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29 新たなる敵

「なぬ~~~~!? 母上が来ておっただとぉ~~!?」


 半壊した車両の中に、マルの絶叫が響いた。


「なぜ我を呼ばんのだ!」

「その時はお前、どっかに消えてただろうが」

「そもそもマルがいないタイミングを見計らってたみたいだからね。あのお母様」


 マルの母親、アマルトゥに助けられたおかげで危機を脱した俺たちは、今までの出来事を整理していた。

 突如現れたヘルハウンドの集団、列車に乗り合わせた地球人の刺客。他にも不明な点が多すぎる。


「そういえば、君のご兄弟が行方不明らしいよ。私たちと一緒に捜せってさ」

「ほほーう? 誇り高きミスティック・ド(神秘竜)ラゴンが迷子とは……プププ、情けない奴らよのう」


 その兄弟もお前にだけは笑われたくないだろうな。

 と言いたいところだったが、今はそれよりも聞くべきことがある。


「それでフィノ、あのふざけた地球人は何者なんだ?」

「うん。それはあらためて詳しく説明しておく必要があるね」


 フィノは頷くと、一拍置いて話を続ける。


「我々、宇宙管理局の使命は、宇宙を開拓して資源や環境が限界に近づいている地球に代わって移住できる星を探すことだ。そこまではいいよね」

「まあ、何度か聞いた話だ」

「しかし宇宙は広い。遭遇する地球外生命体が君たちのように友好的な存在ばかりだとは限らない」

「俺は友好的になった覚えはないがな」

「話が通じるだけでも十分なのさ。中には、ダーク・ゾーンの魔物のように理性を持たない危険な生物や、悪意を抱いて攻撃を仕掛けてくる異星人もいる。──で、そういう外敵に力をもって対処するのが“レッド・エージェント”だ」

「要するに戦闘部隊か」

「管理局内では赤バッジなんて呼ばれたりもしてね。実際、彼らの扱う兵器(ツール)は私たち通常のエージェントに比べ、破壊力に特化している」


 俺は車両の片隅、円形の穴の開いた壁面に視線を動かす。

 厚い鋼板の壁はきれいにえぐり取られ、列車の走行に合わせて後方に流れていく外の景色がはっきりと見えていた。

 ただの銃では、ここまでの威力は出せないはずだ。


「……あの男、一般人を平然と撃ち殺そうとしていた。正義の味方ってわけじゃあなさそうだな」

「ま、ゲオルグが選んで送り込んできたエージェントだからね。そうでなくてもレッド・エージェントはみんなどこかズレてるというか、おかしいのが多いんだ」


 フィノは苦い顔で言いながら自分の側頭部、こめかみの辺りを指でトントンと叩く。


「何がおかしいって?」

「そうだね。簡単に言うと……地球人以外の異星人を人間だと思っていない」

「……簡単に言ったな」

「誇張して言ってるわけじゃないよ。彼らは危険な地球外生命体と戦う任務をこなす内に、次第に現実感が薄れていくようでね。ベテランになるとみんな異星人をゲームの敵やNPCぐらいにしか考えてない。──って例えはかえって分かりにくいかな?」

「いや、よく分かった」


 俺も短い間だが地球で暮らしていた身だ。それがどういう意味かぐらいは理解できる。


【ゲーミフィケーションの一種ですね。通常は社会的活動のフローにゲームの原則や要素を応用することで生産性を高めるためのものですが、異星の生命体との戦闘という極めて特異な状況に適応するため、自然とそのように価値観を変化させていったのでしょう】


 腐りかけたリンゴに張り付いたスリサズが言う。

 こいつの説明は地球に行った後でも相変わらずよく分からんが、


「つまりは人殺しも平気でやれるイカれた連中ってことだろ」

「さっき遭遇したステッペンは私も知っているけど、その典型的なタイプだ。常にふざけた態度で、ふざけた態度のまま引き金を引く。腕は確かな分、始末が悪い」

「あいつ、誰かと連絡してたよな? 同じような奴があと何人もいるってことか」

「レッド・エージェントは少数精鋭の部隊だから、ゲオルグの権限でも多くは動かせないと思う。けど、彼らの力は数人でも軍隊並だ。気をつけた方がいい」

「ふん。これ以上、俺の星で地球人なんかに好き勝手されてたまるか。まとめて叩き出してやる」


 意気込んだところで、車両のドアが開いた。


「おーい! あんたたち、大丈夫か!?」


 入って来たのはこの列車の機関士だった。制服がところどころ破れてはいるが、大したケガはないらしい。


「客のみんなを助けて回ってくれたそうじゃないか。ありがとうよ」

「なに、タダ乗りさせてもらったんだ。少しは役に立たないとな」

「おかげでなんとか街にたどり着けそうだよ。お礼をしたいところだが、この惨状じゃちょっとね」

「だろうな」


 列車はヘルハウンドの襲撃で、どこの車両も半壊状態。それでもなんとか走行を続けられているのは、機関室が無事だったおかげか。

 こんな状況で謝礼まで求めるのは酷な話だろう。


「代わりと言っちゃなんだが、街に着いたら市長に会いに行ってくれないか」

「市長?」

「ちょうど次の駅が役所に近いんだ。列車の修理やケガ人の治療もお願いしなきゃならないし、あんたたちの活躍も報告しておくから悪いようにはしないはずだよ」

「そりゃ助かる」


 市長がいるならそれなりに大きな街のはず。

 休憩がてら、俺がいない内に変わったこの世界の情報を集められるかもしれない。

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