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09 ゾンビ村

 翌日、俺たちは町を出て、なにもない街道を歩き続けていた。

 目的地は南の大陸へ行くための港町。そこへ向かう間も何ヵ所か立ち寄る町があるので、そこで仕事を探して船代を稼ぐのが今後の方針だ。


【酒場の店主の言うことが事実であれば、危険な南の海へ船を出すには通常よりも高額になることが予想されます。この地域の平均的な相場から試算すると、一人頭1000ゴールドが必要になると思われます】

「ということは全部で3000ゴールド必要なのだな……」

「人外は含まなくていいだろ」

「なに!? じゃあ我もタダで乗れるのか!?」

「いや、そういう意味じゃなくて」

【差別的発言は慎んでください。発言内容を過激な表現に置き換えてSNSに投稿しますよ】


 あーめんどくさい。


 言うまでもないことだが、必要な金は俺とマルの二人分で2000ゴールドである。

 やっぱりマルの角を一本ぐらい貰っておいて、正規の賞金を受けとるべきだったか。こいつが今の子ども姿になるのがもう少し遅ければ間に合ったのかもしれないが……


「そういえばお前、ドラゴンに戻ることはできないのか?」


 ダメ元で聞いてみる。

 飛んで海を越えられたら船代は俺一人分で済むし、俺を乗せて飛ぶことができれば船すら必要ないだろう。


「できたらお前らなんぞにくっついとらんわ。どこかの鉄の虫に電気を吸い取られたせいで今はなにもできんのだ」

「だよな」


 予想通りの答えだった。


【ミステイク・ドラゴンの種族は食物などから得た栄養を体内で電気に変換しているようです。電力で動いている物同士、親近感が湧きますね】

「機械なんかと一緒にするな。気持ち悪い」

【今の発言は録音して差別と爬虫類と単純労働者が大嫌いな団体に寄稿しておきましょう】

「親近感はどうした」


 やはり真面目に金を稼ぐしかないのか。

 俺は展望の見えない先行きの暗さに、思わずため息をついた。


「でもこうやって物を食ったり眠ったりすると少しずつ回復しておるのが分かるぞ」


 マルはそう言いながら,袋一杯に詰まった果物をガブガブと皮ごと頬張る。

 果物の山はスリサズが地図を投影したせいでまたも電力が切れそうだと言うので、町を出る前に買いこんでおいたものだ。

 ちなみにスリサズは今はグレープフルーツに張り付いている。


【それは私の電池用果物です。食べることは許可しません】

「は~ん? 電気泥棒がどの口で抜かすか。文句あるなら我から奪った電気を返せ」


 こんな調子で二人?は道中ずっといがみ合っていた。

 電気を食らう化物二匹を連れて旅をしている冒険者などこの世で俺一人であろう。



 次の町まで道なりに進んで行くと、小さな村が見えた。

 何軒かの建物を簡単な柵で囲んだだけの、素朴な村落だ。住める人間はせいぜい数十人といったところだろう。


「ちょうどいい、ここから町への距離でも聞いていくか」

【旅先で現地の方と積極的にコミュニケーションを取るのは好ましいことです。文明社会において失われた、古き良き価値観を教えてくれます】

「我はこういうなにもない所は嫌いじゃ」

【それも正常な感覚です。ド田舎のイモ野郎から学ぶことなどなに一つありません】

「どっちだよ」

【人類との対話を円滑に進めるための全肯定回路が誤作動したようです】


 いつにも増してムチャクチャを言っているスリサズを尻目に、俺は手近な民家の戸をコンコンと軽く叩いた。


「すいませーん。道を聞きたいんですけどー」


 ……返事はない。留守だろうか。

 外にいる人間に聞こうと辺りを見渡しても、出歩いている住民は一人もいなかった。

 それに農場のような敷地もあるが、畑は手入れされているようには見えず、牧場には鶏の一頭も見当たらない。


「おい、き、気味が悪いぞ。なんとかせんか」


 マルが震えた声で声をかけてくる。こいつ、このテの雰囲気が怖いタイプか。


「それはなんとかしようとしてできるもんじゃないだろ」

【ヒーリング効果のあるホソヒグラシの鳴き声を再生しましょうか】

「いらん、やめろ」


 その虫のことは知らんが逆効果になる予感しかない。

 それにしても、住民は近くの町に出稼ぎにでも行っているのか? 仕事のない小さな村ならよくあることだ。

 しかし、それでも女房や子供ぐらいは家にいるはずだし、家畜がいないのもおかしい。


「あのでかい家なら誰かいるのではないか?」


 マルの指さした先には、小高い丘の上に比較的大きな民家があった。


「たぶん村長の家だな」


 早速、丘を上って正面の戸を叩く。

 しかし、戸は建てつけが悪かったのか半開きになっており、俺はつんのめって家の中に入り込んでしまった。

 

「おっ、と失礼」


 俺は誰にともなく謝罪するが、よそ者を歓迎する声も、不法侵入を責め立てる声も聞こえてはこない。


「だ、誰もおらんのか?」


 マルもおそるおそる俺の後ろに付いて、キョロキョロと家の中を見回す。


「お前は外で待ってろ」

「ま、まて……! 我を一人にするな!」


 怯えているマルを家の中に踏み込むと、俺は狭い廊下を歩き、暖炉のある広い部屋のドアを開けた。

 中には、年老いた男が後ろを向いてイスに腰かけていた。禿げた頭の両側にはわずかに白髪が残っており、寝ているのか力なく頭を垂れている。


「なんだ。人が居るじゃないか」

【生体反応は感知できません】

「……なんだと?」


 ということは……

 俺は部屋に上がり込むと村長らしき男の肩を掴み、力任せにこちらを振り向かせた。


「うっ……これは」


 男は白目を剥き、半開きの口からはデロンと長い舌が垂れ下がっている。要するに、死人の顔だった。

 ここでなにがあった?


【机の上になにかがあります】


 スリサズが訝しむ俺に声をかけた。言う通りに机を見ると、書きかけの日記が置かれていた。

 よく見ると死体の手には羽ペンが握られており、書いてる途中で力尽きたようだった。


「これは……村長の日記か?」



雨の月3日

牧場のハンスが牛の肉を焼いてみんなに振る舞っていた。

あいつの育てる牛は不思議と一番うまく育つ。

なにか餌に珍しい草を食わせたって話だ。


雨の月7日

ハンスの牛を食ってから調子が悪い。

頭がボーッとして体が乾燥している。

当のハンスや村の皆も同じだ。


雨の月1 日

バドの気が狂ってハンスに噛みついタらしい。

あの草は例の魔大陸から持ち帰った掘り出し物だそうだ。

なニがはいッテいるカわかリャしなイのに。

ハンスノばかやろウ


 月 4日

墓にドロぼうがはい たヨうだ

シタイがゼンブなくな て タ

ダレデもい からイレなおサナ

いと


ム月 日

ラ も だメ

した

い おきる



「……おい、なんだこりゃあ」


 俺は日記の内容に絶句し、思わずスリサズに問いかける。


【現時点では情報が不足していますが、一つだけ確かなことがあります】

「なんだ?」


 ガタン!っと背後で物音がした。


【このような日記の近くに死体がある場合、起き上がり襲ってくる確率は99.7%です】

「だろうなッ!」


 俺は振り向きざまに剣を抜き放ち、両手を伸ばして襲い掛かってくる村長の首を斬り飛ばした。

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