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27 列車上の戦い

 ヘルハウンドの群れは列車から一定の距離を並走し、隙を見てこちらに飛び乗ってくる。


「いででででッ──、コラァ! 離せ野良犬どもぉッ!」


 乗り込んできた数匹がマルに噛みつき、電撃で吹っ飛ばされた。

 しかし、その電気の光に釣られて後続のヘルハウンドが次々とマルに襲いかかる。


「ギャ────ッ!!」

「騒がしい奴だな」

【さながら誘蛾灯のようですね】


 攻撃が分散してくれる分には俺にとっては都合がいい。今の内に他の車両を助けに行こう。

 列車上にいる魔物が少なくなったところを見計らい、俺は前方の客車のドアを開けた。


「うっ──これは……」


 ドアを開けた途端、何十もの獣の視線が突き刺さる。

 客車内はヘルハウンドで埋め尽くされていた。


【人間の生体反応はありません】


 手遅れだったのか? それともまた別の車両に逃げただけなのか?

 それを確かめようにも、さらに先の車両に行くには目の前の獣の群れをなんとかしなければならない。

 しかし、俺の今持っている武器はゴム弾のライフル一丁だけ。魔物相手に非殺傷が目的の銃では心もとない。


「ひぃぃ~~……やっぱり中に避難しておればよかった~」


 マルがふらふらになりながら俺の元にやって来る。

 電撃を連続使用した疲労はあるようだが、ヘルハウンドの噛みつきでのダメージは特に受けていないようだ。ドラゴンの皮膚というのはつくづく頑丈に出来ているらしい。


【車両内の敵を一掃しなければ先に進めませんが、どうしますか?】

「任せろ、俺にいい考えがある」


 そう言って俺はマルの頭をわし掴みにする。


「は?」


 地球で暮らしていた頃、施設の老人に付き合って野球中継を見ていた時にひらめいた技。

 今ここで使わせてもらう。


「魔球サンダーボール1号!!」


 俺は適当に思いついた技名を叫びながら片足を高く上げ、大きく振りかぶって車両の中にマルを全力投球した。


「ほぎゃアアアァァァァァァァ────────ッ!!」


 マルは電撃を撒き散らしながら狭い客車の中を床、壁、天井とバウンドし、中のヘルハウンドを蹴散らしていく。

 球威が収まる頃には、中のモンスターは一匹残らず動かなくなっていた。


「よーし、ストライクだな」

【ボウリングの方だとは思いませんでした】





 静かになった車両に入ると、なぎ倒されたヘルハウンドたちに囲まれてマルが目を回して気絶していた。


「きゅぅ……」

「ちょっとやり過ぎたか」

【同じ手は使用できませんね】

「まあいい、俺にはまだ魔球2号がある」

【それは推奨できません】


 スリサズは自分の貼りついたリンゴを妙な手つきで握る俺に、目を点滅させながら警告する。


 マルを車両に残したまま、前方のドアを開けた。

 先頭車両の方はまだ追いつかれていないようで、前に行くほどヘルハウンドの数もまばらになっていった。

 運転士は客車の騒ぎに気づいていないのか、列車は機関部から元気よく煙を吐き出しながら走行を続けている。


「お、おい! 離せって!」

「ん?」


 何両目かに差しかかったところで、車両同士の連結部に人影が見えた。


「う……あぁぁ……助けて……」


 人影は男と女が一人ずつ。

 女が倒れた状態で男の足にしがみつき、男の方はそれを振り払おうともがいている。


「だから助けを呼んで来てやるって言ってんだろぉ~? ここにいたら俺もやべーんだよ!」


 女の方は足を負傷し、血を流していた。ヘルハウンドの牙で抉られ、歩けなくなったのだろう。

 男は早く近くの車両に避難したいようだ。本当に助けを呼んでくるつもりなのか、それとも自分だけ逃げるつもりなのかは知らないが。


「おい、大丈夫……」

「チッ──めんどくせェ~」


 俺が声をかけようとした時、男の雰囲気が変わった。

 舌打ちすると懐から何かを取り出し、女の額に突きつける。


 あの形状は──銃!?


「おい! 何してやがるッ!」


 ドウ──ッ!

 俺はゴム弾のライフルを発射し、男の持った拳銃を弾き飛ばした。


「うおっ!?」


 男が驚き、こちらを振り向いた。

 茶髪の優男風の容貌、どこかで見たことがある。たしかアマルトゥ──マルの母親をナンパしてた男だ。


「痛ってぇ……何すんだよ? おっさん」

「それはこっちの台詞だ。今、そこの女に何をしようとしていた?」

「……へぇ、そうかそうか。あんたは俺が今、()()()()()()()()()()見て分かったってわけだ」


 男は何かに納得したように数回頷くと、足元にしがみついていた女をもう片方の足で蹴り上げ、無理やり引き剥がす。


「貴様ッ!」


 目の前で行われた蛮行に、俺は思わず怒りの声を上げる。


「そんなに怒るなよ。異星人の一人や二人。どうってことないだろ?」

「異星人だと……? お前まさか……」


 男は軽薄な態度で言うと、弾き飛ばした銃を拾おうと後ずさる。銃は列車からは落ちず、連結部の床に転がっている。


「動くなッ!」


 俺は男を撃とうと再びライフルを向けた。


 カチッ──。

 しかし弾は発射されず、空撃ちの音が虚しく響く。


【弾切れです】


 このライフルは、元々ゲオルグの宇宙船から奪い取ってここまで持ってきた物。

 一度弾が切れては補充することはできない。


「くくく……ゴム弾の制圧銃ねぇ。そんなもん、この星にあるわけねーよな。それに、俺が女を撃ち殺そうとしたのを阻止したってことは、銃の知識もあるってことだ」


 男は悠々と歩き、弾き飛ばされた銃を拾い上げ、そのまま俺へ向けて構えた。


「そんな奴は一人しか知らねえ。見つけたぜ! 宇宙人ジョン・ドゥにSSS!」

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