエミリアーノ王は口を開いた。
「ジェイク、さっきのユリアレスの手品をどう思った?」
愛らしい顔にいつも微笑を浮かべたジェイクをエミリアーノ王は確かに気に入っていた。しかしそれは外見や、他に類を見ない知性や知識だけではない。自分に対して感情が平淡な点を特に気に入っていた。
「手品ではないでしょう」
ジェイクの栗色の瞳は少し迷うように陰り、控えめな意見を述べる。ジェイクの感情が動くのはユリアレスに関するときだけと気づいたのは出会ってすぐの頃だった。
並々ならぬ感情を向けられているユリアレス本人ですらその事実に気がついていない。
だからなのだろうか。エミリアーノ王は、ジェイクをユリアレス関連でからかうことに愉悦を覚えるのだった。
「そうだな、あの炎は魔法だ。きっと彼女ならこの国を焼き付くして焦土にすることも可能だろう。しかしユリアレスの存在自体がもともと魔法のようなものだ。私は何も見なかったことにするよ」
「ありがとうございます」
――ユリアレスに協力的であるうちは、ジェイクは決して私を裏切らない。
その確信を持ってエミリアーノ王はジェイクを信用している。
「ところで、ジェイクがもらったお守りはどんな色なんだ?」
ジェイクがユリアレスからもらったというお守りをエミリアーノ王はまだ見たことがなかった。ジェイクの瞳のように柔らかな栗色なのか、色素が薄い髪の色なのか好奇心で問う。
「……こちらです」
ジェイクはきちんと締められた服の首元に手を入れて鎖を引っ張り上げる。その先に輝く赤い結晶にエミリアーノ王は目を奪われた。
「ははっ……彼女そのものだな」
「はい。私もそう思います」
僅かに喜色を滲ませててジェイクは答えた。ジェイクの手の中で、炎のように揺めき、魅了してくる赤い光はユリアレスの瞳に、その存在に酷似していた。
いつでも情熱を迸らせ、生命力の塊のような彼女。ときにエミリアーノ王ですら威圧し、ときに全てを赦す慈愛に満ち、歳下の少女であることを忘れさせる。
欲しい、と思った。二つも必要ないはずなのに体の奥底からの渇望をエミリアーノ王は感じた。
「……その色の意味、どう解釈するべきだろうな」
「色合いは狙って作っていない、とユリィは言っていました。無意識だそうです」
生じた欲求から気をそらそうと答えのなさそうな疑問を呟くが、すぐに多くの含みを持たせてジェイクは答える。渡すつもりはないのだろう、どちらも。
「私は強欲だ」
「おっしゃっている意味がわかりかねます」
そんなジェイクを揺さぶればどんな顔をするのか、なぜか興奮が止まらないエミリアーノ王は思うままを口にする。
「彼女は誰とも結婚できない、と以前言っていただろう。結婚する気がないなら彼女を私の妾妃として……」
「陛下」
これ程この男を怒らせたのは自分が初めてかもしれないとエミリアーノ王は笑いだしたい衝動を堪えた。ジェイクは青褪めながら怒りを露にした。怒ったときに青褪める人間には注意しろと言っていた父である先王を思い出す。数少ない助言だった。
「どんな策であっても愚計と断じて一考に付さないのは良くない。それが一番ユリアレスを守る術になるかもしれないぞ、お前の頭で良く考えてみろ」
「僕はユリィの幸せを誰よりも、ずっと考えています。そしてそれは検討の余地もありません」
堪えきれずエミリアーノ王は声を上げて笑った。彼自身でもなぜこんなことを言い出したのかわからなかった。ジェイクをからかうのが楽しいからなのか、本心ではユリアレスを求めているのか。
ただ常ならぬこのときの終わりを惜しく思った。予想もしない出来事が重なり、いつしか習慣になった三人で茶を飲み、菓子を食べる時間。エミリアーノ王にとって初めて心の底から寛げるひとときだった。そして純粋に誰かを遊びに誘うことなど、今までではあり得なかった。
「すまない、冗談だ。それで、私を殺す方法は思い付いたか」
「ええ。ひとつを残して残りの方法は潰しておきましょう」
ジェイクは微笑をやめて氷のように冷たい表情を浮かべている。もしユリアレスに無理矢理手を出せば彼女に殺されるかもしれないし、そうでなくともジェイクに殺されるかもしれない。捻じ曲がった愉悦をエミリアーノ王は味わった。
「お前たちは面白いな」




