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26 荒野の襲撃

「んぐんぐ……プハ~ッ、生き返った」


 積荷の中にあった水の入った樽に顔を突っ込み、中身を飲み下すマル。


「中にゲロ吐くなよ。本来なら街まで積んでいって売るものだろうからな」

「水なんてどこにでもあるであろう」

「綺麗な水は貴重なんだろ、多分」


 フィノの言う通り、俺の星で急速に文明が発達しているのなら、その分だけ自然破壊も進んでいるはずだ。

 俺たちの乗っている列車のようなデカい物を作れる工場がどこかにあるのなら、廃水や煙のせいで綺麗な水が入手しにくくなっているのかもしれない。現代社会の弊害ってやつだ。

 地球にいた頃もそういった話題はいくつも耳にしてきたし、それを何とかしようとして作られたのがスリサズなのだろう。

 結果は悲惨なことになったみたいだが。


「ところでお前はなんでここにおるのだ?」

「お前を探しに来てやったんだよ。最後尾まで移動しやがって。タダ乗りの分際で少しは遠慮しろ」

「ん? 最後尾? そんな所まで来ておったのか。いい匂いがする方向に歩いておったら食料の山があったので宝の隠し場所でも見つけたのかと」

「そんなわけあるか」


 こいつの話ぶりからすると、貨物の食料を堂々と盗み食いする気でいたようだ。

 早めに見つかって良かった。


「じゃあお前、何でここで倒れてたんだ? あのヘルハウンドはどこから来た?」

「腹ごしらえしておったらちょっと強い揺れがあってな。そしたら急に頭痛と吐き気がして今食っておるものが急に不味く感じるようになった」

「だからそれが乗り物酔いだろ」

「あの狼は後からやってきて、食い残しを漁っておった。我も一回噛みつかれたが他には何もされておらん。牙が通らぬと見て諦めたのだろう」


 ふふん、と得意げに胸を張る。

 こういう時にはドラゴンの頑丈さは得だな。


「まあいい。さっさと前の車両に戻るぞ。不可抗力とはいえ色々と積荷を拝借しちまったからな。見つかるとまずい」

「うーむ、酔いが治まったらまた腹が減ってきたぞ。最後にこの骨付き肉を……うげっ」


 俺は盗み食いを再開しようとするマルの首根っこを掴み、無理やり貨物車両の外まで引きずる。

 罪の意識がないのかこいつは。





 客車両に戻ると、なんだか乗客たちが騒がしい。

 全員が車両の右側に寄り、窓から外の景色を見て、何か口々に言い合っている。


「何かあったのか?」


 俺は手近にいた男に聞いてみた。


「あんたまだ見てないのかい? ほら、あれだよ」


 男は窓のそばからどいて、俺に外の景色を見せる。


「……なんだありゃ」

「おい、我にも見せるのだ」


 せっつくマルの頭を押さえながら、窓の外に目を凝らす。

 少し離れた場所で砂煙が舞っている。

 それだけならば特におかしいところはないのだが、その砂煙は、走っている列車から遠ざかることなく、並走するようにピッタリとついて来ていた。

 いや、むしろ徐々にこちらに近づいているように見える。


 ドドドドドドドドドドドド──。

 砂煙が近づくにつれ、砂塵を巻き起こしている原因がうっすらと見えてきた。

 何か四本足の生き物が、大地を踏み鳴らし列車を追いかけている。


「あれは……ヘルハウンドか?」


 先ほど俺が倒した狼型のモンスターが、群れをなして荒野を疾走している。

 その数はおそらく100以上。数えきれないほどの大群だった。

 俺が倒したあれは、この群れから離れて乗り込んできたのか。

 ……とすると、まずい。


「みんな窓から離れろ!」


 ガシャァンッ!

 群れの一匹が窓ガラスを突き破り、すぐそばにいた男の首に食らいついた。

 喉笛を食いちぎられた野次馬の男は、血の泡を吹いて倒れる。


「キャアアアァァッ――!」


 それを見た他の乗客たちはパニックになり、狭い車両を蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「くそっ!」


 俺はゴム弾のライフルを逆さに持ち、ヘルハウンドの頭を銃把(グリップ)の部分で殴り飛ばした。

 しかし、さらに群れの中から二匹、三匹と列車内へ飛び込んでくる。


「ジョン! 大変だ! 列車がモンスターに襲われてる!」


 前の車両からフィノが駆け込んできた。

 この状況を見て俺たちを探しにきたのだろう。


「もう知ってる……ってことは他の車両でも同じか」

【あの大群の生体反応は、私のセンサーに反応することなく突然列車の付近に現れました。何もない空間から突然現れたように、です】


 フィノが持ってきた、腐りかけのリンゴに張り付いているスリサズが言う。


「どういうことだ?」

「おそらくこの近くでダーク・ゾーンが発生した、ということじゃないか」


 スリサズの説明を、フィノが引き継ぐ形で俺に答える。


「ダーク・ゾーンだと? アダムが死んで魔物はいなくなったんじゃないのか?」

「分からない。ただ、ダーク・ゾーンの(ゲート)から現れるモンスターには女王バチのようなボスになる存在がいて、以前の魔大陸で発生した門ではそれが魔王、つまりアダムだったはずだ。アダムが倒れた以上、その時の門は閉じているはずなんだ」


 ということは、またアダムのような存在がこの星に現れた?

 冗談じゃないぞ――。


「ガァッ!」


 嫌な想像をしているところにヘルハウンドの一匹が飛びかかり、俺は現実に引き戻される。


「“フレア・ガン”!」


 フィノの魔法――もとい手首に装着した小型兵器から生み出された火球がヘルハウンドの身体を燃やし、窓の外に弾き飛ばした。


「まずはこいつらを何とかしなきゃね」

「ま、そうだな!」


 俺は応じるように近くの一匹を窓の外へ殴り飛ばした。


「全員、窓を荷物や座席で塞げ! 俺たちがこいつらを片付けるまでドアに鍵をかけて籠城するんだ!」


 車両からヘルハウンドがいなくなったことを確認してから、パニックに陥っている乗客に檄を飛ばす。


「俺は他の車両を見てくる。フィノはここで乗客の援護だ。スリサズは俺が持っていく」

「じゃ、我も中に避難しておるからこの辺で……」


 どさくさに紛れて客と一緒に車両に閉じこもろうとするマルを俺は無理やり引きずり出す。


「ギャーッ! やめろー! 牙が通らんからって痛いもんは痛いんだぞ!」

「お前以外は痛いだけじゃすまないんだよ。戦う気がないなら盾にでもなってろ」


 故郷の星に帰って来て早々、再び戦闘が始まった。

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