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22 文明の加速

「君が消えた直後の話をしておこうか」


 木々に覆われた山の斜面を下りながら、フィノが俺に話しかけた。


「王国ではしばらくお祭り騒ぎだったよ。何せ魔王が倒れたんだからね」

「正確には本物の魔王はとっくに死んでいて、アダムが成り代わってたんだが」

「それを伝えたところで誰も理解しないさ。私も異星の混乱に地球人が関わってたなんて、あまり広めたくなかったんでね」

「ま、それもそうか」


 この星の人間は、まだ地球の存在を知らない。

 そもそもこの空の向こうに宇宙があって、俺たちと同じように生物が住む星があるということすら知らないのだから、身分を偽っていたフィノが、「実は魔王は異星人でした」、「私も魔王と同じ星から来ました」などとカミングアウトしたところでお互いに得をすることは何も無い。

 頭がおかしくなったと思われるか、信じられたところで人々の祝福ムードに水を差すだけだ。


「アダムは君が倒したのに、勇者様ご一行のお手柄になってしまったみたいだけどね」

「手柄なんて生きてる奴がもらえばいいんだ」


 俺はこの星では死んだも同然の人間だ。

 こうして生きて帰って来れたのも、あり得ない偶然の積み重ねによるものだった。

 だから、あの戦いがどのように伝わっていようが文句を言うつもりはない。

 “勇者が魔王を倒した”。

 それが誰もが簡単に理解し、納得される事実だ。


「そういえばリュートたちはどうなった?」


 戦いの後、そのまま地球に転送されてしまった俺には、戦場に残った連中のその後は分からない。

 負けはしていないと思うが、それでも熾烈な戦いで全員が負傷していたはずだ。

 勝ったとしても無事に凱旋することができたのかは疑問が残る。


「大丈夫。君の仲間はみんな無事だよ」

「我らドラゴンの一族が加勢してやったおかげだぞ。感謝するがよい」


 俺とフィノの会話に、マルが口を挟む。


「お前が呼んだわけじゃないだろ」

「おかげで助かったのはたしかだけどね。私もまさか、アダムが戦闘ヘリまで持ち出してくるとは思わなかった」

「空飛ぶ鉄の箱か。あれはなかなかに凄まじいものだったな。我の兄弟も何体かやられてしまった。ま、昔から我をいじめていた奴らだったし、一族の中での我の地位も上がったからむしろ喜ばしいことであるがな。ワハハハ」

「ずいぶんと殺伐とした家族関係だな」


 マルの母親と話した時もそうだったが、どうもドラゴンの価値観というのは人間には理解し難い面があるようだ。


【警告。この先で大気汚染の深刻な地帯が検出されました。主な物質は二酸化炭素です】


 話をしながらしばらく山を下り続け、斜面がなだらかになった頃、スリサズが妙なことを言い出した。


「大気汚染だと?」


 言われてみれば、何かを燃やした時の煙のような臭いがする。

 まさか山火事でも起きているのか?


「ああ、これも言っておかなきゃならないんだけど」


 思い出したようにフィノが軽く手を叩いた。


「アダムは地球から大量の兵器を持ち込んでモンスターの兵隊に持たせてたよね?」

「それがどうかしたのか?」

「SSSがシステムを停止したから銃火器として使うことはできなくなったけど、それらの兵器はこの星ではまだ発見されていない、未知の金属や技術の塊みたいなものだ。そんな物がそこら中に放置されていたらどうなると思う?」


 フィノが何を言いたいのか、今一つ話が見えてこない。

 スリサズの言う大気汚染と何か関係があるのだろうか。


「おわっ!」


 マルが何かにつまづいて、前転するように大げさに転ぶ。


「おいおい、気をつけろよ。木の根か何か出っ張ってるかもしれないからな」

「ジョン、木じゃないぞ。地面をよく見てみろ」


 フィノが指さした先にあったのは、くすんで赤茶色に変色した金属のレール。

 それが二本、平行して地面を這うようにどこまでも続いていた。


「さっきの話の続きだけど、魔王がいなくなって平和になったってことで、魔大陸も再び人が住めるように開拓が進められるようになったんだ。開拓者の中には、アダムが遺した兵器群を拾い集めて商売を始める者もいた。溶かして地金にしたり、バラバラに分解して部品だけ取り出したりしてね。――で、ああいう物が作られるようになった」


 ボォーーーー――――。

 黒い煙を吐き出しながら、二本のレールの上を走る大型の乗物。

 蒸気機関車が俺たちの側を横切っていった。

 大気汚染とやらの正体はこれのようだ。


「……なんであんなものがある?」


 俺は地球で同じような乗物――電車に乗ったことがある。

 線路の上を疾走するスピードと、何百人も一度に運ぶパワーには驚かされたものだ。

 だからこそ、故郷の星にそんなものがあるとは信じられなかった。

 俺がアダムを倒して地球に転送されてからこの星に戻って来るまで、まだそう何年も経っていないはずだ。

 その間に多少、技術の進歩があったとしても、地球の文明に追いつけるとは到底思えない。


【オーバーテクノロジーに触れることで本来の科学史から外れ、中世から産業革命時代に急速に移行したようですね】

「こういうことがあるから、安易に異星人に地球の技術をひけらかすのは良くないんだ。アダムはそんなこと考慮してなかっただろうけど」

「じゃあお前らのせいで様変わりしちまったってことか」


 まったく、アダムといいこいつらといい、人の星に上がりこんで歴史まで好き勝手に弄り倒しやがって……地球人め。


「まあまあ、便利になった分はいいじゃないか。鉄道があるならどこかに駅があるはずだ。アダムの死体を探すのにも有効に活用させてもらうとしよう」

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