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25 車両探検

「……で、当のマルの奴はどこに行ったんだ?」


 アマルトゥが去ってからしばらく経った後も、一向にマルが戻って来ることはなかった。

 一応母親が来たわけだし、知らせておいた方がいいと思うのだが。


「他の車両で探検でもしてるんじゃないかな」

【猫に席を取られたのがよっぽど悔しかったのでしょうか。ショックで列車から身を投げていなければ良いのですが】

「また物騒なことを……いや、あの馬鹿ならやりかねんな」


 そもそも疾走する列車から飛び降りたぐらいで死ぬようなタマではないだろうが、その辺をフラフラして転落でもされたら回収に戻るのが面倒だ。


「仕方ない、ちょっと探してくるか。確か後ろの車両に走っていったよな?」

「それじゃ私たちはここで待ってるよ。ひょっこり戻って来るかもしれないからね」

【ついでに私の張り付いているリンゴが乾燥してきたので交換していただけますか。これだけ大きな列車なら車内販売があるかもしれません】

「知るか」


 俺は言い捨てるとフィノとスリサズを残して後部車両へ歩き出した。

 座っている間は気づかなかったが、立ち上がって歩いてみると列車の走行中は思ったより揺れが強く、気を抜くとバランスを崩しそうになる。線路の造りが荒いのか、列車の車輪と綺麗に噛み合っていないようだ。

 この辺りはやはり地球との技術力の差を感じる。

 マルがこの振動で本当に落っこちてなければいいのだが。


「……この車両にもいないか。あいつ、どこまで行ったんだ?」


 二両目、三両目と各車両の座席を見て回るが、マルの姿はない。

 他の乗客もいる手前、隅々まで探すことまではできないが、ざっと見て隠れられそうな場所も見当たらなかった。

 そして四両目に差しかかった時、今までの装飾がかった車両から一転、殺風景な空間が目の前に現れた。

 車両の中には飾り気のない壁に最低限の窓とたいまつの明かり、そして通路と言えるかも怪しいようなわずかな隙間を残して、大小の木箱が所狭しと積み上げられている。


「ここからは貨物車両か」


 木箱から蓋をずらし中を覗くと、パンや野菜、衣料品など様々な物資が入っている。

 おそらく列車を使って輸送を行っているのだろう。

 マルがここまで来たとすると、どこかに隠れて盗み食いでもしているのかもしれない。


「おいアホ竜! 面倒かけてないでいい加減に出てこい!」


 ガタッ――。

 俺の叫ぶ声に反応したのか、奥の方から物音がした。

 音のした方に近づいていくと、ひっくり返った木箱を黒い影が漁っているのが見える。

 明かりが小さくてよくは見えないが、ガリゴリと何かをかじっている音も聞こえた。

 それみろ、やはり思った通りだ。

 被害が拡大しない内にさっさと捕まえてやるか。


「マル。馬鹿なことやってないで戻るぞ。おとなしく客車で座ってろ――ん?」


 俺は無遠慮に黒い影の頭を掴み取り、こちらに引き寄せる。

 しかし――。


「グルルルル……」

「――なにッ!?」


 俺の掴んだ頭はマルのものではなかった。

 黄色く濁った瞳孔にむき出しになった牙。

 野良犬……いや、こいつはモンスター、ヘルハウンドだ。


「ガァッ!!」


 食事の邪魔をされた狼の魔物は掴んでいた手を振りほどき、俺の腕にその牙を突き立てた。


「ぐっ!」


 不意を突かれた俺は後ろに倒れ込みながらも腹に蹴りを入れ、食らいついた牙を無理やり引き剥がす。

 牙が抜けた二の腕からは肉が裂け、血が噴き出した。


「ギャウッ!」


 蹴りを受けたヘルハウンドは床に転がりながらも、すぐさま態勢を立て直し飛びかかってくる。


「くそッ!」


 俺は蹴りを入れた勢いでその場から飛び退くと同時に、腰に下げたゴム弾の銃を構え引き金を引く。

 ドウッ――!


「ギャンッ!」


 短い悲鳴の後、ヘルハウンドは痙攣して倒れ込み、そのまま動かなくなった。

 しかしゴム弾では気絶させただけだろう。

 モンスター相手に殺さないよう気を使う必要はないのだが、今は他に武器がない。


「ふぅ……なんだってんだ?」


 魔王――アダムが死んで、モンスターはおとなしくなったはずじゃないのか?

 単に食料の匂いに釣られてどこからか潜りこんだのか?

 マルの奴は結局どこへ行った?

 ……いや、それよりもまずは噛みつかれた腕の処置をしたい。

 貨物の中に包帯や医薬品はあっただろうか。無ければ衣類の布でもちぎって巻いておくとするか。


「う……うぅ……」


 腕の傷をどう処置したものか考えていると、木箱からひっくり返され、床にぶちまけられた食料の山の中から聞き慣れた声がした。


「マルか?」


 食料の山をかき分けると、力なく倒れているマルを発見した。

 外傷は見当たらないが、顔は土気色で生気がなく、ぐったりとしている。

 さっきのヘルハウンドに襲われたのだろうか。


「おい、しっかりしろ。どこをやられた?」


 頬を軽く叩きながら呼びかける。

 マルは虚ろな目でこちらを見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「き……」

「き?」

「き……きもちわるい……」


 マルの半開きの口からは吐しゃ物が流れ出していた。

 こいつ、そういえばドラゴンのくせに乗り物酔いするんだったな。

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